7.二の腕を掴まれて、クラスメイトが固まっている教室から抜け出した。 もう始業の時間ぎりぎりで、オレたちの他に廊下を歩く生徒の影さえ見えない。 クラス担任がこちらを見つけてぎくりとした顔をしていたが、注意は飛んでこなかった。 引っ張る腕の力は強くて、握られているところは痛いけど、本当に怒っているのだろうか? 教室で見た顔は迫力満点だったが、思い返すにこいつに本気で怒られたことなどなかった。だからだろうか、前を歩く後姿を見ても怒っているようには感じない。 手荒く開けられた屋上の扉が、錆び付いた音を立てて閉まっていく。 見上げる空は今にも泣きそうな曇り空になっていた。 登校していた時にはまだ晴れ間も出ていたのに。 ゆっくりと振り返ったリボーンは、やはり怒ってはいなくて、でも見たこともない顔をしていた。 「どうしたらいいか分からねーんだろ?」 「うん…」 昨日のことを聞かれるかと思っていたのに、全然違うことを言い始める。 ふとリボーンが零した笑みが、あまりに弱々しくてびっくりする。 誤解されたと気付いたのに思うように言葉が出なかった。 京子ちゃんには伝える気持ちがはっきりしていた。けど、こいつに伝えたい気持ちはいまだ曖昧なままで形になっていない。 「あこがれの京子ちゃん、だっけな?」 「そうだけど、違うよ!付き合いたいとかじゃない!」 意外にはっきりと否定したオレを見て、少し驚いた顔でこちらを見詰める。 分かって欲しくて大きな声を上げたけど、それだけじゃ伝えきれないことも知っていた。 リボーンの手が跳ねまくりの髪をかき回していく。そのまま手を首の後ろへ回すと小さな金属の音がして首から体温を分けて暖められていたネックレスが取り外されていった。 チャリと微かな音と目の前にある外された指輪と。 遠ざかるそれらを呆然と見詰めて、首から外された無機質の鎖に体温を奪われたように身動ぎひとつできなかった。 「預かっとく。きちんと考えてやれよ。」 ガチャンと扉が閉まる音がして、やっと目の前にリボーンがいなくなったことに気が付いた。 ずるずると膝から崩れて座り込む。 頬を掠る風に小粒の雨が混じってきていた。 . |