リボツナ2 | ナノ



24.





「ツナ…」

「…リボーン……」

何の心構えもなく鉢合わせた社長室の扉の前で互いの名前を呼び合ったものの、それ以上の言葉が出てこなかった。
どうしよう、何を言おうかと躊躇っていると、扉の向こうから父さんの慌てた声が聞こえてきた。

「まだ話は終わってないぞ、待つんだ!…っと、ツナ?」

父さんの呼びかけにやっと金縛りが解けたようにハッとすると、リボーンはオレの横をそのまま通り過ぎて行く。咄嗟に腕を掴むがオレを振り向きもしないでエレベーターへと乗り込んでいった。腕を掴んだまま同じく乗り込むが表情ひとつ変えずにエレベーターのボタンを押して扉が閉まっていく。
父さんも乗り込もうとしたけど、オレが手で来ないようにジェスチャーするとしぶしぶ頷いてくれた。
そうしてまたもエレベーターは音も立てずに閉まると緩やかな下降を始める。

「リボーン、辞めるの…?」

「ああ。」

オレはそれだけ言うのが精一杯で、リボーンはそれしか返さなかった。
狭い空間に重い沈黙が降りる。
どうして辞めるんだとか、これからどうするつもりなんだとか、色々聞きたかった筈なのにいざ本人を目の前のするとどうやって話せばいいのかさえ分からない。

掴んでいた腕はとっくに外れていて、オレから背中を向けて扉を睨むようにジッと見詰めている姿に泣きたいほどの焦燥感を覚えた。
おじいさんに呼ばれて日本に来たらしいけど、何かの理由があってそれを辞める。ならば帰る先はイタリアしかないんじゃないのか。

ため息さえ吐けないほどの静寂を破ったのは1階へと到着したことを告げる赤いランプだけ。
開いた扉から一歩足を踏み出したリボーンの背中のジャケットの裾を力いっぱい掴んで引き寄せた。

「待って…どっか行っちゃうなよ……嫌だっ…」

額をリボーンの背中に押し当てて、零れた呟きは湿り気を帯びていた。
振り解くこともなく固まっている背中は、こちらを振り返ることもしない。
そのままで2人、扉が閉まって外の喧騒から隔絶された。

他の階でもエレベーターを使う用事はないのか動き出さないエレベータの中で、互いの漏らす息まで聞こえてきそうだ。
リボーンのジャケットを掴んだままで何を話そうかと考えていると、恐々といった調子でリボーンが背中を振り返る。

「それはこっちの台詞だ……お前はいつもオレを置いていっちまうじゃねぇか。」

手首を取られ、シャツから手を引き離されるとそのまま向かい合う。
滲んだ視界の先では、ぼやけた輪郭のリボーンがこちらを覗き込んでいた。

「訳分かんないこと言うなよ!お前、女の子たちと遊び歩いてたと思ったらいきなり辞めるって…イタリア帰る気なんだろ?!」

零すまいと踏ん張っていた涙がぽたりぽたりと自分のジャンバーの上に染みを作っていく。
それが悔しくて、これ以上みっともないところも見せたくなくて、ぐっと唇を噛み締めた。

「聞いたのか?…オレが九代目からの使いだって。」

「何のこと?……お前イタリアから日本の芸能界向きだってスカウトされて来たんだろ?」

チッと小さい舌打ちに余計なことを喋ってしまったという声がありありと聞き取れて、何かあるんだと気が付いた。

「…オレ、コロネロから8年前にお前と会ったって聞いたんだけど。」

聞くならここからだと思う。多分、これが一番のポイントだ。
すると益々顔を顰めるリボーンの腕を逆に握り返して下から顔を覗き見る。
瞬きもせず見詰め続けると、どこかを向いていた視線がやっとこっちに戻ってきた。

「どうせ、覚えてねぇんだろ…」

「だから思い出したいんじゃないか。…なぁ、どこで会った?」

重ねて訊ねれば珍しくリボーンが言葉に詰まる。
でも逃がさない。

「8年前っていうと、オレ14だよな…お前は7歳?っていうと、小学生?その頃にはこっちに来てたの…?」

畳み掛けるように訊ねる。
するととうとう観念したのか、ぽつりぽつりと喋り出した。

「…こっちに呼ばれてきたばかりの頃だ……」

「うん。」

「九代目の屋敷で、ツナと会った…」

「何回くらい?」

「……一回。」

「一回?それだけ?」

「それだけだ…」

思い出そうと必死で記憶を遡っているのに、ちっともヒットしない。だいたい、あの屋敷で子供と遊んであげたことなんて……

「あっ……た、けど…」

思い出した。確かに一度だけ、あの屋敷で会った子が居た。
おじいさんが言うにはオレの大切な人になるって言って引き合わされたのは。

「おおおぉ?!ええぇえ!!だってあの子女の子だったじゃん!!!」

狭いエレベーター内に木霊するオレの絶叫に、リボーンはバツが悪そうに横を向いていた。
って、横向いてる場合じゃないだろ?!

「そうだよ、すごい美少女で確かリボンちゃんとか……って…あ…!」

「あの格好は九代目の茶目っ気だったらしいぞ。」

「茶目っ気出し過ぎだろ?!そもそも、何でお前も嫌がらなかったの!」

「…似合うからよく着せられていたんだぞ。可愛かっただろ?」

そりゃあもう!
じゃなくて!!

「大事な人なんて言われたから、てっきり許婚として紹介されたのかと思ってた…」

「それも計算の上での茶目っ気だったんだと。その内教えてやろうと思ったらしいんだが、お前の方に色々あって無理矢理継がせようって気がなくなったらしいぞ。」

ああ…あの事件はその翌年だ。
納得しかけてハタと気が付いた。

「……で、事務所を継がせるのになんでお前が必要だったの?」

「気付いたか……オレはあの時すでに九代目のイタリアの事業の顧問だったんだぞ。」

「7歳で?!」

「会社経営に歳は関係ねぇ。」

「あるよ!」

ふうぅとため息を吐かれた。

「そんなんだから日本はダメなんだ。」

「って、オレが日本の代表かよ?!」

「まぁそんなんで、九代目に日本の顧問をしてくれと頼まれてな。」

「スルー?!」

「で、お前に引き合わされた。」

掴んでいた筈の腕は再び握り返されて、今度はリボーンがオレをジッと見詰めている。
掴まれているところからじわじわと熱を移されていくようで、身体の中から熱くなってきた。

「オレはそれからずっとお前に会いたかった。だが、お前は芸能界に興味がないと言ってパーティにも出席せず、九代目の家にも寄り付かなくなった。」

「…」

「どうやって会おうかと思っていたら、お前の父親の事務所にスカウトされた。そっからは知っての通りだ。」

父さんは知らずにリボーンをスカウトしたのだろう。
リボーンはそうと知って芸能界へと足を踏み入れたのだろうか。
オレに会いたいがために?

どうしよう、どうしよう!
言わないつもりだったのに、心の中で膨らんで零れちゃいそうだ。



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