リボツナ2 | ナノ



18.




幼子のようにしゃくりあげながらしばらくザンザスさんの胸にしがみついて泣いていた。
けれどいつまでも泣いていられる訳もなく、徐々に羞恥も戻ってきてついでに今の状況も見えてきた。

涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃになった顔を引き上げると、頭の上からひらりと柔らかい布と硬い箱が落ちてくる。
コテンと音を立てた先にはティッシュボックスと綺麗なハンカチが床に転がっていた。
慌ててハンカチを床から拾い上げ、辺りを見回すとド派手なモヒカン頭のルッスーリアさんがにっこり笑っている。
…このハンカチは彼のものらしい。
ありがたく拝借して顔を拭いていると横から頭を手荒く撫でられた。隣に座るザンザスさんだ。
ザンザスさんにしてみればそんなに力は入っていないのだろうが、オレには首がどっかに向いてしまうほど痛い。しかも跳ね放題の髪の毛に引っ掛かっている。

「痛たた…っ!痛いって!」

ハンカチの隙間から覗くと笑っている。わざとだったらしい。
やっと手を外してくれたと思えば、オレの涙でびっしょり濡れたシャツを摘む。

「鼻水までくっ付けんじゃねぇ。」

「ご、ごめん…」

ティッシュで拭こうとしたが、着替えがあるからと押し止められる。
それでもオロオロしていると、やっとオレに突き刺さる他の視線にも気が付いた。
きょろりと首を回すと興味津々な様子の3人がこちらを見ている。

「あの…突然お邪魔してごめんなさい!ザンザスの従弟の沢田綱吉です。えっと…アルコバレーノのマネージャーをしてて……」

スクアーロはともかく、他の3人のメンバーとは初対面だ。しどろもどろになりながらも席を立って頭を下げる。すると先ほどハンカチを貸してくれたルッスーリアさんがいち早く反応した。

「あら、あなたがツナちゃんね?噂の可愛い従弟の。ああ、泣いた瞼を擦ったせいで腫れちゃってるわ…これ使いなさい。」

「は?…はい、ありがとうございます?」

またもルッスーリアさんから借りてしまった。手渡されたそれはひんやりと冷たくて、どうやらアイマスクのようだ。泣き顔を見られた恥ずかしさに借りたアイマスクを顔に当てて顔を隠す。
昨晩から泣き続けた瞼に当てると本当に気持ちよくて、スリスリとアイマスクに懐いていると突然横からぐいっと顎を取られた。
前髪が厚くて見えてるんだか見えてないんだか分からないこの顔はベルフェゴールさんだったかな?

そのベルさんはオレの顎を掴んだままで離してくれない。
視線は感じるんだけどどこを見ていいのか分からなくて頭の上の王冠を見ているとしししっといきなり笑われた。

「ボスに全然似てねーじゃん。でっけー目ー」

からかわれたらしい。ムカついて顔を背けると頬にちゅっという軽い音と柔らかい感触があった。

「っ……!何するんですか?!」

ほっぺにチューされた!
ゴシゴシ頬を擦る。
いくら外国の人でもいきなりそれはないだろ?!
ベルさんから後ずさるとスクアーロさんが背中に庇ってくれた。

「あれー?どうして逃げんのー?」

「ボスを見ろぉ…」

スクアーロさんに言われてベルさんと一緒に後ろを振り返るとザンザスさんの眉間の皺がいつもより3本多く刻まれていた。
…………。

「カッ消す!」

「ぎゃあぁ!!けけけ消さなくていいです!ハンカチで拭いたから大丈夫!」

「ひでーな、お姫さま。」

「誰がお姫さまだ!」

怒らせた張本人のベルさんはまだそんなことを言ってザンザスさんの眉間の皺を増やし続ける。
あんた同じバンドのメンバーだろ?!
怒らせたら手が付けられなくなるの知ってるんだよな?

慌ててザンザスさんの隣に座ると手を握って顔を見詰める。
何故だか知らないけどこれをやると大抵の怒りは治まるのだ。
じっと目を見詰め続けていると、オレの視線を無視できなくなったザンザスさんが眉間の皺を戻してこちらを振り返る。
うん、もう怒ってないみたい。

「すごいわ!猛獣使いみたいね、ツナちゃん。」

「ボス…!」

猛獣…言えて妙だ、じゃなくて。それ失言です、ルッスーリアさん。
今まで無視してこめんなさい、だからって睨まないで下さいレヴィさん!

「しししっ♪スゲー、姫スゲーじゃん。ボスが言うこと聞いたの初めて見た。あんなガキ共のお守りやめてうちに来いって♪」

「…ヤです。アイツらより人気あるじゃないですか。目立つ仕事は嫌いなんです。」

ツーンとベルさんに言い放っていると今度は横から手を引かれた。

「それじゃあガキ共のお守りもやめるんだな?」

握っていた筈の手を握り返されて、ザンザスさんが確認するように訊ねる。
この目…過保護なザンザスさんはリボーンを排除する対象として認識したみたいだ。

あの時と同じようにオレから遠ざけようとするだろうが、オレはもう中学生じゃない。
アルバイトとはいえ仕事を任されている。
逃げられないし、逃げる気もない。

ふうっと息をひとつ吐き出すと、ザンザスさんから手を離した。

「まだマネージャーなんだ投げ出せないよ。…この後のことは父さんと話し合ってみる。オレみたいな学生がやる仕事じゃなかったみたいだし。」

「…そうか。」

オレの顔をちらりと見るとうっすら口端だけ上げて了解してくれた。
少しは大人扱いされたようで嬉しくなる。

「家光が言うことを聞かなかったらいつでも言ってこい。どうにかしてやる。」

「…いらない!」

どうにかって何するつもりなの?!
裏から手を回すのだけは止めて欲しい。マジで。




みんなに頭を下げてヴァリアーの控え室から退室すると、廊下には壁に凭れ掛かって人待ち顔のリボーンが、廊下をゆく人の視線を貼り付けながら立っていた。



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