リボツナ2 | ナノ



2.




午後からの授業はいつも頭に入らないのだが、今日は益々もって入ってはこなかった。
右横を向くと幼馴染みが居て、今はそちらへは向けられない。だからといって左ばかり見ているのも不自然だろう。
聞いてはいないが視線を黒板に向けているので、珍しくまじめに授業を受けているように見えるのだが実際はまったく違う。
黒板を滑る汚い字を綴るチョークを目で追っているのにノートに取ることさえしていない。
身動きすることが出来ないともいう。

授業中なんだからこっちを見ている訳ないじゃないかと思うのに、リボーンに見られているような気がしてシャーペンを握ることさえできないでいた。
その内息もできなくなったらどうしよう。

困った。
時間が経てば気にならなくなるだろうと思っていたのに、日が増すごとに鮮明に思い出す。
昨日なんか夢にまで出てきたくらいだ。
やたらと官能的な夢で触れた唇の感触や抱き込まれた腕の強さまでリアルに再現してくれた。
そんな恥ずかしい夢で夜中に起こされて、そこから朝まで寝付けなかったのだ。
お陰で階段の踊り場で喧嘩をしていた男子生徒2人を避け損ね、階段から転がり落ちてしまった。
気が付いたら保健室で寝ていたのだが、一体誰が運んでくれたんだろう。

ぐるぐると渦巻く気持ちを消化しきれずにいると、最後の授業のチャイムが鳴り、皆帰り支度をはじめる。とにかく早々に帰ろう!と鞄に適当に詰めているとすっと手が横から伸びてきた。
適当に詰めた教科書を見て「科学のノートの提出があんだろーが。」と忘れそうになっていた教科書まで詰めてくれた。

「おら、立て。今日は階段から落っこちたからな、トクベツに持っていってやるぞ。早く来い。」

顔を上げて確認するまでもないが、恐る恐る最後の確認をする。
オレの鞄を手にしているのは、間違いなくリボーンだった。

「あ、う……いいいいいよ!一人で帰れるし!」

「…何か?オレ様の好意を無にしようってのか?」

「ちちち違うけど!」

どもるし、声も震えている。顔なんか鏡を覗かなくても赤くなっていることぐらい分かっている。
ここ4日くらいリボーンとは一緒に帰っていない。
風邪で休んだ際の小テストがあったり、獄寺くんと一緒に帰ったりしてどうにか行き帰りを別にしていた。
どうみても挙動不審なのに、何も言ってこないリボーンにほっとしていたりもしたのだが…。

何やらクラスメイトたちの視線が集まっているような気がして、きょろりと視線を投掛けると皆一様に視線を逸らす。おかしい。
すると、獄寺くんと山本が鞄を手にやってきた。

「ツナ、今日は部活ない日なのな!遊びに行くか?」

「…こいつと一緒は嫌ですけど、沢田さんがいらっしゃるなら我慢します。」

「あ…」

「お前ら、こいつが脳震盪起こして担ぎ込まれたのを忘れたのか?こんなダメ頭でも一日くらいは休ませとかねーとな。」

「誰がダメ頭なんだよ!」

折角誘ってくれたのに、リボーンが勝手に断りを入れる。しかもオレのこと労わっているんだか、馬鹿にしてんだか分からない理由で。思わずいつものように突っ込みを入れると、ニヤリと笑った。

「つー訳で、帰んぞ。」

「うわっ!ちょっと待てって!」

取り上げられた鞄を取り返そうと追いかける。
すると今度は横から声が掛かった。

「ツナ君、リボーン君、帰るなら途中まで一緒してもいい?」

「…京子ちゃん。」

にっこりと笑う京子ちゃんに、オレはどうしていいのか分からない。
だって何だか今日はちょっと様子が違うような気がするのだ。
声を掛けられて止まったオレと、京子ちゃんを振り返るといつもよりぶっきらぼうな一言が。

「勝手にしろ。」

こいつもおかしい。女性にはフェミニストなリボーンが、こんな口調なのも変だ。
オレは、とにかくリボーンと2人きりは困るから途中までだって誰かが一緒に居てくれるのは助かる。

「なんだよ、その言い方!よかったら送るよ。」

「うんん、いいの。途中まで一緒に帰りたいだけだから。」

「そう?」

前にリボーン、その後ろにオレと京子ちゃんという滅多に見ない取り合わせに、廊下や下駄箱、校門までジロジロと嘗め回すような視線に晒された。
ううううっ…さすが校内きっての伊達男と彼女にしたい子ナンバー1だ。
それに挟まれたオレって場違いだって思われてそう。




不躾な視線から逃れて一息吐けば、やっと2人の雰囲気が硬いことに気が付いた。気が付いたからってオレにどうこうできるもんでもないんだけど。
横の京子ちゃんの表情はいつも通りの笑顔に見えるが口数が少ない。前のリボーンはあからさまに不機嫌だった。

「ツナ君、もう大丈夫?」

「うん、平気だよ。」

「頑丈なだけが取柄だからな。」

「お前が言うなって!…まぁそうだけどさ。」

振り向きもしないで掛けられる声に一抹の寂しさが過ぎる。
いや、振り向いて欲しい訳じゃないけど!
ないけど…ちょっとは気にしてくれたっていいじゃないか。
やさぐれて背中を見詰めると、横からくすっと笑い声が零れた。

「リボーン君は、ツナ君のこといっぱい知ってるんだね。」

「まーな。」

……おかしい、おかしいとは思っていたけど。何だこれ。いわゆる冷戦とか言うヤツじゃないのか?
しかも、何でリボーンと京子ちゃんが??
オロオロを前の背中と横の笑顔を交互に見詰めていると、横の京子ちゃんが爆弾を落としてくれた。

「ツナ君、最近何かあったの?」

「い、や…。」

本人が目の前に居ちゃ言えない。居なくても言えないけど、あんなこと。
言葉を濁していると、眉をちょっと寄せて小首を傾げてこちらを見上げる。
やっぱり可愛いなぁ。

「心配なの。ツナ君のこと、いいなぁって思ってるから。」

「は…?」

意味が分からなくてぼんやり顔を見ていると、顔を赤らめている京子ちゃんが。って、これってどんな状況?
ひょっとして、なんて思ったけどまさかね。
オレはダメツナだよ。
うん、ありえない。
曖昧に笑うと、京子ちゃんはちょっと辛そうに笑ってから角で別れていった。

バイバイと手を振りながら、そういえば保健室でもそんなこと言ってたような…と思い出す。
んんん?
あれ…ひょっとして、マジ??

「って、えええええっ!!!」

思わず道のど真ん中で叫んでしまった。
びっくりし過ぎて手を振った格好のままで叫ぶと、前にいたリボーンに頭をポカンと叩かれた。

「いってぇ!!」

「よかったな、現実だぞ。」

叩いた手をすぐに引っ込めてまたくるりと背中を向ける。
何でだよ。
背中向けんな、馬鹿。
こっち向けってば。オレのことどう思ってんだよ!
オレ告白されたのに、何とも思わないのかよ。
やっぱアレは勢いとか、挨拶だったとか?
自分の考えに涙が出そうになった。

って、オレ京子ちゃんの告白より幼馴染みの方が上?

「うええええっ??!」

2度目の絶叫に律儀にオレを叩こうとしたリボーンは、オレの顔を見て手を止めた。

「お前…トマトみたいになってんぞ?」

「うううっ煩いーー!!」

何かダメだ。
とくかくダメ。
もう鞄もどうでもよくなって、リボーンから逃げるように駆け出した。



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