リボツナ2 | ナノ



5.





母さんが再婚して一番変わったのは住む場所だけど、それ以外にも色々と様変わりしたこともある。中学から高校へと進学したのもそうだ。
でも変わらないのは母さんはまだ働いていること。

共働き夫婦のよくある姿だと思うんだけど、夜の7時過ぎにならないとどちらも帰ってこない。悪ければ父さんは帰ってこないこともあるし、母さんも10時を過ぎることもある。
最近の雇用情勢の悪化に伴ううんたらで、パートやアルバイトをことごとくカットする会社で働いているらしい両親はとかく夜は遅くなりがちだった。

オレやリボーンが高校生だということもあるらしい。
大学に行かせたいのよと母さんは笑っていたけど、オレバカだから行きたくない…とも言えなかった。
少なくとも義理の兄であるリボーンは楽勝だろう。

そうなると、忙しい母さんに代わりオレが台所に立つことが当たり前だった昔の流れで、今も母さんがいない日の夕飯はオレが作っていた。
材料と献立は母さんが1週間分組み立てているので、それを見て作っていくのも慣れたもの。
今日は和風ロールキャベツにこんにゃくのピリ辛炒め、菜の花の胡麻和えと昨日の残りの里芋を味噌汁に入れる。

一通り作り終えると7時を少し過ぎていた。
キッチンから顔を出して、2階の自室にいるリボーンに声を掛ける。

「メシ出来たよ!」

越してきてから母さんの居ない日はオレが作っていて、それももうかれこれ2週間ほどになる。
リボーンも父さんもオレの手料理に慣れたのか残さず食べてくれるのは嬉しい。だって男の手料理なんてご免だとか言われたらどうしようって思ってさ。それも杞憂だったけど。
そういった意味でも部活に入ることはできないし、両立する根性もないので獄寺くんと一緒に帰宅組となった。

呼ばれて降りてきたリボーンが席に着いたのを確認してからご飯をよそって、味噌汁もお椀につける。
母さんと兼用のエプロンを外して並べると、手を合わせてふたり揃って食べ始めた。
会話らしい会話もないけど、前は独りきりだった食事が今は二人だというだけで作り甲斐があった。文句を言うでもなくすべて平らげてくれるから尚更だ。

「…あのさ、嫌いな物あったら遠慮なく言っていいよ。ムリして食べる必要ないし。」

「いや、食べれねぇもんはない。強いて言やあ鰯や鯖が生臭くて美味いと思えなかったが、ツナの作る献立は美味いからそれもなくなった。」

「あ…昨日の?」

そういえば、昨日の献立は鯖のトマト煮だった。珍しく箸をつけることに躊躇っていたかと思えば実は苦手だったのか。でもその後は普通に食べ切っていたので気が付かなかった。
鰯や鯖は安くて栄養価の高い魚なので、どこの家庭でも頻繁におかずとして食卓にあがると思う。それが苦手だったということは、母親の手料理はほとんど食べていないんじゃないんじゃないのか。
死別だったと聞いたんだけど、いくつでとか何の病気でとかは聞いていなかった。知りたいなとふと芽生えた気持ちに自分で驚く。
そんな気持ちの変化に気付く訳もないリボーンが、ボソリと小さく呟いた。

「つくづく残念だ…」

「…へ?…なんの話?」

「いや、こっちの話だ。気にすんな。」

気にするなと言われて、気にしないヤツは居ないと思う。何だよ…と咀嚼しきれないこんにゃくをむぐむぐさせながら目の前のリボーンを眺める。
同じようにこちらを眺めていたリボーンと視線がかち合って、その瞳がいつものからかいを含んだ色ではないことだけは分かるのに、その意味が分からなくてそれを知りたいと思った。

義理とはいえ兄弟なのに、まったくの謎なままのリボーンの正体をほんのちょっとでもいいから知りたい。皮肉や当てこすりを言うくせに、困ったことがあれば助けてくれて、でもみんなには恐れられている。何がそんなに怖いのかそれも知りたい。日々増え続ける知りたい欲求は膨らんではちきれんばかりだ。
訊ねれば教えてくれるだろうか?

どうやって訊ねればいいのか、そのタイミングを計っているとリボーンが箸を置いてその手をオレの方へと伸ばしてきた。醤油だろうか…?慌てて食卓の上に視線を彷徨わせていると、リボーンの指が頬の横でピタリと止まった。
携帯の着信音が、しーんとしたキッチンに響き渡る。

「チッ、悪ぃすぐ戻る…」

鋭い舌打ちの後、携帯片手にキッチンから出て行ったリボーンの背中を見詰めて今の仕草を思い出した。
ゆっくりと伸びてきた手の大きさと白さにびっくりして、ただぼんやりとしていたけど、あれってあのまま携帯が鳴らなければリボーンの指は間違いなくオレの頬へと触れていた。
左頬を擦って米粒が付いていないことを確認するも、そうするとあの仕草の意味が分からない。
また一つ知りたいことが増えて、それをされるとオレの心臓が不思議な動きをすることは分かった。

気を取り直してロールキャベツを口に含んでいると、すぐに戻ってきたリボーンが慌しく食事を済ませて席を立つ。
訊ねることは諦めたけど、どこに行くのかは聞きたかった。
ここに越してきてから、週に3〜4日は夜にアルバイトだと出掛けていっていた。
最初はコンビニかと思っていたが、昨日…じゃない、今朝方にトイレに起きたオレは午前様で帰ってきたリボーンの酒臭さを知ってしまったからだ。

「リボーン、バイトってひょっとして…」

「てめぇが気にすることじゃねぇ。危ないこともしてねぇし、人使って何かしてる訳でもねぇから安心しろ。」

ピシャリと間髪入れずに言い切られてしまい、返す言葉が見当たらなかった。
それをよしとしたのか、イイ子で寝とけよと言うと出掛ける支度をしに部屋へと上がっていってしまった。
だからといって、オレは諦めた訳じゃない。
知りたいんだ。リボーンが何をしているのか、何を考えているのか。
だから…



派手ではないが地味にもなりきれないスーツ姿で家を出たリボーンの後を、帽子に眼鏡といういかにもなアイテムで顔を隠して後をつけた。

ある程度の距離だとバレるだろうと思い、かなり遠くからつけていたのだが夜目にも分かるほど人目を惹くリボーンなのでどうにか迷子になることなく付いていけた。
そうして付いていった先は。

「嘘だろ…」

ネオン瞬く大人の街。欲望と金が渦巻く世界だと思っていたのに。
リボーンが足を踏み入れた先は、これからが開店時間なのだろうまだ灯りもろくろく点いていない店内だけれど、それと分かる看板が掲げられている夜の店だった。


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