21.フライパンにバターと落としてよくかき混ぜた卵を流し、少し火が通ったら手早く形を整えていく。ここしばらく使っているせいか、手に馴染んできたフライパンは思い通りのオムレツを作ることができた。 満足の出来に自然、笑みが零れる。 昨日のうちに作っておいたコールスローサラダとソーセージを添えて、ぼんやりしているスクアーロさんの前にコトリと置いた。 「はい、スクアーロさんの。」 「……」 目の前に置いた皿と、オレの顔を交互に眺めると恐る恐るといった具合に口を付け始める。 失礼な。 「変なもの入れてませんよ。味は普通です。」 「…いや、上手いぞぉ…どこで花嫁修業したんだぁ?」 「してません!」 二重に失礼な、と頬を膨らませているとスクアーロさんの後頭部にヘルメットが当たった。どこから飛んできたのかと見ればザンザスさんが起きてきていた。 床に転がっているヘルメットはスクアーロさんのもので、どうやら玄関に置いてあったそれをザンザスさんが持ってきて投げつけたらしい。 どうして? 「う゛おぉい!朝っぱらから何しやがる!」 「うるせぇ…てめーこそ、何で朝からここに居やがんだ。カス鮫が。」 ザンザスさんって普段は物静かなのに、スクアーロさんといると口数が多くなるんだよな。親友っていうか、悪友? なんていつもの漫才(誤解)を眺めていたら、ザンザスさんがスクアーロさんを外に放り出そうとするので慌てて止めに入る。 「ちょっ…!ザンザスさん、落ち着いて!昨日、スクアーロさんが酔っ払ったオレを連れて帰ってきてくれたでしょ?そのお礼に朝ごはん食べてって貰ってるだけだよ。」 スクアーロさんの首を絞めていたザンザスさんの手にしがみ付くとチッと小さく舌打ちしてスクアーロさんを離してくれた。よかった…もうちょっと遅かったら首絞まっちゃうところだった。 「コーヒー淹れるね。」 スクアーロさんを手放したのを確認してから支度にかかる。 ザンザスさんの目覚めの一杯は濃い目に淹れたコーヒーにブランデーを少し入れる。オレが見てないと朝からブランデーだけとかになっちゃうので食事が終わるまでザンザスさんを監視するのが最近のオレの日課だ。 「スクアーロさんのも淹れ直しますね。」 「あ゛あ゛…」 「カスは水でも飲んでろ。」 「って、もう!たまには2人きりより3人で食事の方が楽しいでしょ?」 「「全然。」」 何でそこで2人共ハモるの。 仲いいんだか、悪いんだか分からない2人にコーヒーを淹れる。 ザンザスさんは一口、口を付けると少しだけ満足したように目を細め、スクアーロさんはと言えばごくんと勢いよく飲んでいる。 …熱くないのかな? 「さっきも思ったが、料理もコーヒーも上手いぞぉ。」 「ホント?ありがとう…」 照れながらも誉めてくれるスクアーロさんに、オレまで照れているとザンザスさんがスクアーロさんの座る椅子を蹴っ飛ばした。 「うぉお…あぶねぇ!コーヒーが零れんだろうがぁ…!」 「オレの目の前で綱吉口説くなんざ、死にてぇのか。」 やれやれ、ザンザスさんの過保護はスクアーロさん相手でも発動するのか。 呆れながらも、オレも朝食を摂る。山盛りのパンを片付け、かなり大きいオムレツにソーセージとサラダと…と胃におさめていく。 ひとしきり食べ終えると、目の前のスクアーロさんが唖然とした顔でこちらを眺めていた。 「お前…その身体のどこに入ったんだぁ?」 「?胃ですよ?」 何当たり前のこと言ってるだろう? ザンザスさんたちと居間で少し食休みして、見付からないようにこっそり身支度をしようと居候させて貰っている部屋へとコートを取りに行く。 大学はすでに冬休みなので大学へ行く訳ではない。 そーっと抜け出そうとしたのだが、それに気付いたザンザスさんが玄関で仁王立ちして待っていた。 出て行こうとするオレの手を取ると居間へと連れ戻される。 「どこへ行く?」 「…ちょっと……」 「ちょっと、どこだ?」 どかりと座ったソファから立ち上がることなく腕を引かれて膝の上に座らされた。 普段は無口なくせに、こういう時だけ饒舌だ。しかも勘がいい。 言葉に詰まっていると、目を覗き込まれた。 昔っから世話になりっぱなしのせいか、オレもザンザスさんには弱い。 特に今みたいに疚しいところがある場合は額に汗が吹き出るし、視線も合わせられない。 うううっ…と呻いていると重いため息を吐かれてしまった。 「あのガキのところに行くのか?」 「ううん。…とりあえず、父さんに様子だけ聞きに行こうかと思って…」 「電話でもいいんじゃねぇか?」 「それが出ないんだよ。オレと母さんからの電話に出ないなんて滅多にないんだよ?だからきっと何かあったんだよ!」 思わず言い募るとザンザスさんはゆるく首を振った。 「やめとけ。」 「どうして?!」 「お前にその気がないんなら、一々引っ掻き回しにいくんじゃねぇ。」 ザンザスさんはやっぱり大人だ。そしてそれは正論だ。 でもオレにはできそうもない。 オレのせいでどうにかなっているなら、オレがどうにかしてやりたい。 「オレ…!」 「振られた相手に同情されるなんざ、男なら死ぬほど嫌だろうよ。」 「…っ!」 鋭い刃物のような言葉でグサリと心臓を一突きされた。 何も言えなくて唇を噛み締めていると、オレの手を握っていた手が頬へとあてられた。 「気になるのか、傍に居たかったか………忘れらんねぇ、か?」 最後の一言を聞いて、ぎゅっと膝の上で握り締めていたこぶしの上に涙がひとつぶポロンと零れた。 オレの頬を包んでいるザンザスさんの手にも伝い落ち濡らしていく。 「泣くほど好きなら、本人のところに行って来い。」 「…ザンザスさん。」 驚いて顔を上げればいつものような顔で笑っていた。 すると頬を掴む指に力を込められてムニリと横に引っ張られる。 「いひゃい…!いひゃいっへ!!」 「とっとと行って、とっとと振られてこい。」 横でスクアーロさんがそっちが本音かぁ!と叫んでいた。 . |