リボツナ2 | ナノ



20.




窓の外に広がる光景は年末の慌しさと、新年を迎える前の華やかさとが交じり合いなんともいえない独特の雰囲気に彩られている。

クリスマス以前から装飾されているイルミネーションは、ハッピーニューイヤーを祝うためかそのままだ。
いやイルミネーションの色はクリスマスカラーから白や青へと変貌を遂げているのだが、街行く人々はそんな変化を見て足を止めたり、足を止める暇もない勤め人は煩わしいと言わんばかりに足早に通り過ぎていく。

そんな街の風景を居酒屋の2階から面白くもなさそうな顔で杯を傾けているツナは、酔っ払いだらけとなった室内でひとり酔えずに居た。
先ほどまで代わる代わる女の子たちに声を掛けられ、弄られていたツナは始まって2時間と経っていないというのに既に疲れ果てている。
最初は一々相手にしていたのだが、その内女の子たちも酔いに任せてか徐々に積極的になりしまいには連れ出されそうになったりと散々だ。

何がおもしろくてオレみたいな地味な男と…なんてやさぐれていると、後ろからポンと肩を叩かれた。

「よ!悪かったな、ツナ!」

「あれ、山本?よくあの乱痴気騒ぎから抜け出してこれたね。」

あのと指差す方向ではいまだ馬鹿笑いと悲鳴が聞こえてきている。そろそろここをお開きにしないと店側から抗議が出そうだ。
呆れていると、それに気にした様子もなくいつもの山本節が出る。

「んー…だってツナを無理矢理呼んだのオレだしさ。ツナつまんなそうな顔してっから気になって。」

「…ごめん。」

「違うって!そうじゃなくて、色んな子に声掛けられてるのにすげなくしてたろ?やっぱ、失恋の痛手ってヤツかなーとか思って。」

いつも朗らかで何にも気にしていなさそうに見えるけど意外と面倒見がよくて友達思いのいいヤツなのだ。
リボーンたちのマネージャー業は、あの歌番組を最後にやめさせて貰った。
父さんはせめて3月いっぱいまではと懇願してきたのだが、今度はきっぱりと断った。理由を尋ねられたが言える訳もなく、逃げるようにザンザスさんの家へと居候させて貰っている。

気まずげに頭を掻く山本にそんなんじゃないって!と笑って手近にあったコップに口を付けた。

「あ…それ、オレの持ってきた酒なのな!」

「……ブッ!」

オレが酔っていない理由は簡単、ひとりジュースとウーロン茶で誤魔化していたからだ。体質的にアルコールを受け付けない身体で、一口飲むだけで酔っ払いの出来上がりだ。
山本の一声は一瞬遅かった。
ごくんと飲み込んだ液体はアルコールの香りが鼻をくすぐり、喉を通ると瞬時に焼け付くような熱さをもたらす。
慌ててウーロン茶を流し込むがそうこうしている内に身体中をアルコールが巡り、奥から熱が漏れ出す。
ほんのりと赤く染まった頬を見て山本は焦った。

「わりぃ!」

「いーって、いーって!!平気らよ?!」

すでに呂律が怪しい。
どう見ても酔っています、という顔になっている。
このままだとどんな女の子にお持ち帰りされるか分かったものじゃない。
とりあえず今日は帰すのがいいだろう。
くてっとテーブルに懐き始めたツナを起こすと、幹事へと声を掛ける。

「全然平気じゃないって!……おい、伊藤。ちょっと抜けるから移動すんなら携帯に連絡くれよな。」

そう言うとツナに上着と着せて騒がしい店内から抜け出した。
覚束ない足取りのツナに肩を貸して店を出る。
外は雪でも降りそうなほどの寒さで、さてどうやって帰らせるかと考えを巡らせていると、横からぽつりと呟きが漏れた。

「なんか言ったか?」

「……どーせオレは…と違ってもてねーよ…」

「はぁ?ツナ人気あんだぜ?…今日もどうしても呼んで来いって脅されたくらいだし。」

違う違うと首を振って暴れだす。
肩からずり落ちそうになるツナを力いっぱい引き寄せると、わずかなアルコール臭が漏れる息と一緒に小さな声が聞こえてきた。

「オレばっか忘れられない…バカみたいだ…」

「ツナ…」

引き寄せた身体を壁に凭れかけさせてから顔を覗き込む。酔いのせいか、感情の高ぶりのせいか、虚空を見詰める瞳はうすらぼんやりとしていた。

親友のここ半月の落ち込み振りは酷いもので、どうにか新しい恋でも…と思い連れて来たというのにいまだ癒されるどころか傷が開いたままだったようだ。最近は少し浮上したのかと思っていたのに。
覗き込んだ先にある虚ろな瞳を見ていられなくなってぎゅうっと頭を抱き込むと、ツナの身体が強張るのが伝わる。

中学時代からの親友で、あの事件もおぼろげながら話して聞かされていた。ツナの父親が芸能事務所をしていることも、みんなには内緒でリボーンとかいう芸能人のマネージャーを引き受けていたことも知っていた。
あれ以来、男に近寄られるのも触られることも怖がっていたというのに、男の上に芸能人だというヤツのマネージャーを引き受けてからこっち、怖がるどころか機嫌よく溢れんばかりの笑顔を振りまいていた。それが辞めた途端にこの調子だ。
これでそいつと何もなかったとは思えず、聞きたいのに聞けない状況が続き、今日こそはと思っていればぽつりと零した言葉がこれだ。

抱き締めた腕に力を込めると、益々強張りを増すツナに声を掛ける。

「オレが忘れさせてやろうか?」

呟いた途端に山本とツナの横の壁に足が突き刺さる。
ドゴン!と音を立てる壁に驚いていると、山本の襟首が後ろへ力いっぱい引かれた。

「う゛ぉぉい!ガキィ…命が惜しけりゃそいつを放せぇ!」

「…スクアーロさん?」

山本の腕からようよう抜け出したツナは、山本と睨み合うスクアーロを確認して目を瞠った。

「どうしてここに?」

「こいつみたいな輩にツナを持ち帰られねーようにしろって、ザンザスがよぉ!」

一応、変装してきているとはいえ地声の大きさにスクアーロだとバレるのではと、慌ててツナは間に入った。
酔いはまだ残っているのかふらつく足取りによろけたツナをスクアーロは軽々と抱き上げると、傍に停めてあった車へと押し込め自身は運転席へと乗り込む。

「ツナ!」

「ごめん!この人、従兄の知り合いだから!悪いけどまたな!」

後部座席から窓を開けてそれだけ言ったのを確認すると、ダークメタリックの車は夜の街へと消えていった。









背中にツナを背負ったスクアーロは、やれやれとため息を吐く。
どうやらアルコールを飲んだらしいツナは車に揺られると5分としない内に眠りの国へと落ちていったようだ。
あの気に入らないガキのお守りを辞めてからこっち、あまりに酷い落ち込みようにザンザスが自宅へと引き取ってきていたのだが、テレビをつければ聞こえてくる件のガキのスキャンダルに精神的に参ってしまっていたようだ。
気晴らしを兼ねて大学の年末コンパに参加させてみれば案の定、アルコールを飲まされて連れて行かれるところだった。

背中でくーくーと寝息を立てる姿からは色気なんぞ微塵も感じないというのに、何故か男も女も惹き付ける。そういう自分だとてザンザスが大事にしている従弟だからどうにか堪えているだけという始末。
そんなツナがどうやら本気で好きになったのはあのガキだったようだ。
だと言うのに、ツナはマネージャーを辞め会ってさえいないという。

「…本当にそれでよかったのかぁ?…」

寝ているツナに返事はないことなど承知で呟くと、寝ているとばかり思っていたツナが肩に顎を乗せて意外にはっきりした声を零した。

「分かんない…オレ、どうしたらよかったかなぁ?」

「知るかぁ…」

「……スクアーロが冷たい…うううっ…」

本気で泣き出したツナを抱え直すと、まだ愚痴愚痴と言っている。起きたようでまだ酔っているのだろう。
しょうがないヤツだ。

「寝ちまえぇ…」

スクアーロの肩に額をくっつけると聞き取れない声を漏らしてまた眠りの底へと落ちていった。


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