リボツナ2 | ナノ



3.





ザッシュ、ザッシュ、とスニーカーがアスファルトの上の砂利を踏みしめる音と、オレの荒い息遣いと、走っているからだけではない激しい鼓動が住宅街の裏道を駆け抜ける。

咄嗟に逃げてきたからか、自宅より少し横道に逸れてしまっていた。
ダメツナはこんな時までタメツナだった。
全力疾走は長くは続かない。人の家の壁に手を付くと、荒い息のままずるずると膝から崩れ落ちた。

今日は4月1日ではないからエイプリルフールでもない筈だ。
筈なのだが嘘みたいで信じられない。
京子ちゃんが、オレを?
しかもオレはリボーンを?
いやいやいや!違うよ、風邪ん時にされちゃったから気になるだけで。オレはゲイじゃないから、京子ちゃんがいい。でも、気になる。アレはどういう意味を持っているのか気になる。
またも思考のループに落ちかけてると、視界が暗くなった。
ギクリと肩が揺れた。
誰かは分かっているので、へへへっと引き攣り笑いを浮かべる。すると腕を取って立たされそのままの勢いで担がれた。今度は逃がさんとばかりに腰を固定され、腹に肩が入って痛い。

「オレは俵じゃない!」

「うるせぇぞ。俵の方がマシだ。逃げねぇし、大人しいからな。」

この体勢のいいところは顔が見られる心配がないことだ。顔は赤いがいつものように気兼ねなくやり取りできる。それでも白昼の路地で、犬の散歩をしているおばあさんや買い物帰りの主婦などの視線はある。今度は違う意味での恥ずかしさに顔を赤くした。

掴まえられたのは家のすぐ近くだったので3分も歩かず家に着くと、抱え上げられたまま玄関に放り込まれた。

「てててっ…また頭打ったらどうすんだよ!」

「丁度よくなるんじゃねぇか?」

「なるか!」

そこにオレとリボーンの口喧嘩を聞きつけた母さんがあらあらと出迎える。

「おかえりなさい、ツッ君、リボーン君。…まぁどうしたの?」

「ただいま、奈々。ツナは今日学校の階段から落ちたぞ。」

「あら!お医者さまに行かないと・・・。」

「医師免許のある保険医に見て貰って、大丈夫だって言われたからいいよ。」

一々母さんに報告しなくてもいいのに。ぷうと頬を膨らませて睨むとふぃっと視線を避けられた。
噛み合わない視線がショックで、呆然とリボーンの横顔を見る。

「そう?」

そんなことは気付かない母さんによって2階の部屋へと2人揃って押し込められた。
気まずい雰囲気が流れる。今までこんなに微妙な距離になったことはなかった。
小さい時からの幼馴染みで、隣にいることが当然だと思っていた。10年ぶりの再会でも、変わっていないその性格にオレはいつも助けられていたんだと気が付く。

リボーンは視線をこちらに向けないまま散らかった本をどかして座り込んだ。
オレもいつまでも突っ立っていても仕方がないので、着ていたブレザーに手を掛ける。すると座っているリボーンがため息を吐いた。

「お前、それ以上は脱ぐなよ?」

「何でだよ。脱がなきゃ着替えれないだろ。」

言いながらブレザーを投げ捨て、ネクタイの結び目に指を入れるてシュルリと抜き取る。
シャツのボタンを上から外していると、膝裏に足を入れられて体制が崩れたところをベッドに転がされた。
いつの間に近寄ってきていたのか知ならいがすごい早業だ。

「何するんだよ!」

「それはこっちの台詞だぞ。てめぇ、好きだって言ってキスまでされてんのに、その前で脱いでくヤツがどこいいるんだ。」

「……は?」

「…………オイ、まさかとは思うが本気にしてなかったとかは言わねぇよな?」

「………。」

していなかった。また性質の悪い冗談だとばかり思っていて、変わってないなと思っていたくらいだ。
無言になって視線を彷徨わせているオレの様子で理解したらしいリボーンが、オレの上に覆い被さるような姿勢のまま頭を抱えた。

いやだってこいつが悪いと思う。真剣に言ってるならまだしも、冗談に紛れて言うから…って、あれぇ?何か今、誕生日の指輪を渡されたことを思い出していたら、昔のことまでリプレイされてきた。



ちっこいリボーンとオレってことはまだイタリアに居た頃だ。あの時はコイツにいつもいじめられていて、顔を見るのも嫌だといつも泣いていたっけ。なのに、日本に帰ることになった時、シロツメクサの指輪をくれたリボーン。そうだ…すごい器用に作って、オレの指に嵌めてくれたのだ。
んで、その時の言葉が……。

「ツナ、約束だ。10年経ったら本物持って迎えに言ってやるぞ。」

だったような。
それでその時は何のことか分からなかったから。

「うん?分かった!」

いやいやいや!分かってねぇよ!10年前のオレ!


「オオオオレの馬鹿っ!なんつー約束してんだ!」

うっかり大声を出せば、頭を抱えていたリボーンがちょっと目を見開いてオレを見る。
馬鹿正直に首からぶら下げた指輪をシャツの上からぎゅうと掴んで叫べば、察しはつくというものだ。
ニヤリとオレの上で笑うと指輪を握っている手をその上から握り、オレの手をそっと掴み取って指輪をシャツから抜き出して目の前に持ってきた。

「思い出したんだな?」

「い、や…あの、あれは子供の頃の約束だし……無効ってことに…。」

「なるか馬鹿。こいつは受け取ったんだから、なかったことにはならねぇぞ。」

言うと白い指が指輪を摘み、ちゅっとキスを落とした。
気障ったらしいのに…似合う。しかもオレの目の前でやってくれちゃって、下手にキスされるより恥ずかしい。何だこれ。何プレイ?
視線も逸らせなくて頭から湯気が出そうになっていると、それも計算の内だろうリボーンがオレの手に指輪を握らせる。

「返品は受け付けてねぇからな。」

耳元に口を寄せて囁くな!

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