27.どうにもベッドの上というのは落ち着かない。 枕を盾にしたまま、ずりずりと後ろに下がって距離を取るとベッドの端に辿り着いた。 ん、ここなら届かない筈だ。 「それはいいとして……お前、本当に芸能界辞めちゃうの?」 聞けば肩を竦める。 その仕草も決まっていて、やっぱり芸能人向きだと思うのだ。 「ツナがマネージャーに戻るなら続けてもいいぞ。」 「う゛っ…!」 そうくるとは思わなかった。 裏を返せばオレが嫌だと言うなら辞めるってことだ。 就職難のこのご時勢、オレみたいなダメ大学生が就職できるところなど実はなかったりする。 だからといって父親の事務所に…っていうのも嫌だったので、ザンザスさんの事務所にご厄介になろうと思っていたのだけれど。 そうすると、必然的にこいつは芸能界を引退してオレを社長にするために躍起になるだろう。 …ついでにザンザスさんもな。 ふっ、と半笑いになる。 嫌過ぎる未来を思い描けてしまったからだ。 社長にはなりたくない。 でもマネージャーもどうだろう? こうなった以上、こいつのマネージャーを続けてもいいのだろうか。 その前に、父さんがこのまま続けさせるとは思えないし。 「家光のことなら気にするな。手は回してある。」 「…具体的にどんな手か聞いていい?」 何故だかすごい悪寒がしてきた。 ダメダメなオレだけど、えてしてこういう悪い予感はよく当たる。 「構わねぇぞ。差し当たって九代目に圧力を掛けさせることと、奈々に頼んできてあるだけだ。」 「お前…!九代目にって、それは脅しって言うんじゃないの?なぁ?!」 何でこんなヤツに権力持たせちゃったんですか、おじいさん! 「言わねぇぞ。使えるものは使うだけだ。…どの道お前が継ぐんだからな、しっかり使い方も覚えておくんだぞ。」 「覚えねぇよ!つーかオレは社長になりません!!」 「往生際が悪ぃな。まあそれは追々と、だ。…で、オレにどうして欲しい?」 社長を継いでリボーンはその補佐に付くか、リボーンは芸能界を続けてオレがマネージャーに戻るか。 他の選択肢がない時点で終わってる…! 「…なぁ、母さんには何て言ったの?」 どういう訳はそれが引っ掛かって仕方がない。 それを聞いたリボーンは、ニヤリと笑うとベッド伝いに徐々に近寄ってきた。 慌てて逃げるもシーツの裾を引っ張られると、ゴロンとカーペットの上に転がった。 「いてて……っ」 腰をしたたかに打ち付けて、痛さにさすっていると身体の上を影が差した。 そーっと上を見上げればイイ笑顔のリボーンが居た。 「えーと…たんま!」 「なしだ。」 後頭部に手を差し入れられて仰ぎ見ていた体勢のまま頭を固定された。 今日だけで何度したのか分からないキスが落ちてきて、逃げ出したくとも不安定な格好のせいで腕も抜けない。 先ほどのように絡め合わせるのではなく、ただ触れるだけのキスに抵抗する気も失せてされるがままになる。 すると最後にペロリと舐められた。 びっくりして目を開けると複雑な顔をしたリボーンが目の前にいた。 「この状況で手も出せねぇとは…」 「何言ってんの!母さんに何言ったんだって聞いてるだろ、早く喋れってば!」 リボーンの頬をペシペシ叩いて促すと、この鈍感が…とかなんとか言っていた。 「奈々とはちょくちょく電話で話しをしていてな、洗いざらい全部話してあるんだぞ。」 「…洗いざらい?」 「そうだ。」 「それってどこまで?!」 「だから全部だ。」 「…お前がオレを社長にするためにイタリアから呼ばれたこととか?」 「ついでにツナのことを愛してるからずっと傍にいさせて欲しいとも言ってある。」 つらりと言いやがった、この野郎。 「うぇぇぇ?!ちょっ、おま、何言っちゃってんのぉ!?」 目の前にある広いリボーンの肩をグラグラと揺さぶる。それなのにこいつときたら! 「奈々はお前さえよければと言っていたぞ。よかったな、母親には理解されてて。」 「よよよよくねぇぇ!それってどう考えても今日より前だよな?オレの意思はどうなるの?!」 「男だろ?細かいことは気にするな。」 「細かくねぇ!!」 どう足掻いてもこいつの手の平の上ってことか? ガキとか男とかそういうこと以前に、こいつで本当によかったのかと心底思うよ。 オレって本当に趣味悪い。 今の一件で疲れて物も言えずにいると、リボーンはいつも通りの顔でひょいとオレの顔を覗き込む。 「こういうヤツは嫌いか?」 「…嫌いになれないオレが嫌い。」 不貞腐れつつ言ってやると、今度は歳相応の笑顔を見せてほっぺたにちゅうされた。 ナチュラル過ぎて抵抗する気にもなれない…と、いうことにしておいて貰おう。 リボーンはご機嫌なままで再度オレに訊ねる。 「で、どうすんだ?」 「公私混同しないなら、マネージャーがいい。」 社長業はまだ保留にさせといて欲しいし、意外とマネージャー業は楽しかったりしたのだ。 「言っとくけど、お前だけのマネージャーはしないからな。5人まとめて面倒みてやる!」 「…何だと?」 どうしてそこで目を眇めるの。張り付いた笑顔が怖い! 「今まで通りうちで同棲するんだよな?」 「違っ!そうじゃなくて、そういう風になるのはお前にもよくないからオレは実家から通うよ。」 「あくまでガキ扱いするんだな?」 「してないだろ!お前と住んだらオレが危ないから逃げ…」 思わず出た本音に顔が赤らむ。それを見られたくなくて下を向いたのに顔が追ってきた。 その顔をぐぃと掴むと引き寄せて下唇を自分の唇で摘んでやった。 うん、意外とされるよりする方が恥ずかしくない。 驚いた顔のリボーンにしてやったりと笑いかけて言ってやる。 「何事も節度は大切だよ、リボーン。」 「説得力がねぇぞ…」 そうかなぁ?? . |