Halloween 1「Trick or treat!」 この目の前の、顔はムダにいいし頭の出来もいいらしい幼馴染みに何と言ってお引取り願えばいいんだろう? 誰か知っていたら教えてくれ! 10月の最後の金曜日が、たまたま31日だったというだけの日。 遠い国ではどうだか知らないが、日本では子供が仮装する日?お菓子をあげればいいの?程度で、いっちゃー何だがバレンタインと同じく、お菓子会社の策略を感じる日な訳だ。 バレンタインと違って、子供がメインだったりするのでオレのように彼女居ない歴=生まれた年数な男子高校生には余計縁遠いのだが、菓子を買うのに躊躇わなくていいのは嬉しい。ちょっとパッケージが可愛いのがこそばゆいくらいで。 それでも、我が家の大蔵大臣こと母さんはそういったイベントが大好きで、今年も近所の子供たちにお菓子を振舞ったりしていた。 「これから、近所のママさんたちと一緒にハロウィンだけのカボチャのディナーを食べてくるからね。つっ君とリボーン君には夕飯を用意してあるから、一緒に食べててね。」 「…へ?」 「ちょっと遅くなるかもしれないけど、リボーン君がいるから安心だわ…いってきます!」 「って、ちょっと?!!」 言うが早いか、迎えの車が到着していて、息子の叫びなどどこ吹く風の母さんはさっさと乗り込んで出かけて行ってしまった…。 オレ、聞いてないんだけど。 母さんが夜出掛けることも、リボーンが来ることも。 夕方の6時をちょっと回った頃。 もうすっかり外は暗くて、静かな秋の夜長が広がっている。 出て行ってしまった母さんを玄関で見送っていれば、秋の夜の寒さにぶるりと身体が震えた。いや、寒さになのか悪寒になのかは知らないが。 玄関を閉めると鍵をかけ、リボーンが入ってこれないようにする。 何でこんなことをするかと言えば、今まさに絶交中だからだ。 理由はしゃべりたくないから聞かないでくれ。 だからと言って、これだけでリボーンが家に入ってこない訳がない。 チェーンも掛けて家中の窓も閉めてから、キッチンへと向かう。 思い出してムカついたら、お腹が減ったのだ。 テーブルの上を見れば、きちんと2人分の作り置きされた夕飯があった。 そんなに大食漢じゃないオレでは、2人分は食べられない。 テーブルの上の夕飯に罪はない。 気持ちがぐらつきかけた時、玄関から音がした。 最初はコンコンと軽くノックする音。 咄嗟に出れずにドアの前で止まっていれば、今度はドンドンと強めの音が聞こえた。 「ツナ、そこに居るんだろ?今謝るなら許してやるぞ。」 「バカ言うな!謝るのはお前だろ?!」 相変わらず高慢ちきな言葉に、またまたムカっとキた。 ぜったい入れてやるもんか! オレの心の声が聞こえた訳ではない筈なのだが、扉の向こうから音も声も聞こえなくなった。 アイツがこんな早く諦めるなんてありえないので、どこから進入する気なんだと身構えていると。 フッ… 家中の灯りという灯りが突然消えてしまった。 雷鳴も聞こえないし、停電じゃないだろうに何でだ。 暗いのも静かなのも嫌いなオレは、灯りを求めて懐中電灯を探して、玄関の足元を探る。 すると、硬くて冷たい金属らしき物体を手にした。 そのまま握ろうとしたら、何かに阻まれる。 …何に? 「んぎゃーーっ!!」 手袋を嵌めた手がオレの手を掴んで、引っ張った。 人の身体らしきものに鼻が当たり、次いで頬もふにゃんとくっついた。 恐怖が勝っている状態で、ドッキンと心臓が破れそう。 涙目になっているだろうオレは、恐る恐る顔を上に向ける。 暗くて輪郭くらいしか分からないが… 「リボーン?」 「当たり前だろ。それともオレ以外に他の男でも呼んだのか?」 「ばばばばか言うな!大体、お前が来ることすらさっき聞いたばっかだったんだよ!!誰を呼べって言うんだ。」 頬に熱が集まって、引いていた血の気が一気に顔に集まったみたいだ。 酸欠でくらくらするところを、見えないながらもあたりを付けて睨んでみる。 すると、くくくくっ…といつもの余裕綽々の笑い声が聞こえてきた。 「Trick or treat」 「はへぇ??」 「今日はハロウィンだぞ。お菓子は用意してあるんだろうな?」 「えぇ!あれはお前、子供が…」 「オレたちもまだまだ子供だぞ。」 「お前の体格で言われても、キモイだけだよ!」 「そうか?ツナみたいにカワイければよかったか?」 「…お前、今、可愛いに違う意味持たせたろ。」 ちょっとばっかしデカイと思って!オレだってなぁ、オレだってあと5ミリで170センチなんだよ! うあああ!また思い出した。 「お前、何で黒川にあんなこと言うの!あれじゃ、明日にはカップル扱いだよ!」 「望むところだ。」 「何が?!しつこいのが嫌いだからって、適当に答えんなよ!」 「適当じゃないぞ。好きなタイプを聞かれたから答えたまでだ。」 「それが全部オレに当て嵌まるのは何で?!」 段々目が慣れてきて、胸倉を掴んで揺さぶる。それでもリボーンはやれやれとでも言いた気に肩を竦めた。映画の俳優みたいに決まっている。が。 「黒川から京子ちゃんに伝わったら絶望的だぁ〜!どうしてくれる!!」 「伝わってくれなきゃ言った意味がないじゃないか。」 「って、お前態とかっ!」 付き合いたいなんて思ってもないけど、高校生活に華くらい合ったっていいと思うんだ。それがみんなのアイドル、京子ちゃんだってだけで。 誰にでも優しく、可愛く、親切な彼女に惚れないヤツなんていない。 はっ。 「お前も、京子ちゃん狙いか?!」 「アホか。…オレは10年前から本命一筋だ。」 それが10年経っても変わっていなかったなんてオチだったが…とか言ってるけど、知ったこっちゃない。 お前にとってはどうでもいいかもしれないけど、オレには高校生活のきらめきが掛かっているんだ。 「ツナ…。」 「何?」 人の言うことを聞かないリボーンに、嫌々返事をする。不貞腐れているのが丸分かりの声で。 「好きだぞ。」 「はいはい。指輪も貰ったしねー…。」 こいつの嫌がらせは今に始まったことじゃない。金も手間も惜しまない嫌がらせに、いちいち付き合っていたらキリがないから流しとこう。 「てめぇ…真剣に聞け。」 「聞いてるよ。お前がふざけて言ってることも全部。」 んで、それのとばっちりも全部貰ってるんだけどな。 ため息をつけば、何故か頭の上からもっとでっかいため息が。 何でお前がため息つくの、失礼だな。 「もう一回言うぞ?」 「何を。」 「Trick or treat!」 えーと、お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ。だっけ?? って、えええええぇ!!? ポケットというポケットを探すが、手持ちがない。 いつもなら飴のひとつ、ガムのひとつは入っているのに、今日に限って近所の牛小僧に毟り取られてしまっていた。 焦っていると、顎をくいと上に向けられて視線が合う。 ニヤリと笑う顔がなんとも不吉だ。 「悪戯タイムの始まりだ。」 やっぱり! さっきの悪寒はこれだったのかも。 . |