リボツナ2 | ナノ



23.




雑居ビルの3階ワンフロアすべてが父さんの経営する事務所兼オフィスだ。
結構人気のある俳優やらタレントやらを有しているせいか、出演依頼は引きも切らない。傾きそうになったなんて話もないから結構いい線いってるんじゃないのかと思う。

いつものようにビルの一番隅にあるエレベーターから3階まで上がっていく。
これだと社長室に一番近くて、タレントとかとかち合う危険が少ないからだ。
この事務所に所属してくれてるタレントや俳優はみんないい人だよ?でも、中には会いたくない人もいる訳で…。

軽い浮遊感の後、音も立てずに開いたエレベーターの扉の先には銀髪に緑色の瞳が一見王子様のように見える元同級生がいた。
咥えタバコで眉間に皺を寄せている姿が不良っぽくて堪らないと女子高生からお姉さま方に人気なのだが、オレを視界の端に入れた途端、それがガラガラと崩れ去る。

「十代目!ご出勤ですか?!」

「え…違…」

ニパッと極上スマイルでオレの肩に手を掛けると、ささっ!と社長室へと繋がる扉を開けてオレが入るのを待っていてくれる。
…そこまでしなくてもいいんだけど。って、言うか。

「オレ、十代目じゃないって言ってるよね?!」

「いいえ、あなたが十代目です!『ボンゴレ』の後継者はあなたしかいません!」

ちなみに、『ボンゴレ』っていうのはザンザスさんの方の事務所だ。確かにおじいさんからもザンザスさんからも継いで欲しいとは言われているよ?でもオレはそんな器じゃないし、大体芸能界そのものが苦手なんだ。
父さんは好きにすればいいって言ってくれてるから、こっちの事務所は多分ディーノさんあたりに任せるんじゃないかと思う。
だと言うのになんで獄寺くんが勘違いしてるのかと言うと、どうやら父さんも一枚噛んでいるんじゃないのかとオレは踏んでいた。

一事が万事こんな調子の銀髪王子こと獄寺くんとの遣り取りはとっても疲れる。本人に悪気はない上に、オレのことを尊敬してくれちゃってるので余計に。

「ひょっとして、リボーンさんの件でいらっしゃったんですか?」

「へ?…そうだけど、何で獄寺くんリボーンのことさん付けなの?」

ガキじゃん、と言おうとして横斜め上を見上げてピンときた。
獄寺くんが一瞬、ヤベェと言わんばかりの顔をしたので。

「…『アルコバレーノ』はおじいさん絡みなんだね?」

じーっと見詰めていると、オレに嘘がつけない獄寺くんが顔に汗を掻きながら視線を彷徨わせていたが、それでも無言でいるとついに耐え切れなくなって白状した。

「う…はい、そうっす……」

「やっぱり…で、あいつらって何?」

運よく社長室の前には人が居ない。きっと社長室でリボーンと父さんが揉めているのを聞かれないために人払いをしたのだろう。獄寺くんにとっては運がないと言えるが、ここまで喋ったんだ洗いざらい話して貰おうか。

精一杯睨んでいると、飼い主に怒られてしょげている犬のように獄寺くんはオレの顔を窺っている。
いいから喋る!

「…オレも詳しくは知らないんスけど、リボーンさんたちは九代目がイタリアからスカウトしてきた方たちらしいっス。」

「スカウト?」

「はい。九代目はイタリアでも事業をされていることはご存知ですよね?」

「あ、うん。」

イタリアでもわりと有名な老舗ブランドのオーナーの一人だとか言っていたような。
だからおじいさんはイタリアと日本をよく行き来していて、でもそろそろ年だから日本の事務所を任せたいんだと小さい頃から言われていた。
それはともかく、あちらの風潮なのかある程度の富裕層は慈善事業に積極的で、おじいさんも勿論積極的だった筈だ。

「…リボーンたちって親がいないってあったけど、ひょっとして?」

「そのようです。まあ、それだけでイタリアから呼び寄せる訳がないので本当にタレントとして才能に恵まれていたからだと思いますが。」

「確かに。」

少なくともリボーンは第三者目線で自分をアピールすることに異様に長けている。タレント向き云々というより、あの年の割に醒めているというか、達観しているというか…そんな気がしてはいた。

でもまだだ。
遠くに点在していた点が、線へと繋がりそうなでもまだパーツが足りない、そんなもどかしさがある。

やっぱりどこかで会っているらしい。
8年前ってコロネロは言った。
今から8年前ってことはオレはまだ中学生で、あの事件の前だ。

どこで、いつ、どんな出会いだった?
頭の片隅に引っ掛かっているようなもどかしさに唇を噛むと、獄寺くんがあの…と遠慮しぃしぃ声を掛けてきた。

「リボーンさんのマネージャーをしてらしたんですよね?」

「…そうだけど。」

「〜っ!はっきり聞きます!あの、リボーンさんとそういう仲になったんスか?!」

「…そういう…?」

真っ赤になりながらオレに詰め寄る獄寺くんの顔を見上げて、コテンと小首を傾げて意味を考えていれば…
じわじわと染まりはじめたオレの頬を見て、獄寺くんが泣き出した。

「ちょっ…!?どうしたの、獄寺くん!」

「オレが十代目と……!……いえ、オレにはまだ十代目の右腕になるっていう目標がある!負けません!!」

「って、えええぇぇえ?!」

泣きながら逃げて行ってしまった。
何がどうしたやらさっぱりだ。

獄寺くんの消え去った後を呆然と見詰めていると、社長室から慌しい声と共に半月ぶりに見る嫌味なほどの長い足と、お綺麗な面が悠然と現れた。



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