リボツナ2 | ナノ



14.




あの生放送以降、どうにもおかしい。
何がおかしいのかと言えば自分の気持ちが、だ。
どうしたものかと思いながらも、エプロンを着けて玉ねぎを刻んでいれば、ひょいと肩先から顔が覗く。
リボーンだ。

「何作ってんだ?」

「ハンバーグ。」

「……」

無言になった。言いたいことは分かる。普通のハンバーグに使う玉ねぎの量じゃないからな。
でもオレも食べるしアルコバレーノ共も食べるのだ。
気が付くとガキ共のお世話係になっていた。マネージャーというより飼育係に近い。その分給料も増えたので仕方ない。乗りかかった船だと諦めることにした。

つらつらとよそ事を考えながらも料理を作る手は淀みがない。玉ねぎをフードカッターに入れるにしても少しは細かくしておかないとたくさん入らないのだ。玉ねぎ10個って結構すごい。
鼻がツーンとして涙目になりつつ刻んでいると、肩に顎を乗せてきた。

「邪魔だよ、重い。」

いつものことなのでこれくらいなら気にならない。
腰に手を回されても、ザンザスさんもこんな感じなのでイタリアの人ってこんなものなんだろう。
それならどんなことをされるとおかしくなるのかと言えば…よく分からない。
突然ムカムカしたり、ぎゅうと心臓を掴まれたような苦しさがあるのに、どんな時に何をされるとそうなるのか法則が曖昧だった。

みじん切りにした玉ねぎを炒めてから荒熱を取っている間に、スープの支度に取り掛かる。冷蔵庫とまな板を行ったり来たりしている間中ずっと子泣きじじぃよろしくくっ付いたままのリボーンにいい加減動き辛いと文句を言った。

「リボーン、邪魔。」

「…」

「リボーン!」

片手は腰に巻きついたまま、もう片腕は胸から肩へとしがみ付いている。
いよいよ身動きが取れなくて肩に乗った顔を覗くと眉根を寄せて難しい顔をしていた。珍しい。

「どうかした?」

「…何でもねぇ。」

いやそれはムリがあり過ぎる。
腕に力を込められて段々苦しくなってきた。それでも暴れることはしない。最近は好きなようにさせているのだ。もがけばもがくほど込められる力が強くなり、拘束がきつくなる。
それに…なんというか嫌じゃない。

1人っ子のオレには分からないけど、兄弟ってこういう接触があったりするもんかなとか思っていた。ほら、人種も違うしスキンシップが激しいのはお国柄ってヤツ?
でも最近、こうやってリボーンの腕の中にいると胸がむずむずする。おかしいよな。それを振り払うように肩に乗せられた頭をグリグリ撫でるとその手を取られ身体を反転させられて顔がリボーンの肩口にぶつかる。

「ぶぶっ…!何だよ!」

包丁は置いてあったからよかったけど、抱き合う格好になった。意外に近い顔に驚いているとほっぺたに暖かい感触が押し付けられる。
軽くちゅっと触れたあと、頬を寄せてきた。
なんだか大きい子供みたいだ…じゃない、本当に子供だった。
むしょうにヨシヨシしてやりたくなって、それもおかしな話だけどまぁいいや…と背中に腕を回してやる。頬から耳裏へと鼻を摺り寄せられ、くすぐったさにリボーンの肩に額を押し付けて堪えていると。

その背中越しに時が止まっているスカルの顔が見えた。

「……」

「…あ、もうそんな時間?ちょっと待ってろよ。」

オレが声を掛けると、止まっていたスカルの顔は蒼白になっていく。そりゃあ見事に。
でも何でだろ?
リボーンのいいところで邪魔しやがってって何のことやら。

ぶんぶんと頭を振って後ずさるスカルに、くるりと振り返ったリボーンが一歩また一歩と近付く。
それに押されるようにじりじりさがるスカル。
どうやらリボーンの逆鱗に触れてしまったらしい。

「こら、そろそろ夕飯だからスカル虐めて遊んでるんなよ。」

「リボーン先輩の虐めは遊びなんてレベルじゃない!」

「そうだな…そろそろ本気で殺ってやるか。」

しょうがないガキんちょ共だ。
ため息を吐いてリボーンの腕を取ると、不機嫌な顔をしたリボーンが振り返る。

「なんだか知らないけど、夜でもよかったら相手してやるよ。だから虐めんな。な?」

そう言えばリボーンはニンマリと笑い、スカルは首を更に激しく横に振っていた。
アンタ自分から喰われにいくのかとかなんとか。
うん?夕飯なら今から作るところだからまだ食えれないよ?






5人の中学生共にメシを食わせて、久しぶりにゲームをして遊べば結構いい時間になっていた。
明日はまたアルコバレーノとしての仕事があるので早めに寝ろよと4人を追い返したのだが、最後までスカルが帰ることを拒んでいた。
曰く、
責任があるのだとか。
なんの責任だか知らないけど、早く寝ろよとオレが言えばリボーンも率先して追い出しに掛かる。
それでも必死に食い下がるスカル。

「何かあったら携帯で呼べ。」

「うん?分かった。」

オレの手を握っているとリボーンがスカルにローキックをかました。ゴッ!という不吉な音を立てたと思っていれば、しゃがみ込んだスカルを蹴って玄関から追い出した。

「お前、友達は大事にしとけよ?」

「友達なんかじゃねぇ。あいつはパシリだ。」

ハードな友達関係なのか、虐めなのか。でもスカルも口応えしてるしこれはこれで友情が成り立っているのだろうか?謎だ。
リボーンがしっかりとキーチェーンを掛けて、それを振り返っては確認する。
何かあるのかな…なんてその時はぼんやり見ていた。





「先に風呂入って来いよ。」

パジャマを出してリボーンに放ると、難なくキャッチしたリボーンがちょいちょいと指で呼ぶ。
何だろうと傍に寄った。

「相手してくれるんだろ?」

「…?ああ!そう言えばそんなこと言ったね。」

それとこれって何か関係があるんだろうかと顔を覗くと、すまし顔のように見えてその実嬉しさを隠し切れていない表情があった。

「ベッドだとすぐ寝ちまうからな。今日は一緒に風呂に入るぞ。」

「ふ〜ん……へ?…………えええぇ?!嫌だよ!お前はいいかもしんないけど、オレはこんなひょろひょろした身体見せたくないって!」

いやだいやだと首を横に振っているのに、羽交い絞めにされて脱衣所へと連れて行かれた。

「やだって…!」

「ツナはオレのことが嫌いなのか?」

声のトーンを落としての呟きに言葉が詰まる。卑怯だ。

「うっ…!きらいじゃない…けど。」

しばらく逡巡していると、リボーンが大人しく返事を待っていた。
そういう態度に出られると嫌とは言えない性格のオレは、意を決して上着を脱いだ。

「…先に言っとくけど、貧弱だからな。笑うなよ。」

「ツナ…」

恥ずかしさで顔も上げられなかったオレは、リボーンがどんな顔をしていたのか見ていない。
見ていたら逃げ出したんじゃないかと思う。
その時はとにかくぱっぱと脱いでさっさと入って出よう!としか頭になかった。


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