リボツナ2 | ナノ



5.




ノックは3回。それ以下でもそれ以上でもトンファーが扉を破って飛んでくる。
入学当初は知らなくて、最初の遅刻のときには2回のノックで返事がなかったので、また2回ノックしたら応接室の扉を破ってきたトンファーに顔面を強打されたこともあったな…。
っと、それどころじゃない。

「沢田綱吉です。失礼します。」

雲雀さんは返事などしない。お付の風紀委員が一人、雲雀さんの後ろに控えていて副委員だそうなのだがいつ見ても見事なリーゼント頭だ。
それに見蕩れていてはいけない。ソファに座る雲雀さんに慌てて頭を下げる。

「今日はちゃんと一人で来たんだ。」

「…。」

最初にこの部屋に入った時、心配した獄寺くんと山本が付いて来てくれたのだが3人以上は群れとみなす雲雀さんに2人はボコボコにされてしまった。ちなみにオレだけボコられなかったのは、先に飛んできたトンファーで撃沈していたからだと思う。
それからは遅刻をしないことと、ここには2人を連れてこないことだけは守っている。
なのに今日はあまりの風圧に服装が乱れてしまっていたのを見咎められた。
間に合ったのに最悪だ。

顔を上げられずに頭を下げたままでいると、ちょいちょいと手招きされた。
恐る恐る近寄ってソファの横にいくと、紅茶セットを指差している。

「…淹れればいいんですか?」

「そうだよ。君、ダメツナのわりに紅茶淹れるの上手だからね。」

ダメツナ。よく人のあだ名まで把握しているものだ。ひでぇとは思ったが、絶対に口に出してはいけないのでしぶしぶ茶器を手に支度を始める。
オレの淹れる紅茶が気に入っているようで、何度かこうして淹れさせられていた。

「今日は何にしますか?」

茶園から直接仕入れしている紅茶を常時数種類は用意してある。あまりに美味しいのでちょっと分けて貰ったりしているのだが、それを言うと大抵の人はあの雲雀さんがと慄く。
いや、気持ちは分かるよ。

「そうだね…今日はアッサムにして。途中でミルクティーにするから、その用意もしておいて。」

「はい。」

ヤカンから湯気が出たので蓋を取って確認する。500円玉くらいの気泡がぽこぽこ出始めたら火から外して、用意してあるティーポットに注ぐ。すぐに蓋をしてティーコージーを被せ、4〜5分置く。
牛乳はミルクパンに注いで火にかけ、縁に小さい泡が立ったらすぐに止める。
何をやってもダメなオレだけど、こういうものだけは人並みには出来る。
茶葉が開くのを待つ間、茶菓子の用意も済ませておく。
焼き菓子が出ているところをみると、これを出せということだろうか。

ポットと茶菓子を手にソファの前に立つと、横に座れと手招きされた。

「……何ですか?」

「何。ダメツナのくせに逆らうの?」

「いいえ!滅相もない!!」

トンファー持って脅しながら言わないで下さいよ。
隅に腰掛けると気に入らなかったようで目線で脅される。しぶしぶ近寄ってサーブすると満足気に紅茶に口をつけはじめた。
横に座らされたんだからとオレも口をつけていると、カップを置いた雲雀さんが意味深長な視線を寄越す。
居心地が悪い。この視線はクラスの連中と一緒だ。

「で、君はどっちにするの?」

ブブーッ!

躊躇うとか含ませるとか、まどろっこしい言い方などしない雲雀さんらしい尋ね方だ。だからと言ってそれでいい訳じゃないんですからね!
咳き込んだ拍子に少し気管に入った紅茶がしみる。怖いので視線も合わせずにいると再度問われた。

「どっち?」

「……男は嫌です。」

「ふうん。じゃあ笹川京子と付き合うの。」

「それは…。」

言葉に詰まった。どちらかと言われたけど、どちらとも付き合うなんて考えられない。大体、京子ちゃんはみんなのあこがれだ。付き合うとか想像もつかない。
リボーンは…。

「幼馴染みの彼から指輪貰ってるんじゃないの。」

ゴッホ、ゴッホ。

今度はフィナンシェを齧っている時だったので、それが喉につかえた。
どうしてそんなことまで知っているのだろうと、こっそり雲雀さんを盗み見るとばっちり視線がかち合った。
いつものように表情のない顔でつまらなそうに口を開く。

「どうして知ってるかって?言いに来たんだよ、わざわざ平委員をなぎ倒してね。」

「な…あのバカ!」

「他にも笹川了平や、シャマル、忠犬2匹に隣町の変態パイナップルにまで言いに行ってたよ。」

頭が痛くなってきた。こめかみを揉んでいると横の雲雀さんがカップを差し出してきた。
はいはい、おかわりですね。今度はミルクティーですか?
カップに先にミルクを入れて、少し濃い目に淹れた紅茶を注ぐ。
カップを口許にもっていくと香りを確かめてから口に含む。
猫のように目を細める表情は、満足といったところだろうか。

自分にもミルクティーを淹れて口をつけた。
喉につかえていたフィナンシェごと飲み込むと、今度は照れが湧いてきた。

ああもう!どうしてそんなこと言いふらすんだよ。恥ずかしいヤツだな!
顔を赤くして心の中で悪態を吐いていると、雲雀さんは飲み切ったカップをソーサーに置いて席を立つ。

「何、本当は彼の方が好きなんじゃない。」

「ちが…!」

「違わない。嫌なら誤解は解いていく筈なのに、いい訳しないし。」

「だって…貰ったのは本当ですし…」

「迷惑なら返せばいいじゃない。」

「返品不可なんです!」

そこは誤解のないように言っておかないと!
でも、雲雀さんは違うように解釈したらしい。
じっとこちらを見ていたと思ったら、執務机に向かいそこから何かを放り投げた。

危うくティーカップに当たりそうになったが、咄嗟にソーサーに戻して投げ付けられたそれを受け取ることに成功した。奇跡だ。後10回同じことをしても成功はしないだろう。
慌てて手に取ると自分の生徒手帳だった。

「ダメツナらしい回答だったね。つまらないから帰っていいよ。」

告げられて顔を上げるともう雲雀さんは風紀の仕事に戻ったようだった。
いつものことなので茶器を片付けると雲雀さんに一言告げて退室した。
パタンと扉を閉める時に何か言ったようだったけど、聞き返すことも憚られて結局はそのままになってしまった。



全校生徒を巻き込んでの賭けの対象にされているなんてことは知らなかったので。



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