リボツナ2 | ナノ



5.




和やかな雰囲気で進む夕食に、オレだけが取り残されていた。
いや、取り残されているというより蚊帳の外で話が進んでいっているというべきか。

「そうなの、じゃあドラマは初出演なのね?」

「はい。今まで歌ばかり歌ってきたので畑違いで…そんな折に綱吉くんが雲雀さんの付き人をしていると耳に挟みまして、それなら僕もお願いしたいと社長に掛け合ってみたんです。」

聞いていて背筋が冷たくなった。
お前、うちの母さんに敬語使って媚売ってどうするつもりなんだ?『僕』?!今『僕』って言ったか??
口も挟ませて貰えない会話に悶絶していれば、母さんからは見えないテーブルの下で足を蹴られた。

「っ!」

痛いのなんの。
口に入れたがんもの炊き合わせがちょびっとでちゃったじゃないか!
恨めしく横顔を睨んでいると、息子がそんな目に合っているとは気付いていない母さんはリボーンとの会話に熱中したまま、オレの席の前で瞼を瞬かせてうるうるさせていた。

「そうなの?ご両親は亡くなって…辛かったでしょうに。うちのつっ君でよければいくらでも連れていってくれて構わないわ。」

「って、おおーい!」

「奈々さん、ありがとう。」

本人をスルーして勝手に話を進めるな!…って言えないところが辛い。
蹴られた足は痛いけど、朝のアレも意味分かんないけど、こいつに両親が居ないっていうのは本当だから。
父さんから貰った資料にもきちんと記述されていたし、本人からも聞いている。
ひょっとしたら、うちの母さんとの会話で母親の存在を思い出しているのかもしれない。

吹き出たがんもを拭いてまた食事に戻る。
はっきり言って、オレは食事時に会話はしない。だってこれがオレの唯一の楽しみだ。

もういいや…と半ば諦めの境地で夕食を平らげていると、どこから見ても爽やかそうな青年の顔でタラシにかかるリボーンが。
うーん、母さんもすっかり気を許しているな。これ父さんが見たら泣くか怒るかいじけるかだろう。そのくらい母さんはリボーンが気に入ったようだ。

昼間の台本合わせの時も思ったけど、こいつ俳優初めてな筈なのに上手い。いや、母さんへの態度がお芝居臭いって訳じゃないけど、作ってはいる。口調はまるで違うし、出演者や仕事の関係者たちへの態度よりずっと気を使っているのが分かる。
つーか、何で母さんにそこまで?

最後にはほとんどオレ一人で食べきった夕食が終わると、母さんはお茶を淹れに席を立つ。
背中が見えなくなってから、リボーンの服の裾をちょいちょいと引っ張った。

「何だ?」

「いやいや、何だ?じゃないよ。何うちの母さんにおべっか使ってんの。」

「お前を預かるからだろ。」

「逆だ!オレが、お前の面倒を見るの!!」

「フン、朝もまともに起きれねぇヤツの言うことじゃねぇな。」

うぐぐっ…。
反論できなくて下唇を噛む。でもそこで負けたくないオレは精一杯怖い顔で睨みつけた。

「ツナ、上目遣いは止めろ。他のヤツには絶対するなよ。」

「ちがっ!オレは睨んでるの!」

「見えねぇだろ、それじゃ。」

眉間に打ち込まれたデコピンが地味に痛い。
ちょびっと涙が浮かぶ。
眉間を擦っていると、その擦っている手を外されて目元に溜っている涙に吸い付かれた。
うん?目元が生暖かい。

………。

「おおおおお前ぇぇ!朝も、今も何しやがる!!」

「今朝も思ったが、てめぇは反応が鈍い。そんなんで雲雀に何もされなかったのか?」

「リボーンじゃあるまいし、何されるっていうんだ!」

慌てて掴まれた手を引き剥がすと、席を立ってリボーンから距離を取る。
それでも余裕綽々で足なんか組んじゃっているこいつが憎い。お前の奇行のせいでオレの心臓はバクバクしてるのに!

「あらまぁ、つっ君たら何騒いでるの?」

お茶を載せたお盆を片手に母さんがやってきた。
するとリボーンはまたもでかい猫を被ってしおらしく言い繕う。

「綱吉くんにイタリア式の親愛のしるしを送っていたのですが、やはり気持ち悪かったようで…。」

って、お前さっきとキャラ違い過ぎだ!しかもあれはどうみても悪戯だろうが。
悶々と心の中で叫んでいると、すっかり騙された母さんはまあまあ…なんて同情しだす始末。

「つっ君、リボーン君はあなたをお兄さんのように慕ってくれているのよ。慣れてあげなさいね。」

「……え、いや、それは。ううううっ。」

慣れちゃったらヤバイんじゃないだろうか。いくらオレが母さん似でも、男なんですけど!
……でも。

「そう言えば、ザンザスさんもそんなようなことするか。そっか、イタリア式ね。成程。」

納得していると、今度はリボーンが納得いかない顔でオレの腕を揺すっている。

「ザンザスって、まさかあの。」

「ん、そうだよ。お前父さんから聞いてないの?うちの父さんはザンザスさんちの家系でさ。だからオレとザンザスさんは従兄弟になるだ。」

大手芸能プロダクションのロックバンドのボーカルのザンザスさん。かなり有名らしいんだけど、オレはロックにはとんと疎いので実はよく分からない。ついでに、その大手プロダクションの社長の息子だったりする。それは業界では極秘事項なんだけどね。

イタリアから日本に渡り、大成したおじいさんを持つザンザスさんは両親ともにイタリア人だ。
そのザンザスさんは父方の従兄で、10歳も離れていたこともありよく可愛がって貰っている。現在進行形で。

会う度に頬に顔を寄せたり、もの凄い腕力で抱き締められたりしているのだが、あれはオレのことを小さい子と勘違いしているんじゃなくて、イタリアではそれが当たり前だから?それなら納得だ。

「ザンザスさんもよくするし、そんなもん?」

「……違うぞ。」

「へ?」

「まぁいい。後でな。」

ボソリと呟いた音量は母さんには聞こえないくらいに小さくて、けれでもオレにはしっかり聞こえた。
その声に含まれた苛立ちまではっきりと。
何に苛立っているんだろう。不思議なヤツだ。

その後、食事を終えて着替えその他を持ってオレの車に乗り込む。
中古で買ったミニクーパーはオレには丁度だけど、リボーンには窮屈そうだった。
シートを一番後ろまで下げても足がつかえるってのはどういうこと?!

「狭いぞ、ツナ。」

「文句言うな!オレには丁度いいんだよ!!」

規格外の足の長さのせいであって、オレが短い訳じゃない筈なんだ!
たぶん。






リボーンのマンションに帰ってくれば、すでに11時を回っていた。
明日は夕方から雑誌の撮影があるだけなので、学校に行くように告げる。

「そういえば、お前同じ学校なんだってな。」

「そうだぞ。知らなかったのか?」

「うん。知らなかった。やっぱ中等部と大学は離れてるからかな。」

今朝のソファ落下事件(事件じゃないけど)で懲りたので、大人しくリボーンのベッドに入れて貰うことにした。
かなりでっかいから端に寄れば邪魔になんないだろうと思って。
こいつの仕事が軌道に乗ったらマネージャーを変わるつもりでいるので、わざわざベッドを購入するまでもないし。

シャワーを浴びて小ざっぱりした身体で、コロンとベッドに転がる。
大きさだけでなく、スプリングの沈み込み具合やシーツの手触りのよさもまた格別だった。
まだ寝る気はなかったのに、ちょっとだけど目を閉じると意識が沈んでいくのが分かった。
ふわりと布団を掛けられて益々混濁する意識の端に、何かが引っ掛かる。

仰向けで片側に首を向けた状態で長くなっていると、晒した首の襟元がチクリとした違和感。
それでも眠さに勝てず、瞼を閉じたまま手で払うと手が頭の中に潜った。ちょっと固めの髪を何気なく引っ張ると鎖骨の窪みを舐められて、瞬間、びくりと身体を震わせる。
いや〜な予感に瞼を開けるとそこにはリボーンがいた。

「…お前ね、邪魔なら言葉で言ってくれっての!」

「邪魔だなんて思ってもいねぇぞ。むしろそのまま寝てろ。」

「寝てられるか!」

眠りの邪魔をしやがって、すっかり目が覚めたっつーの。
吸い付いていた顔を押し退けて横に避ける。するとリボーンが横たわり長い腕が身体に巻き付いてきた。

「イタリアだかなんだか知らないけど、この体勢はおかしいだろ?!」

後ろからすっぽり包まれる格好で、項には息がかかるほどの近さに顔があるのは。
もぞもぞと身体を動かして距離を取ろうとしても、絡みついた腕が離してくれない。

「誰かと一緒に寝るのは久しぶりなんだぞ。」

「それは…。」

そんなに寂しそうな声で呟かれると邪険にできないじゃないか。
そうだよな、こいつ見かけは大きくてもまだ中学生だし両親もいないし、寂しいんだよな。
仕方ないか。なんて思ったのが運のつき。
それからは一緒のベッドで寝る度に抱き枕よろしく抱きつかれる羽目に陥った。

しかも、その後。リボーンが寝入ったというのに、オレはと言えば項をくすぐる息と囲われている腕の強さに妙な高揚を覚えて仕方なかった。それが嫌ならよかったのに、気持ちいい感じで非常に…困ったとだけ言っておこう。

「つーかマジで離してくれよ!」

「くーくー…。」

「狸寝入りすんな!」

これに慣れたらどうしよう。



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