リボツナ2 | ナノ



薬のない病にかかりました、治せるのは君だけです 2




どういうことなのかとオレの腕を掴んだまま振り返ったリボーンににじり寄れば、リボーンは掴んでいた腕から手を外すとオレの肩にその手を回した。

「理由はそこに隠れてやがるてめぇの親父に聞いてみろ」

「は…ぁ、え?」

グッと引き寄せられたせいで、よろけるようにリボーンの胸に転がり込む。そんな場合じゃないのに自分以外の体温と匂いに包まれて何も考えられなくなった。
リボーンを好きになったことは自分の意思なのにとか、さっきの告白の返事は無視かよとか、それより妙な言葉を聞いた気がして気を紛らわせるために顔を横に向ければ。
物陰からゴツくてデカい背格好の父さんと、その後ろから覗き込むように顔を出している母さんを見付けて悲鳴を上げた。

「ひぃぃいい!なんで!!」

どこまで聞かれていたのか知らないが、とにかくこの体勢はまずいとリボーンの腕から逃げ出そうとした。
なのにそれをリボーンの腕が邪魔をする。

「リ、リボーン?!」

先ほどのアレを見られていたとしたらこの格好は誤解されてしまう。いや、誤解じゃないけど。
だからといって男同士で恋人みたいにくっ付いているのは、やはり外聞が悪い。
取り繕うように一刻も早く離れようともがくオレの抵抗をものともせず、リボーンは腕を緩めないまま何故か父さんに視線を向けていた。
どうやら知り合いらしい2人の顔を交互に眺めてから、逃げ出すことを一旦諦めて父さんに声を掛けた。

「そんなとこで何してんの…?」

「いや!!何でもないっ!何でもないぞ!」

あからさまに怪しい挙動で首を横に振る父さんを半眼で睨み付けていれば、脂汗をかいていた父さんの後ろで母さんが頬に手を当てて目を細めていた。…嫌な笑顔だ。

「その子が夏祭りのお相手かしら?」

「うっ…う、ん。そうだけど……」

突然訊ねられると、本人の目の前では嘘を吐くことも難しい。否定してもバレるからと諦めて頷けば、母さんは含みのある顔でリボーンに向き直った。

「初めまして。綱吉の母です。ひょっとして、あなたがリボーン君?」

その言葉に頷いたリボーンを見て、母さんは目を見開くとチラリと横に居る父さんの顔を覗き見る。
おかしい、どうしてリボーンの名前を知っているのだろう。オレは家で彼のことを喋った記憶がない。
母さんの物言いたげな視線から目を逸らしたまま、父さんはゴホンと空咳をするとオレを…というよりオレの肩を抱いている手を恨めし気に見詰めながら口を開いた。

「あーその、久しぶりだな。最近、会社に出て来ないからみんな心配してたんぞ」

バツの悪そうな父さんの台詞に首を傾げる。
そもそもリボーン相手にどうして『会社』が出てくるのだろうか。普通はオレの同級生なのだから『学校』だろう。
そういえば出会った場所が父さんの会社のパーティなのだと遅まきながら気付く。知り合いなのかとリボーンの横顔を見上げると、ニィと口端を上げる顔が見えた。

「そうか?それはツナが心配だったからじゃねぇのか?」

突然回ってきたお鉢に目を瞬かせていれば、父さんはリボーンに向かって何かを隠すように口の前で指を立てる仕草をしていた。
それを見てピンとくる。

「…父さん、どうしてここに居るんだよ」

我ながら低い声が出たと思いながらそう声を掛けた。リボーンは父さんと知り合いだ。それは分かったが、問題はどういう類の知り合いなのかということだ。
父さんの後ろで事の成り行きを楽しげに見守っている母さんはどういうことなのか知っているらしい。
だから、顔を自分と同じ高さにある位置まで戻して同じことを今度は母さんに訊ねた。

「母さんはどうしてここに?」

そんなオレの問いに母さんは瞳を輝かせて答えてくれる。

「ふふ、あのね…ツナは家光さんの会社の同僚のリボーン君と去年の年末に会ったんでしょう?その後、リボーン君と家光さんで賭けをしたのよ。今日が賭けの期日だからってことで、ツナを尾行けてたの」

父さんと母さんに尾行されていたことも知らなかったが、それを何でもないようにサラリと告げられて顔が引き攣った。

「は、はは…」

とにかく母さんの言葉を順に整理してみよう。
さっぱり分からないが、どうやらリボーンは父さんの会社の社員らしい。学生が社員ってどういうことなのかと思うが、話の肝はそこじゃない。
つまり父さんとリボーンの交わした『賭け』とやらがカギらしいと気付いて、今度は隣に居るリボーンの顔を覗き込んだ。

「…どういうことなんだよ?」

聞けば聞くほとさっぱり分からなくなってくる。
オレの告白は両親に見守られての恥ずかしいものだったし、リボーンはオレのこの気持ちをそう仕向けたのは自分だと言うし。
父さんとリボーンは知り合いで、どうやらオレのことで賭けなるものをしたらしくて…それはきっとオレに関係のあることなのだろう。
知る権利はある筈だとリボーンを睨みつけていれば、オレの腕を掴んでいた手が額にかかる髪を掻き上げ目の前に黒い瞳が近付いてきた。

「なあツナ。薬のない病気ってのはツライと思わねぇか?」

「へ?あぁ、うん」

どうして突然そんな話をするのか分からないが、確かに治療法が確立されていない病気は苦しいものだと思う。
話の飛躍に乗って頷いてはみたものの、近付いてくるリボーンの顔に意識が奪われて正直どうでもよくなってきた。
機械仕掛けのおもちゃみたいにカクカクと首を縦に振っていれば、間近に迫った黒い瞳が細められて額に自分以外の熱を感じる。
リボーンの額とオレの額がくっ付いているのだと気付いて目を見開くと、その視界の端でリボーンの唇がうっすらと含み笑いを零した。

「それを治せるのはお前だけだとしたら、どうする?」

「おおお、おれぇ?!」

まさかの指名に声が裏返る。
勉強なんて言うに及ばず、医学的な知識の欠片も持ち合わせていないオレに何が出来るというのか。
なんたらドナーとかいうヤツかとチラと頭の端を過ったが、それにしてはリボーンの体調がおかしいなんて話を聞いたことがない。体育では何をやらせても一番だったのだ。
息を吸えば同じ空気を取り合うほど近い位置にあるリボーンの唇を嫌でも意識してしまい、それを知られたくなくて口を慌てて噤んだオレを逃がさないとばかりにリボーンはなお詰め寄ってくる。
母さんに見られているとか、父さんはなにをやってるんだとかも考えられないほど全部リボーンに持っていかれたオレは、全神経を耳に集中させて次の言葉を待った。

「あの日、家光からオレと同い年の息子がいることを聞いてどんなガキなのかと興味が湧いた。といっても、面白くもねぇパーティよりほんの少し気を引いた程度だがな」

「う、ん?」

病気の話はどこにいったんだと目を白黒させながら、それでも相槌だけは打つ。つまりリボーンは本当に父さんの会社の社員らしいということは知れた。

「どんなゴツい中学生かと顔だけ覗きにテラスへ足を運べば、居たのは小学生でも通る小柄なガキだけ」

確かにオレは大きくないけど、小学生まで言われてプクリと頬が膨らむ。そんなオレを見てリボーンの口元は益々弧を描いた。

「…そこで『死にたい』なんて声が聞こえてきてな、だったら手伝ってやろうと背中を押すと、」

「お前っ!」

普通は止めようと思うだろうに、リボーンはオレの意思を尊重してくれたらしい。ありがた迷惑な話だ。
二の句も告げられずに押し黙ったオレを無視してリボーンの言葉は続いていく。

「お前がでかい目で睨んできやがった。その目が忘れられなくて家光にどこの高校に行くんだと聞いたら…」

「…」

吹聴する気もないが、当時はどこの高校に『いく』どころではなくて、どこなら『入れる』のかを模索していた。それを父さんが知る訳がない。
バツの悪さに視線を泳がせたオレに気付かないまま話は進む。

「そうしたら、どこにいくのか絶対教えないとかぬかしやがってな。仕方ねぇから自分でツナの学力を調べて、お前が入れると思われる高校に片っ端から試験を受けたんだぞ」

「イヤイヤイヤ!どこから突っ込めばいい!!?っていうか、オレの学力ってどうやって知ったの…!?」

隠していたつもりが、どうやらとっくにバレていたらしくて慌てる。
どういうことだと伏せていた瞼を押し上げて顔を覗きこめば、リボーンはつまらなそうに肩を竦めていた。

「並中なのは分かってたからな。ちっと校門の前で話を聞けば、出てくる出てくるツナのダメっぷりに面白くて引けなくなった」

やっぱり相当変わってる。普通ならオレのダメさ加減を知って呆れるところだろう。
それが逆に面白いと思えるなんてある意味すごい。
そこはもういいやと思うことにして、それ以外にも気になる言葉があったことに気付いて口を開く。

「じゃあさ、どうしてオレのいきそうな高校の試験を全部受けたんだよ。父さんかオレに聞けばよかったじゃないか」

まあ、あんなことがあった後だからオレに聞いても答えなかったかもしれない。それ以前にリボーンとは知り合いでもなんでもないから警戒しただろうことは想像に難くない。
だけど父さんとは会社の同僚なんだから聞けた筈だと訊ねると、リボーンは面白くなさそうにフンと鼻を鳴らした。

「喋らなかったんだ。家光以外にも緘口令が布かれていて合格するまで一切秘密だと突っ撥ねられた。だから全部受けたんじゃねぇか」

「いや……えぇぇえ?」

言われている意味が余計に分からなくなってきた。
そもそもそこまでしてオレと同じ高校に通わなければならなかった理由って何だ。
色々なことが一気に分かったというのに、その理由が繋がっていかない。
オレの気持ちも知っていて、そう仕向けたのはリボーン本人だという。その訳はどこにあるのか。
オレにしか治せない病の話とどう繋がっていくのだろう。
答えを握るリボーンの顔を見詰めていると、その眉が段々と寄せられていった。

「…てめぇ、まさかこの後におよんでまだ分からねぇとかぬかさねぇだろうな?」

「分かるかって!」

即座にそう叫べば何故か後ろから母さんのため息が聞こえてくる。

「ツッ君、母さんでも分かるわよ?」

そういえば母さんたちも居たことを思い出して肩を揺らす。そんな母さんの呆れ声の横で父さんはお前はそのままでいいんだ!と大声を上げた。

「ごめん、オレ馬鹿だから分からないんだ。教えてくれよ」

とりあえず父さんは無視してそう告げると、リボーンはオレの額から一旦頭を上げて少しだけ顔を離し、オレの顎をくいっと摘まみ上げた。

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