リボツナ2 | ナノ



9.




雨に濡れたせいでか、またも風邪をひき込んでベッドの住人になること2日。
38℃を越えていた熱も引き、今日は平熱に戻っていた。
何故かりんご剥き競争になってしまった自室で、山本が意外と包丁さばきが上手なことを発見した。

「…上手なんだけどさ、何で包丁じゃなくて刀なの?それからその刀はどこから持ってきたの?」

「ん?ああ、うちからだぜ!すげーだろ?」

「うん、色んな意味でね。」

綺麗にウサギの形に切られたりんごを頬張っている横で、獄寺くんと黒川が2人で必死に皮を剥いている。
京子ちゃんは普通に皮を剥いて食べやすい大きさに切り分けてあるのに、この2人はまだ…というかまだまだ皮が半分は残っている。

「獄寺くん、黒川、オレもうりんご食べれないから剥いてくれなくていいよ。」

「んな!オレも沢田さんにりんご食べて欲しいっス!」

「なによ。あたしの剥いたりんごが食べれないとでも言う気?!」

「…ありがとう。待ってるからゆっくり剥いて。」

どうしても食べさせたいらしい。もう2つも剥いてあるから食べられないんだけど。
山本と京子ちゃんの剥いたりんごを2人の口に入れて量を減らしていると、山本が口を開けて待っていた。うん?どうして。

「ツナ、オレにもな!」

「いやいやいや!手が空いてるなら自分で食べてよ。」

「ツナ君、私にもちょうだい。」

「…。」

フォークでうさぎりんごを刺して京子ちゃんの口に持っていく。するとパクリと食むのですぐに手を離す。ドキドキするよな。やっぱり可愛いし。
顔を赤くしていると、今度は山本が手を引いて口を開けていた。同じようにりんごを口に入れる。
そうこうしている内に獄寺くんがもっと下さいと言いはじめ、黒川も早くちょうだいと催促し始めた。

「ったく、オレの風邪移っても知らないからね。」

「沢田さんの風邪なら頂きます!」

「オレはバカだから風邪ひかないのな。」

「違うでしょ、沢田がひいたってことはバカがひく風邪なんじゃない?」

「容赦ないね、黒川は…」

げっそり肩を落としていると、京子ちゃんがくすくすと笑っていることに気付いた。

黒川と京子ちゃんがお見舞いに来てくれたのはどうやら全校生徒を巻き込んでの賭けの対象にされていたことを知った雲雀さんが親を見つけて晒し、賭けに興じていた生徒たちを次々と噛み殺していった結果、その話を持ち出すことすら出来なくなって賭けが下火になったことのお礼も兼ねてらしい。
でも、オレは何もしてないからお礼なら雲雀さんに言うべきなんだけど…ムリだよな。
登校できるようになったら、放課後どころか昼休みまでお茶の支度をしに行く羽目になりそうだけど。

それでも京子ちゃんが笑っていられるようになったのならばよかったと思う。
穏やかな京子ちゃんの表情を見ていると、今度は心配そうに顔を曇らせてオレの顔を覗き込んできた。

「…リボーン君は、お見舞いに来てくれた?」

「う、うん。昨日ね。」

昨日は39℃も熱があって、薬を服用していたからほとんど意識がなかった。母さんから聞いて、リボーンが来たということを知ったくらいだ。

「あのさ…本当は言うんじゃないって言われたんだけど。賭けの親を見つけたの、リボーンなんだ。」

りんごの皮を剥きながら、黒川がぽつりと漏らす。
先ほどの話だと雲雀さんが血祭りにあげていって吊し上げたらしいことを言っていたのに。
目を瞠るとその先で黒川が言い難そうに呟いた。

「京子も迷惑してたじゃない?だからあたし、許せなくってさ。…クラスのヤツがその話してたの聞いて、止めるように喧嘩してたのよ。そうしたら……」

その先は大体分かる。
大声で喧嘩しているところを聞きつけたリボーンが、そいつらを物理的に黙らせたんだろうなということは。

「ソイツが沢田がカマっぽいとか言い出したもんだから手が付けられなくて…参ったわ。」

苦笑いしている黒川に、どんな顔をすればいいのか分からなくなった。
カマっぽいと影口を叩かれて怒ればいいのか、それに怒ったリボーンに感謝すればいいのか。
複雑過ぎる。
半笑いみたいな顔をしていると、京子ちゃんがそろそろ帰ろうかと言い出した。
黒川は半分剥けたりんごのままオレに寄越すと、京子ちゃんと帰っていった。

「オレたちも帰るか!」

「煩ぇ、てめーに言われなくてもそう思ってたところだっつーの!それじゃ、沢田さんまた明日!」

「へ?ああ…うん。またね。」

みんな何かあるのだろうか。
4人とも帰ってしまった部屋にはりんごの甘い香りと、剥きかけのまま放置されているりんごが赤い皮をつけてぽつんと置いてきぼりにされている。

さんざん騒がしくしていってくれたのに、いきなり一人になって寂しくなってきた。
いつもは先ほどまでいた獄寺くんや山本、そしてリボーンが横にいて煩いしうっとおしいくらいだったのに。
やっぱり病気になっていると気持ちまで弱くなってくるのか。

ベッドへ倒れ込み、ごろりと転がると枕の下に手を入れる。
そこから抜き出して手にした携帯をまた眺めた。

声が聞きたいとか思ったのは初めてだ。
そう思う間もなく横にいて、ちょっかいを掛けては最後はお茶を濁されていた。
大体、あのアピールの仕方で分かれという方が無理だと思う。
できれば直接会って話をしたい。
だけど、今は声が聞きたかった。

着信履歴の大半を占めている名前に指を滑らせて、押そうと思うのに押せなかった。
何度も繰り返している動作。
いつも掛けてくるのはリボーンからで、他愛のない連絡をさも重要なことのように告げてくる。オレからの電話なんて滅多にないから何を話せばいいのかさえ分からない。
それでも聞きたくて、少しだけだと決めて通話ボタンを押した。

握りしめる携帯から聞こえる呼び出し音に、胸をドキドキさせて、何を話そうかと考えてみる。
昨日来てくれたらしいからそのお礼がてらでいいかと思っていると。

『もしもし?どうした?』

訝しげな声にドキリと胸が鳴って、咄嗟に声が出てこない。
しゃべらなきゃと声を出そうと口を開けた瞬間に、携帯から聞こえてきた声に言葉が出なくなった。
女の子の声だ。
どうしたの〜?はやく〜。と甘えた口調で急かす声に思わず何も言わずに切のボタンを押していた。

ツーツーツーと聞こえる音に、やっと今の状況が掴めた。
とりあえず電源を切っておく。かかってきても取りたくないし、かかってこなかったらと思うとどうにかなりそうだった。

すごくモテるリボーンがフリーだと分かれば、女の子が放っておかないだろうとは思っていたけど。
でも女の子たちと遊ぶことはないとどこかで鷹を括っていた。
オレの方が大事にされていると。

話をして、また元の大切な幼馴染みに戻りたいと思っていたのに、それも叶わないらしい。
部屋に広がる甘いりんごの香りに胸を塞がれて、息苦しくて涙が零れた。

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