25.掴んで、掴まれた手の熱さに今更恥ずかしさを覚えた。 見上げるオレと、見下ろすリボーンの顔の近さにも。 泣いた顔までマジマジと見られていることに耐え切れなくなって、ふいっと横を向いて顔を逸らすのにまた追ってきた。 「…何だよ、こんな顔見んな。」 「ツナは泣き顔も可愛いな…」 「っ……っ!」 何だこいつ。真剣な声で何寝言言ってんだ、バカ。 押えようとしても押さえ切れない顔の赤らみを手で隠そうと思うのに、手を離して貰えない。 益々赤くなる顔とそれを見られる恥ずかしさとにどうしていいのだか分からない。 「泣いてると虐めたくなる。怒ってるともっと構って欲しくて怒らせたくなる。…でもな、笑ってる顔が一番好きだ。」 どんな面でしゃあしゃあとのたまってるんだと顔を覗けば、意外にも真剣な顔でこちらを見詰める視線とかち合って気恥ずかしさにすぐ顔を横に戻した。 「…そんなこと言ったって、お前辞めるんだろ…?イタリアに帰るんじゃないのかよ…」 言い難さに口の中でもごもご呟くと呆れたようなため息が聞こえてきた。 「ツナが芸能人は嫌だっつったんだろうが。」 「…………オレ…?」 びっくりして顔を戻すと半眼になったリボーンの顔がこちらを睨んでいた。 「てめぇ、自分で言ったことも忘れたのか。」 「忘れてないよ!でも、それとこれは別だろ?!」 「別だなんて言ってねぇ。男なのも年下なのも変えられねぇが、芸能人は辞めりゃあ済む。」 きっぱりと言い切られた。 って、えええぇぇぇえ??オレのせい?! 呆れてものも言えないってこういう時に使う言葉なのか。 ぽかんと口を開けたまま呆然とリボーンの顔を見詰めていると、やれやれと首を横に振られた。 「最近は事務所を継ぐのに消極的ながらも、否定的ではなかったしな。そろそろ本来の役目に戻ろうと思ってただけだぞ。」 「…じゃあ、イタリアに帰らない?」 「ツナが居ないところに意味はない。」 イタリア人て凄い。 こんなに言い募られたら、ただでさえほだされちゃってるから後がないのに益々逃げ場がなくなって捕まるしかないじゃないか。 それでもまだ聞きたいところがある。 「…ここ半月の女遊びは何?」 聞くとニヤニヤと性質の悪い笑みを浮かべて、顎を掴まれた。 ええぃ、顔を近付けるな! 「気になるか?」 「…べつに!」 掴まれた顎を引き寄せられているせいで、かなり近くなった顔から視線を必死に逸らす。 やっぱ聞かなきゃよかったと思ったり、でもここで聞き逃すと多分ずっと聞けないままになると思ったり。 真っ赤に染まった顔のままぐるぐるしていると、額から瞼から鼻の頭から…と羽で触れる程度の軽い口付けが落ちてくる。 逃げずに目を瞑って受け止めていると、最後に唇に少し強めに重ねられた。 ゆっくりと離れていった気配に瞼を開けて目の前の顔を見る。 「やっぱりオレのこと好きなんだな?」 「ななな何言っちゃってんの?!弟としてだよ、おとうと!」 「ほぉ?お前は弟と唇にキスすんのか?」 改めて聞かされると恥ずかしいものがある。 まだ逃げていたいオレは身体を離そうと横に逸らすが逃がしてもらえずに肩を掴まれて引き寄せられた。 強引に唇を押し付けられているのに、触れた場所からじわじわと熱さが広がって身動きが取れなくなる。 その場から剥がれない足と、逃げ出さない身体のせいで徐々に深く交わっていく。 ぴったりと重ねられたせいで息苦しさに少し横に逸らして息を吐き出せば、それを追ってきた唇に漏らした息ごと持っていかれた。 長かったのか、短かったのか。時間の感覚さえ忘れて互いを確かめあっていると、軽い浮遊感に襲われた。 ふわふわと夢見心地で舌を絡ませ、身体を押し付けあう。 深い口付けによる浮遊感だと思っていたのに、音もなく空いた扉の先には父さんとディーノさんがいた。 ………。 リボーンとの濡れ場を見られて固まるオレと、見せられて固まっている父さんと。 無言で唇を離したリボーンが、エレベーターのボタンを後ろ手に押して扉を閉めると1階へと降るボタンをまた押した。 「おまっ…!みら、みられ……?!」 「落ち着け。」 「こここれが落ち着いていられることかよ?!!」 しっかり、ばっちり見られた。 事務所のタレントで未成年の男と息子がキスしてるところを見せちゃったんだぞ。 どうしてくれる! オレがわたわたしている間に1階へと辿り着いたエレベーターから降りて、外へと連れ出された。 腕を引かれ一歩踏み出せば、年末の喧騒がぐちゃぐちゃしたままの心を隠してくれる。 そのまま2人、手を繋いで街行く人垣に紛れて事務所を後にした。 . |