リボツナ2 | ナノ



15.




上着は脱いだ。ズボンも、靴下も半ばやけくそで脱ぎ捨てた。
いきおいトランクスにも手を掛けて…止まった。
ここまでは毎朝晒してる格好でもある。
が、しかし。
これはなぁ…とやっぱり躊躇う。
いくらここの風呂が広いとはいえ、わざわざ一緒に入る理由にはならない。
話なら後で聞いてやるよと言おうとして固まった。
背中にくっついた生暖かい感触と、にゅっと後ろから伸びた手の行方に。

「…その手は何でオレのパンツ掴んでんの?!」

「ツナが脱げないなら脱がしてやろうと思ってな。」

「いいぃぃいらんことすんな!」

脱がされてたまるかと後ろを振り返って言葉に詰まった。だってリボーンのヤツ、いつの間に脱いだのかパンツ一枚身に着けていない。
マッパだ。
下まで脱いでる。
………………負けた。
何がって言えるか!色々だ、色々!

悔し涙にくれていると、またもパンツに手を掛けられた。
慌ててオレもパンツに手を掛ける。

「パンツのまま入んのか?」

「違うけど…」

「じゃあ脱げ。」

そんなもん見せられた後で脱げるか!と暴れても力じゃ敵わない。ずりずりと腰から尻にまで下げられてそれでも必死で前を押える。

「しょうがねぇ…」

呟きが零れパンツからリボーンの手が外れた。
やっと諦めてくれたと思ったオレはほっと胸を撫で下ろしてパンツを上げる。と、パンツから離れた手は頬を滑りそのままくいっと上を向かされた。

「な、何かな…?」

眩しい笑顔が怖い。
顔を固定されて逃げられないようにされたんだと今、気が付いた。
慌てて逃げようとしてももう遅い。

唇に唇を重ねられるのはもう慣れた。慣れる気なんかなかったけど慣れた。だけどこれは違う。
しゃべっていたせいで薄く開いていた口からぬるっとしたものが入り込んできた。
びっくりして噛み付きそうになったが、寸でのところで押える。
明日もバンドとしての撮りがあり、仕事に穴をあけさせる訳にはいかない。

ぐっと堪えて息をつめれば、小さく笑った気配がした。
生ぬるいとか思われてるんだろうが仕方ない。それが大人ってヤツだ。
オレが噛み付けないことをいいことに舌が歯列を割って奥へと分け入る。
上顎を舐め取られ背筋を何かが走り抜けた。
大きく開けさせられた口から浅い息が漏れ、喉の奥からくぐもった声が出た。
そのまま歯茎の裏をちょいちょいと刺激していき、それに一々反応してしまう。
腕から逃れようと肩に掛けていた手は縋りつく格好となる。
そうしているうちに舌を舌で舐め取り、絡め取られた。
巧みな舌使いにあっという間に翻弄されて甲高い声が漏れる。
妙に甘ったるいその声に羞恥が戻ってきて、やっと今の体勢に気が付いた。

リボーンの首に巻き付いている自分の腕に慌てる。そっと離して押しやろうとしたが、リボーンの手は後頭部を押さえ、腰を抱き込んでいて隙間さえない。
素肌と素肌がぴったりと重なる感触と、口腔を隈なく刺激される感覚にまたぞろ気が遠くなる。
痺れるような快感に酔っていればそろりと腰に回った手が動き出す。
ウエストをゆるりと撫で付ける指に身体が跳ねた。

下着一枚の猶予とでもいうのか、とにかくこれだけは死守しなければと思ったのに無情にもリボーンの手がウエストのゴムから忍び込んできた。
足の付け根をすっと指で辿られて、その先にまで手が伸びてきた。

「っ…ダメだって!」

口付けを外し、膝を床について身体を下にずらして逃げた。
床のひんやりとした冷たさに自分の身体が火照っていたことが知れる。
中心は熱を持ち始め、座り込んだ先で見つけた下着の汚れに泣きたくなった。

何も見たくなくて顔を手で覆う。
与えられる感覚に身を委ねたいと思った。下着のしみは零れた自分の気持ちだ。
でも逃げた。
年下だとか、男だとか、そんなことよりも自分可愛さに。

胸の奥底にある暗い記憶がフラッシュバックする。

今よりなお頼りないちっぽけな身体…笑顔の優しい先輩…暗い部室で伸し掛かられて………

気持ち悪さに浅い呼吸を繰り返す。
見開かれた瞳からぼたぼたと零れる涙は、指の間から床へと流れ落ちた。
痛くて、苦しくて、辛くて、だけど嗚咽だけは漏らすまいと歯をくいしばる。

しばらく呼吸を繰り返すうちにどうにか収まってきた痛みに自嘲の笑みが零れた。
ふらりとどうにか立ち上がり、扉へと重い身体を引き摺っていく。
廊下へと繋がる扉の前で後ろも振り返らずに呟いた。

「ごめんな…話聞くのまた今度にさせて…」

「ツナ…」

らしくない弱々しい呼びかけに思わず振り向けば、縋るような目をしてこちらを見ていた。
誤解させてしまったんだろうとは思っても、うまい言葉のひとつもでやしない。
扉に凭れ掛かって、それでも精一杯口端を上げて笑みの形を作る。

「お前のせいじゃないんだ。だから本当にごめん…」

大好きだよ。と声に出さずに呟いて脱衣所の向こうへと逃げ出した。


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