リボツナ2 | ナノ



6.




その日の朝の空は少しもやがかかったような、薄い水色が目に優しかった。

リボーンのマネージャーになって一週間が過ぎていた。
何事もなく…とは言い難いが、荒波を立てることはなくどうにか仕事のマネージメントをこなせているのではないかと思う。雲雀さんよりはマシかと思いきや、過剰なスキンシップでプラマイゼロ。
そんな日常に慣れ始めていた。

 
薄く開かれたカーテンの隙間から覗く太陽は酷く曖昧だ。
冷たい空気のせいで、寝起きの悪いオレはまたも布団から抜け出せなくて、気が付けばリボーンは学生服姿でオレの上に覆い被さっていた。


…あのな、呼んでも目覚めなかったオレが悪かったとは思うんだけど、口を塞ぐのはやめてくれないかな。しかも口で。危うく口の中まで何かが進入するところだった。
何がとは考えたくない。


「リボーン!昨日も止めろって言っただろうが!!いくら寂しくてもそれはダメ!」

「そうか?イチイチ小さいことに拘るな。いっそ彼氏になれ。」

「なるかっ!お前ふざけてるな?!」


口端までねっちょり舐めてくれたお陰で、拭った手の甲が濡れている。
気持ち悪いことならきっと寸前で気が付くのに、されていることが気持ちよくて最近では待っているような…いやいやいや!そんなことはない!ないったらない!


片方だけぺしゃんこになっている髪もどうでもよくて、むくりと起き上がって着替える。
スウェットの上着を脱いで何気なく腕を見ると赤い跡が歯型付きで残っていた。


「…リボーンくん?これは何かな?」

「何だツナ、そんなことも知らねぇのか?それはキスマークって言うんだぞ。」

「それくらい知ってるっつーの!そうじゃなくて、どうして寝る前には付いてなかったのに何で今付けられてるのかって聞いてるんだよ!」

「ツナが寝ている隙に付けたからだぞ。」

「お〜ま〜え〜は〜!!」

「ツナの貞操はオレの理性の上で成り立っているんだ。我慢強いと誉めてくれてもいいぞ。」

「誰が誉めるか!」


こいつを構うと話が進まない。しかも嫌な方向にズレる。
無視してスウェットの下も脱いでTシャツとパンツを身に付けていく。
どうでもいいけど、リボーンはオレの着替えの時には席を外さない。ついでに視線も外さない。
…うん、無視だ。


ボサボサの髪の毛のままで着替えを済ませると、いつものように食事の支度をして学校へと送り出してやる。
オレの方は中学生のこいつより時間の余裕があるから。
それにしても、不思議だ。
何がって、この目の前のリボーンの変装とも言えない格好が。


「本当にそれでバレないの?」

「バレねぇ。実際、この格好でファンに捕まったことはねぇぞ。」


そうかなぁ…みんな目が節穴なんじゃないのかな。
リボーンは中等部のブレザーをきちんと着ている。伊達眼鏡だろう黒縁の眼鏡に、額を隠すように下ろしている前髪以外は何も弄ってはいない。
にも拘わらず何故かファンに見付かることもなければ、追いかけ回されたこともないんだとか。
芸能人でいる時の雰囲気は消しているからか?う〜ん、オレにしてみれば一発で分かるのに。


「お前はどんな格好しててもお前だよ。」


その嫌味ったらしい足の長さも、年齢詐称してるんじゃないのかと疑いたくなるようなオヤジくさい口調も、広い肩幅も、視線一つで色気の調節ができるお綺麗な面も。
隠しようがないと思っているのはオレだけなのかな。


「……朝っぱらから襲われてぇのか?」

「それこそ、朝っぱらからくだらないこと言ってんな。ほれ、行ってこい。迎えは14時に駅前だからな!」


玄関先での毎朝の遣り取りをして、ぐいっと背中を押してやる。
すると、背中を押していた手をかわしてオレの体勢が崩れたところを抱き留められた。
頬に押し付ける唇が、ちゅっと音を立てて離れていく。


「リボーン!」

「いってくるぞ。」


触れた頬に手を当てて声を荒げるが、ちっとも気にしていないリボーンは笑いながら玄関から消えていった。
あまりの早業に言葉も出ない。っていうか、毎朝の挨拶のようになってきている。
これも諦めるしかないのか?
もう、どこから突っ込めばいいやら…。


ため息を一つ吐くと、自分も大学へ行く時間が迫っていたことに気付く。
寝癖…は、まぁいいや。
食器の片付けをして、火元の確認をしてから家を出た。







今日の撮りはスタジオだ。
初めてのドラマ出演だというのに、演技も堂に入っていて他の年若い共演者よりよほど自身の役どころを弁えた演技をしている。あの強烈な個性を押し出し過ぎず、且つ殺し過ぎてもいない。


マネージャーをしていて思ったのは、リボーンは頭の回転がいい上に、立ち位置を掴むのが上手い。
普通、あの年のガキならばもっと目立ちたいだの自分を必要以上に大きく見せたがるものだ。なのにこいつはそういった自己顕示欲のコントロールが上手いのだ。


芸能人向きのヤツだなー…なんて思いながら、撮影の邪魔にならないようにスタジオから離れて廊下で一息いれていた。手には紙コップ。ビタミンCを摂ろうとレモネードをチビリチビリと煽っていると、廊下の端から見慣れた銀髪が視界の端に映った。


「あ…スクアーロさん!」


サラサラの長い銀髪を結わえている彼は、従兄のザンザスさんと同じバンドのスクアーロさんだ。
オレの声に気が付くと、切れそうに鋭い眼光が見開かれる。


「う゛おぉい゛!!綱吉じゃねぇか!?どうしたこんなところでよぉ。」

「スクアーロさんこそ。…オレは今、リボーンのマネージャーをしているんです。」


スクアーロさんは地声が大きい。廊下を行き来する人が振り返るが、いつものことなので気にしない。
ずかずかと長いコンパスで駆け寄るスクアーロさんは、オレの目の前に立つとポフポフと頭を撫でる。
スクアーロさんといい、ベルさんといい、オレのこと猫の子だと勘違いしてないかな。


ここでザンザスさんがいると、情け容赦なく鉄拳が下るんだけど…あれ?一人?


キョロキョロと辺りを見回すオレに、頭を撫でていた手を後頭部に回す。
オレの視線の行方に気付いたらしいスクアーロさんは、苦笑いしていた。


「ザンザスはバックレたぞぉ。そのお陰で綱吉と会えなかったんだから、ざまぁねぇ。」

「あはは…相変わらずなんだ。ザンザスさん。」


まあ、変わる訳ないよな。ロックバンドってどんなことしてるんだか知らないけど、大方音楽番組への出演依頼をすっぽかしたかなんかじゃないかな。
あの人、撮影嫌いだから。


スクアーロさんは撮影が終わったとかで急ぎの用もないからと、そのまま廊下で話していると、休憩に入ったらしいリボーンがオレを探しにやってきた。
勘だったんだけど、スクアーロさんとは仲良くなれないだろうなと思っていたのだが、やっぱり仲良くなれなかっようだ。
2人とも存在を確認した時点でガンの付け合いが始まっていた。


「こら、リボーン!きちんと挨拶しろって!すみません、スクアーロさん。」


殺気まで漂わせている2人の間に入ると、慌ててスクアーロさんに頭を下げる。
最近は大分慣れて、きちんと挨拶できるようになってきていたのに。何でスクアーロさんにはこんな失礼なんだろう。


「気にするな゛あ゛ぁ゛…こいつはいつもこんな感じだぁ。」

「そうだぞ。今さら取り繕えるか。いいから来い、もう少しで撮影が終わる。」


睨み合っていた2人は、オレを間に入れるとふっと視線を逸らして話を変えた。
そう言えば、リボーンもバンドのボーカルだから、音楽番組とかで会ったことがあるのかな。
でも、最初から?何で?


お互いが気に入らないと態度で示している2人相手に何が言えよう。
仕方なくスクアーロさんへ謝ると、その場を後にする。
踵を返して歩き出そうとすると、スクアーロさんに手を引かれてハグされそうになったが、リボーンが上手にそれを阻んだ。
またも冷たい視線の応酬が始まってしまい、困ったオレはリボーンの服の裾を掴むとスクアーロさんから引き剥がす。

「すみません、また!」

「おお、またなぁ!」

「2度とねぇよ。」

「こらリボーン!」

「う゛おおい゛!てめぇ!!」

「すすすすみません!行くぞ、リボーン!」

てな訳でどうにかスクアーロさんから引き剥がすことに成功した。
リボーンの手を握ってその場から離れると、妙に大人しいリボーンに気付く。

「どうかした?」

「…何でもねぇ。」

握っていた筈の手が、逆に強く握り返されていて振り解くことも出来なくなっていた。
相手は中学生だし、意外と悪くない。
オレより大きな手に握り込まれる暖かさに、ちょっとだけ心が温かくなったってことはリボーンには内緒だ。



.










人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -