リボツナ2 | ナノ



17.




玄関口から地下駐車場への道のりは意外にある。中継車と思しき車とすれ違い、同業者が運転する車が手前で曲がる。そうして痛いほどの沈黙を抱えたまま指定された駐車スペースへと辿り着いた。時間より少し早めに着いたためかまだ停まっている車はまばらだ。

リボーンは無言のまま降りると駐車スペースに上手に誘導していった。
両脇がまだ停まっていなくて停めやすかったというのもあって枠からはみ出すこともなく納まった車に人知れず満足してキーを外し、忘れ物はないかと後ろの座席を確認する。
すると外に居たリボーンが後部座席のドアを開けて入ってきた。朝から物言いたげではあったのに、仕事だからと黙らせたのはオレだ。それでもと言い募ろうとしたところで他のメンバーが来てしまいそれっきりになっていた。だからこういう風に場を作るだろうとも分かっていたので驚きはしない。

バンッ!といささか乱暴な手付きでドアを閉め、鍵まで掛けてオレの手を掴むと一番後ろの座席へと放られた。背中をしたたか打ちつけたせいで咳き込んでいるといきなり肩を掴まれ背中ごと広い胸に抱きこまれた。
瞬間、息も心臓も停まってしまったのかと思うほど驚いて、すぐにバカな心臓は早鐘を打ち始めたけど、それを押える術を知っていた。
言わなきゃいけない言葉と、保たなきゃいけない距離感を思って歯を食いしばる。

背中に回された腕の強さに想いの丈が込められているような気がしてまた泣きたくなった。
リボーンの背中へと這い上がろうとする腕を押し留めてぐっと握りこぶしを作った。
馴染んでしまった暖かい腕の中で必死に流されまいとしているのに酷い言葉を投掛ける。

「好きだ。」

呼吸も、鼓動も、時間さえも止められた。
目を閉じてその言葉を飲み込むと、飲み込めなかった棘がちくちくと胸を刺す。
それに蓋をして瞼を開けると、何事もなかったようにリボーンの肩を2度軽く叩いて身体を離させる。

頬を突き刺す視線に揺らがない瞳で見返すことができたのは奇跡に近い。
じっとこちらを見詰め続けるリボーンに、失敗してしまった笑顔を貼り付けてどうにか声に出す。

「オレも好きだよ、弟みたいに。」

言った途端に射殺されそうな視線に晒されたが、有無を言わせず言い継いだ。

「昨日のあれは…まぁ男の生理現象ってことで無かったことに…」

「なるかっ。」

言い終える前に言葉と唇を被せられた。
昨夜と同じ熱い舌に息さえ絡め取られていく。流されまいと踏ん張っている心まで甘く蹂躙されていく手管に陥落しかけた瞬間、車の外をドカンと音を立てて蹴り上げられた。

ぐらぐら揺れる車内に驚いて外を見るとザンザスさんがオレたちのいる後部座席の外で腕を組んで仁王立ちしていた。
それに驚いてか、少し緩んだリボーンの腕からするりと抜けると鍵を開けて車外へと飛び出し、後ろも振り返らずに逃げ出した。





逃げ出したまではよかったが、仕事はまだ始まってもいない。
仕方なく控え室へ辿り着くとリボーン以外のメンバーはすでにチューニングも済ませてきたのか衣装を手に着替えようとしているところだった。

「遅い!」

マネージャーの癖に遅れてきたオレを叱ったのはマーモンだけ。
コロネロは着替えの真っ最中で、ラルは着替え終えていた。
4人の視線が痛い。

「ご、ごめん…」

「……リボーン先輩はどうした?」

まだ着替え終わっていないスカルはどうやら心配した3人にオレとリボーンの様子を見にパシリに行かされるところだったようだ。
リボーンの名前を出され、ビクリと肩を震わせれば大体は察した4人に微妙な顔をされた。

「途中で逃げ出してきたんだろ?あいつねちっこそうだしね。昨日の今日じゃさすがにキツイだろうし…」

「って、何の話?!」

「何っててめー喰われたんだろうが、コラ。」

「んな訳あるかっ!」

なんつーことを想像してくれちゃってんだ、このガキ共。
怒りと恥ずかしさでカッカしていると、ガチャリと楽屋の扉が開きぽいっと何かを放り投げられた…ってリボーン?!

「悪ぃな、うちのボスが本気だしちまってなぁ!だがこっちも同じだぁ!!痛み分けってことで勘弁しろっ!」

呻いているリボーンを連れてきたのはスクアーロさんで、いつものがなり声で言うだけ言うとすぐに出ていってしまおうとした。
慌てたのはオレだ。
痛み分けって何だ?リボーンが腹を押えて声も出せないってことはザンザスさんも同じことに?!

「えええっ??!ちょっ、ザンザスさんも?何がどうなってるんですか!」

リボーンも気になったがまずは事情を説明して欲しかった。
扉を閉められそうになって、慌てて手を掴むと逆に腕を掴まれて控え室から連れ出された。








ところ変わってヴァリアーの控え室。
犯罪人のようにスクアーロさんに両腕を捉えられたまま連れてこられた先には、本当にザンザスさんが呻いていた。ソファにふんぞり返ってではあったけれど。

ザンザスさんはオレを確認すると、腹を押えていた手を肘掛へと滑らせた。意地でも弱っているところは見せないらしい。
だからといって平気な訳じゃな顔色の悪さに、ザンザスさんの座るソファの前まで行くと腕を取られて横に座らされた。

「うちのリボーンがすみませんでした!」

膝に頭が付くくらいの勢いで謝ると、チッと小さな舌打ちのあとぐいっと頭をザンザスさんの胸へと押し付けられた。まだ痛むのか少し息を詰めながらも肩は揺るがない。

「てめーはオレの大事な従弟だ。身体を張って守っただけだ。謝るな!」

その一言で不問にしてくれたと知れて嬉しいけど大事にされ過ぎて辛くなった。
一度は我慢した涙もまた零れてきて、今度はしばらく止みそうにない。


ザンザスさんの胸で声を殺さず泣き喚いた。


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