リボツナ2 | ナノ



1.




母さんとの約束の時間は午後6時。場所は駅前の噴水で。

受験も終わり、4月からの高校生活を目前に控えた3月半ば。
いわゆるホワイトデーとかいう日だった。
相手の人の都合がつくのがこの日しかないとかで、急遽決まった食事会。
母さんの再婚相手はさて、どんな人なんだろう?


オレが3歳になったばかりの頃、父さんが交通事故で亡くなってしまった。代わりに女手ひとつでオレを育ててきてくれたのは母さんだ。小さい子供を抱え、口には出さない苦労はあった筈なのに、いつも笑顔でいてくれた。
その母さんが高校受験を合格したその日に、実はいい人ができたんだけど…と打ち明けてくれた。
内緒にしていたらしいけど、オレにはバレバレだったんだ。だって女の人って好きな人が出来ると綺麗になるじゃないか。母さんも例に漏れず、ここ2〜3ヶ月ですごく若々しく綺麗になっていっていた。
だからなんとなく分かっていたし、母さんが選んだ人ならぜったいイイ人だって確信してる。
よかったね、と言うと母さんはびっくりして知ってたの?と訊ねてきた。それには答えずに、今度紹介してよと言ったら…こうなった訳だ。
相手の人にも息子がいるんだとかで、オレより一つ上らしい。母さん曰く、すっっごくいい男で、賢くて、運動神経までいいらしい。
母さんは話を誇張するタイプだから話半分で聞いているんだけど、それにして相手の息子は母さんのことをどんな風に思っているんだろう?
祝福してくれてるのかな?いい人だといいんだけど。

そんなことをつらつらと考えながら、友達が来るのを待っていた。今は12時。まだ約束の時間まで6時間ある。街まで出たついでにと、友達と欲しかったCDやゲームを探しに行こうと待ち合わせしているところなんだけど…

目の前には噴水。その横には女の子を数人侍らせている背の高い男がひとり。
ホワイトデーのお返しだろうか、手にはお返しが入っているのだろう袋を抱え、一人ひとりにキスをしたり腰を抱きかかえたりして女の子たちを喜ばせているようだ。
なんつーか…別次元?
世の中にはマメな男っているもんなんだな。
それにしてもここからじゃ顔が見えない。あんなにモテる男の顔を一目見たいなー…なんてウズウズしていると、ポン!と肩を叩かれた。

「お待たせ!」

「うわっ…!山本かぁ…びっくりした!」

「何をそんなに真剣に見てたんだ?」

「アレ。」

と指差した先を山本も見る。するとなるほどな、と言ってニカッといつもの笑顔を浮かべると、顔拝んでこーぜ!と言って腕を掴まれた。
うん?顔見たいのは分かるけど、何でオレの肩に手を回すの??

よく分からないながらも、別に逆らうほどのことでもないやと大人しく山本と肩を組んだままそちらを歩いていく。
山本は同い年の友達だ。行く高校も同じなんだけど、野球が上手で中学の頃から色々な高校がスカウトにきていたほどの選手だ。そんな山本はまだ入学していないというのに、高校の野球部に参加させて貰っているらしい。友達として鼻が高いよ。…頭の出来はオレとどっこいどっこいだとしても。

そんな山本はオレより一回りは違う大柄で、オレはどちらかと言えば小柄。まだ、であってこれから伸びるんだ。そんな2人が肩を組むとなんだか彼氏彼女に見えるなんてその時のオレにはちっとも気が付かなかった。
何気なさを装って2人、その件の男の顔を拝見しようと横を通った。

黒い髪と黒い瞳は山本と同じ筈なのに、骨格や顔立ちから日本人じゃないことが分かるほど違っていた。ぼんやりと見詰めていると、こちらの視線に気が付いたらしい男が顔を上げる。
モテるのも納得の綺麗な顔立ちと、端正な佇まいが印象的な男だった。
オレを見る男の目が見開いていた。オレも同じだったかもしれない。
視線と視線が合って、一瞬自分と相手しか存在していないような気になる。

だけどそんな瞬間はすぐに終わり、オレは山本に肩を抱かれたままその場を立ち去った。
そうしてそんなことがあったことなどすぐに忘れてしまっていた。




約束の午後6時。
山本と別れ、お目当てのゲームを胸に抱えて待ち合わせ場所である噴水前まで歩いてきた。
その前ではいつもより小奇麗にしている母さんと熊のように落ち着きのない大男が仲良さそうに待っている姿が遠くから見える。ほんの少しの寂しさを、たくさんの嬉しさで包んで、母さん!と声を掛けた。
すると隣の大男がビシッと直立して、オレに向き直る。

「こ、こんばんは…」

「や、やあ!こんばんは!いや初めまして、かな?」

「そうですね、初めまして。綱吉です。」

「沢田家光です。君のお母さんとお付き合いしてます。…よろしくな!」

「うん!」

大きな手を差し出されて、躊躇いなく手を握り返すことができた。なんというか、暖かい感じの人だ。それに母さんのこと、大事に思っていてくれるのが分かる。きっと優しい人だ。大丈夫。
うん、よかった。

「そろそろ食事に行きたいんだが…悪いな、オレの息子がまだで…」

「いいですよ。ね、母さん。」

「あら?あれじゃないかしら…」

母さんの視線の先を辿ると、一人の背の高い男が人垣の向こうから駆けてきた。すらりとした長身に、思わずえっ…と声が漏れる。だって、あの男って…

「お待たせしてすみません!」

そう言って近寄ってきたのは昼に見たマメ男!
その男がこちらを見た瞬間、目を瞠った。
オレも覚えていたが、男も覚えていたらしい。

「リボーン君と会うのは2度目よね?こっちは息子の綱吉。ほらご挨拶なさい。」

「…よろしく…」

「……」

母さんに肘で突かれて慌てて頭を下げたのに、こいつったら益々目を見開いて呆然とこちらを見ているだけだった。

「おい、リボーン…どうしたんだ?」

あまりにオレばかり穴の開くほど見詰めているリボーンに、家光さんが声を掛ける。するとやっと魂が戻ってきたらしいリボーンが呟いた言葉が…

「お前、ゲイなのか?」

「はぁ?!」

「…お前、昼に男と肩組んでただろ?」

「ふざけんなっ!!」

カッときたオレは、ヤバイと思う間もなくリボーンの足を払っていた。


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