リボツナ2 | ナノ



10.




キャー!!



絹を切り裂く、ではなく空気すら切断するようなかなりき声と熱気がステージの周りを渦巻いている。
お目当てのアーティストたちを生で感じることのできることの興奮に、会場のボルテージは最高潮となっているのだろう。
それを遠くに感じて、ため息を吐く。
こんな場所、来たくて来たわけではない。
アルバイトとはいえ仕事だ。しかも年末進行で色々押している。猫の手でも借りたい社長である父親に、またも拝み倒されてこんな場所にまでヤツらを働かせにきたのだ。

「ったく、休止中ならこんな番組断れよ。」

まったくだ。
ツナのマネージメントしている相手であるリボーンが歌うバンド『アルコバレーノ』。最近はヴォーカルであるリボーンが俳優業に専念しているために休止していると言って、それくらいならマネージャーしても…と引き受けた筈なのだが……

「これって詐欺じゃないの?」

手にした紙をピラリと裏返す。
最初に手渡された3枚のリボーンの予定表。2枚目までは普通だった。問題は3枚目にあったのだ。
裏返された紙にはほんの数行アルコバレーノとしての予定が書き込まれていた。

はっきり言おう。
オレは目立つのが嫌いだ。何が悲しくてこんなファンだらけの場所にあんな目立つヤツらと一緒に行動しなきゃならないの。
マネージャーだから、勿論ファンが彼らを取り囲みそうになれば庇って先に進めたり、少しのファンサービスもさせたりと気を配らなければならない。
気が回らない上に、彼らより小さいツナがファンから彼らを守ることなど出来なかった。あまつさえ、リボーンに手を引かれたり、スカルとマーモンに気を配られたりとどっちがタレントですか?といった体たらく。…情けない。

そもそも、オレはリボーンの俳優業の時のマネージャーだった筈。なのに、何故かアルコバレーノ全員のマネージャー扱いになっていた。
ヤツらが揃ってオレにことわりもなく、社長を脅してくれたらしい。
言いたいことはあったが、もういい。
リボーンのマネージャーを引き受けてからこっち、諦めることと流されることにはもう慣れた。

ふぅ…とまたため息を吐いて、テーブルの上の冷めたカフェオレを飲む。
件のガキんちょ共は今、舞台へ上がった頃だろう。
歌を聴けと言われてはいたのだが、舞台裏に足を運ぶことさえ億劫だ。
このままここで座っていよう。

座っているスチール製の椅子をギーギー言わせながら、足をぶらぶらさせていると突然扉が開く。
ノックくらいしろよ、と文句を言おうとして止まった。

「綱吉!」

「う゛おぉい!もう出番だから戻れ!」

「…ザンザスさん?スクアーロさん!」

勢いよく開け放たれた扉から入ってきたのは、従兄のザンザスと先日会ったばかりのスクアーロだった。
驚きで目を瞬かせていると、ザンザスはあっという間にツナを抱きかかえた。
ぎゅうぅ…と締る腕の力にツナは酸欠状態になる。

「ちょっ…!ギブ!ギブアップですってば!」

ふた周りほども体格が違うツナとザンザスでは、抱き潰されるというのも比喩ではない。
息も絶え絶えに背中を叩くと、やっと腕の力を緩めて顔を覗き込む。

「最近、こっちに遊びにこねぇからどうしたのかと思ってりゃ…あんなガキどものマネージャーだと?!ふざけんな。」

「…そこから?!それってオレのせいじゃないよ。文句は父さんに言って下さいって!」

「……よし、あんな事務所潰すか。」

「ギャー!!ごめんなさい!父さんが悪いのは本当だけど、事務所潰すのだけは勘弁して下さいっ!」

まだ今月の給料が払い込まれていないのだ。
あれがないと昼代が困る。

そんなアホな遣り取りを見ていたのはスクアーロで、呆れながらもザンザスをツナから引き剥がすとツナに一言。

「ここまで来てんなら、オレたちの演奏聴いてくんだよなぁ゛?」

「う…!」

父親が芸能事務所を開いているというのに、ツナは音楽にも演劇にも興味がない。
ザンザスのバンドを見に行くと言い続けて幾数年、面倒臭がりで興味もないので一度として聴きにいったことなどなかったのだ。
今日とて、あいつらの歌も聴かずここで時間を潰そうと思っていたくらいなのに。
特に嫌いという訳ではないのだが、どうにも華やかな場所というところが苦手なツナはうううっ…と言葉を詰まらせる。

「あんなガキ共の歌なんざ聴かなくてもいいが、オレたちの歌は聴いていくよなぁ?ザンザスもお前が居るから今日来たんだぜぇ!」

ニヤニヤと笑いながら横目でザンザスを見ていたスクアーロは、余計なことを言ったがためにザンザスに吹き飛ばされた。

「ちょっ!ザンザスさん、本番近いんでしょう?!蹴っちゃダメですって!」

「…見に来るか?」

「う、うううっ…分かった。」

押し問答を続けても時間の無駄だろう。仕方なく用意された席で観覧することを約束させられた。








生放送だというのに、自由すぎるザンザスたちによって開始時間が少しずれ込んだりしたのだが、どうにか開幕と相成った。
不承不承ではあるものの、ザンザスが用意していた席へと開始時間間際に滑り込んだツナは、場違いな自分を自覚していた。
右を見ても左を見ても始まる前から熱狂しているような人たちだらけのこの場所は最前列だった。
ひとつだけぽつんと空いていた席にぎりぎりで着席したツナは、重いため息した吐けない。

今どんな曲が流行りで、どんなアーティストが出るのかさえ知らないのだ。
知っているのはリボーンたちとザンザスたちの2グループだけで、しかも聴いたこともない…なんてここで呟いたら袋叩きに遭いそうだ。
とにかく大人しくしているのが一番と小さい身体を益々縮ませてひっそり佇んでいた。
そんな時間が数分も過ぎた頃、やっと開幕してくれた。

アーティストたちが入場すると、一斉に立ち上がるなんてことも今日初めて知ったくらいだ。
座っていると目立つので一緒に立っていると、見知った顔がステージの上に出てきた。

「あ、リボーンだ…」

華やかな存在感たっぷりで登場してきたリボーン、コロネロ、ラル・ミルチ、スカル、マーモンはあまりにこやかとは言えない表情でステージの真ん中まで歩いていく。
ヤツらが登場した途端にすごい悲鳴と絶叫が会場を覆い、あまりの音量にびびって周りをきょろきょろしてしまった。
横からも、後ろからも、上からもヤツらに届けとばかりに上げる悲鳴。

「人気あるんだなー…」

自社のタレントとしては、素直にありがたい。
やっと視線を中央に戻すと、リボーンと目が合った。わずかに目を瞠り、ニッと口端だけの笑みを見せた。
……何かに怒っているようだ。
何にだろうかと考えを巡らせていると、顔をしっかりとこちらに向けてウインクしてきた。
両脇の女の子たちがギャー!と言って倒れる。

いつものおふざけかと、邪険に手で払ったらこちらに向かってこようとした。
それはスカルがどうにか止めてくれたのでよかったのだが、あいつ何したいの。
弟が晴れ舞台でドジを踏まないかハラハラしている兄の心境で様子を窺っていると、今度は女の子の声と一緒に野太い怒声も聞こえてきた。

ザンザスさんたちの登場だった。
滅多にこういった番組に生出演しないらしい彼らに、一際大きい歓声が上がる。
見れてラッキーだとか、プラチナチケットだとか後ろで喋っていたことを思い出した。
本当に人気あったんだと感心していれば、ザンザスさんがゆっくりと歩いてきた。
この席を用意してくれたのはザンザスさんなので、小さく手を振ると歩みを止めてこちらを振り返る。
見る人が見なければ分からないほどの笑みを浮かべ、また歩き出した。
後ろからはこの席すげーイイ!とか、リボーンにザンザスまでこっち見たよね〜!!なんてきゃいきゃい言っていた。
どっちも知り合いです、なんてバレたら絞められそうだよな…。
どうか何事もなく、無事終わりますように!



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