リボツナ2 | ナノ



13.




最後まで聞いていたせいで、楽屋まで戻ることができなくなってしまった。
とにかく人・人・人!でその場から動くことができない。諦めの早いオレは座席に戻って人の波が落ち着くのを待っていた。
携帯電話は持ってきていたが、この会場の状態だと繋がるかどうか怪しいものだ。

始まる前は肌寒さを覚えていと言うのに、今は熱くて背中や額に汗が浮かんでいる。
袖で額の汗を拭っていると、ステージの上からタオルが投げつけられた。
会場は照明を落としていて遠くまでははっきりしない。ステージ上では機材の片付けが行われているだけの筈なのだが…。

タオルが落ちてきた方へと視線を向けると、帽子に眼鏡を掛けただけの姿のリボーンがそこにいた。

「バッ…!」

思わず大声を出しそうになり、慌てて口を押えて辺りを見回す。
幸いなことにこちらを注視している視線はない。
人もまばらになってきていたため、ステージの裾に寄るとひそひとと怒鳴った。

「お前、ここ来ちゃダメだろ!もう少ししたら楽屋に戻るから待ってろって!」

ステージ上とその下とでは高さの違いのせいで、普段以上高いところにある顔に向かって怒鳴るがリボーンの顔が見えない。
こっちはファンに見付かりはしないかとハラハラしているというのに、お構いなしの態度に苛々しはじめた。

「おいっ!」

「…オレたちの時には乗ってたよな?」

「は?…ああ、うん。」

いいから早く戻れとタオルを振り回していると、しゃがみこんでタオルを掴まれた。

「あいつらの歌で泣いてたろ。」

「…泣いてなんか……とにかくもう戻るからお前も戻れよ!」

掴まれたタオルから手を離すと、やっと空いてきた通路を後ろも見ずに駆け出した。



何に動揺したのか分からない。泣き顔を見られたことにではないと思う。
大体泣いたことすら気が付いたのは曲の終盤に入ってからだ。
ルッスーリアさんのピアノが始まったのは知っていて、歌詞もおぼろげながら覚えている。
恋の終わり。
繊細なピアノの音ととつとつと終わりを語る歌詞なのに何故か痛いと思った。

会場から楽屋に向かう途中、いきなり腕を掴まれて暗がりへと連れ込まれる。
引っ張る腕の力が強くて悲鳴を上げようとしたら、口を押えられた。

「綱吉…」

「んぐっ!?」

頭の上から聞こえた声はザンザスさんのものだ。
口を押えていた手を外して貰って後ろを振り返るとそこにはやっぱり不遜な表情の従兄がいた。
着替えは済んでいるようで、ステージに居たときとは異なるジャケットを肩に掛けていた。

「ザンザスさん、すっごい格好よかった!それにすごい人気だね。びっくりした。」

「そうか…今度のライブのチケットを送らせとく。」

「ん、ありがとう!」

ザンザスさんのシャツにしがみ付くように興奮気味にしゃべっていると、頬を包み込むように手が触れてきた。
顔を覗き込まれる。

「泣いてた、か?」

「っ…!泣いてなんか。汗だよ、汗!会場って暑いね!」

誤魔化すように服の襟を掴んで手で風を送る。その手を取られて再度訊ねられた。

「泣いたな?」

「……」

「てめーを泣かせるようなろくでなしは止めとけ。」

「だから、泣いてないって!」

ザンザスさんの顔が近くて、なんだか妙な雰囲気だと思っているとザンザスさんの後ろから別の声が聞こえた。

「う゛おぉい!!そろそろ移動しねぇとやべぇぞぉ…。」

「スクアーロさん?!」

引っ張り込まれたのは通路と通路を繋ぐ細い通路。人通りもないなんてと思っていれば、どうやらスクアーロさんが見張りをさせられていたようだ。

「それじゃ、また!」

これ幸いとザンザスさんの手から離れるとスクアーロさんの声が背中を叩く。

「ツナヨシが泣くならオレも黙っちゃいねぇぞぉ…」

「スクアーロさん…」

意外な一言に思わず振り返る。
長い銀髪がザンザスさんの肩の向こうで靡いていた。

「本当に、オレ泣いてないですから!」

言って、今度こそそこから逃げ出した。





どうにかアルコバレーノの楽屋へ辿り着くと、ステージから開放された彼らがオレを待っていた。

「うわっ…!ごめん!」

「まったくだ。マネージャーが楽屋から消えるな。」

「僕は補導されたんじゃないかって、聞いたんだからね。」

「…それは素直に謝れないよ。マーモン。」

スカルとマーモンに詰られていれば、コロネロとラルが何故か変装していた。
や、コロネロはその金髪隠せてないから!
ラルはそんな際どい格好でどこに行こうとしてたの?

コロネロには帽子を、ラルには上着を着せて、それじゃあ帰ろうかと声を掛けるとリボーンに腕を取られた。

「な、なに?」

「埋もれたら拾って帰るのが面倒だからな。ついて来い。」

先ほどのことは忘れたのか、いつも通りにからかってきた。
っとに、オレはお前らより年上なんだからな。

「あ、そうそう。お前ら格好よかったよ!」

リボーンに腕を掴まれたまま振り返って言えば、鳩が豆鉄砲を食らったような顔の5人が見れた。
今更だったかと内心冷や汗を掻いていると、意外なほどいい笑顔が返ってきた。

「まぁオレ様の美声のお陰だよな。」

「違うだろ、オレのドラムがいいからだ。」

「それも違うね。僕のシンセのメロディがよかったんだよ。」

「いや、オレのギターだ!」

「……オレが曲も詞も作ってるんだが…」

喧々囂々ってこんな感じ?
それでも年相応に嬉しそうにしているお子様たちを見て思わず笑顔が零れるツナだった。



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