リボツナ2 | ナノ



ただいま誘惑練習中 1




いいですか?と頭の中の獄寺くんはメガネを掛け直してオレに語りかけた。

「沢田さんの武器はその大きな瞳です」

その隣で山本が大きく頷いている。オレはといえば、今一つ獄寺くんの言葉に納得出来ないながらも口だけはうんと返事をした。

「暗闇や密室空間にどれほど効果があるのか分かりませんが、狙うならそこだと思います。2人きりになれなくとも声も存在も近くに居なければ気付かれ難くなります。だから、今日は何が何でもお化け屋敷に一緒に入るグループになるんです!そこで顔を覗き込みながら…頑張って下さいっ」

「う、うん!」

言葉に詰まって目頭を押さえた獄寺くんに、また頷いた。





また近い内に話をしようと言葉を交わしてから獄寺くんと別れ、山本と一緒にクラスのみんなの待つ遊園地の入場口へと向かう。
夜間入園はかなり割安で高校生の小遣いでも十分楽しめる。
この企画を立案したという女の子たちの下心が漏れ聞こえそうだが、それを今の自分は逆手に取ろうと思っていた。
隣を歩く山本はどちらかと言わずとも女の子たちに狙われる側だ。そしてオレのターゲットであるリボーンも同じである。
クラスに2人も人気者を抱えていれば、自然と人気も割れる。それを快く思っていない男子だとかが必然的にグループで行動しようと言い出すだろうと獄寺くんはふんでいた。
ちらりと山本を見上げれば同じくオレを見下ろしていた視線とぶつかる。オレの突然すぎる言葉に気持ちの整理がつかないのか、山本が珍しく大人しい。
中学からの友だちだけど、オレにとっては本当の親友だと思っていた。何か言い掛けた山本に顔を向けて聞く姿勢で向き直ると、少し早目に集合場所に辿り着いたオレと山本の周りにクラスメイトが群がり始めた。

「おーっす!山本!沢田!」

「ん、ああ!」

「山本くん!早いね!やーん、楽しみ!」

「だね!」

あっという間に取り囲まれた山本の横から抜け出して辺りを見渡す。ざっと確認出来るだけで、半数以上は揃っているようだ。
けれど一番肝心のリボーンの顔が見えなくて、焦って視界を遠くまで広げる。薄暗い入園口の周りにはオレたち以外のも入園者も多くて余計に目視が難しい。
それでも頭ひとつ分大きい彼は見つかりやすい筈だと、キョロキョロしていると背の高い植込みの横から人影がぬっと飛び出てきた。
避ける間もなくぶつかったオレの腕を支えてくれたのは、探し求めていた張本人だった。

「リっ、リボーン!くん!」

元々違っていた体格は、高校入学を境に今ではかなり差を付けられてしまっていた。
ぶつかったというより跳ね飛ばされたオレの腕を引いて戻してくれたリボーンを見上げていると、ため息を吐いてオレの手を持ったまま歩き出した。
歩調というより歩幅が違うせいで小走りになりながらもリボーンの隣に並ぶ。掴まれたままの腕に意識が集中してしまい、嬉しいやら恥ずかしいやらで顔も上げられずにいると集まっていたクラスの輪の中に放り込まれた。

「あっ、その!」

まさかイベント前にチャンスが巡ってくるとは思ってもみなかったせいで、うまく言葉が出なかった。そんなオレの声も届かなかったのか、すぐにリボーンは女の子たちに囲まれる。
伸ばした手を引っ込めて肩を落としていると、ポンポンと頭を軽く叩かれた。男子にも女子にも人気のある山本は、けれどいつもオレが困っているとこうして声を掛けてくれる。

「話せたか?」

「…うんん。全然」

眉を寄せて苦笑いを浮かべると、山本は短い髪を掻きながら委員長に近付いていった。目立つ癖に隙を突くことがうまい山本は、委員長以外に気付かれることなく何事かを話している。
少しの間喋っていた山本と委員長はすぐに離れると、委員長は入園口で手を振って集める。

「時間だから入園する!ちょっと隅に集まってくれ!」

わらわらと移動を始めたクラスメイトに倣って一番後ろに並ぶと、オレの前にリボーンとその取り巻きたちがするっと収まった。
ここにいるだけでライバルは6人だ。他にもチラチラと様子を伺っている女の子たちの視線を感じて、焦りに唇を噛む。
そこにまた委員長の声が響いた。

「その状態で男女1列ずつで並んでくれ。前後でずれるのはナシだ!」

言った途端に期待と非難が入り混じった悲鳴が上がり、女の子たちのギラつく策謀があっけなく打ち砕かれた。

「先週、集団でお化け屋敷に入った野球部が追い出されたんだってよ。だから今日は2人一組で入ってもらうからな」

ブーイングを上げるもどこか嬉しそうにも聞こえる声を聞きながら、誰が彼と入るのだとそればかりを気にしていた。
ところが。
ポツンとオレとリボーンだけが取り残された状態で、つまりは男が2人余ったことになる。うちのクラスは確かに男子が1人多いが、それにしてもリボーンまで余ったことにキョロキョロと視線を彷徨わせた。

「リボーン!沢田!女子が一人欠席だってことで、悪いが男2人で入ってくれ」

「んなっ!?」

こんな幸運があるのだろうか。ニヤケそうになる頬を俯くことで誤魔化していれば、やはりというか当然リボーンの取り巻きの女の子たちが委員長に非難の声を上げる。

「だーめ!お前らが煩いから離すんだっての!っつーか、沢田悪いな!」

「えぇぇえ!?いや、大丈夫!」

名指しに手を振ると、隣のリボーンが口を開く。

「何でツナだけなんだ?」

「…ぇ?」

顔も忘れられていたのだから、当然名前も知らないだろうと思っていれば何故か愛称で呼ばれてリボーンを振り返る。

「いっつも女子に囲まれて大変だろ。たまには楽させてやるよ」

委員長の皮肉に肩だけ竦めると、リボーンは歯噛みする女の子たちから抜け出してオレの横に収まった。

「あのさ…何でオレの名前知ってんの?」

ドキドキと煩い心臓を宥めながら、わずかな期待を胸に顔を見上げる。すると返事もないまま親指をぐっと前に向けられて視線をやれば、山本がツナー!と手を振っていた。

「あ…」

あれだけ毎度大声でオレの名を呼んでいれば誰でも覚えるということか。それでも沢田ではなくツナと呼ばれたことにだらしなく頬を緩ませていれば、前で手を振る山本がピースサインを送ってきた。
そこでやっとこの組み合わせが山本のお陰だったことに気付く。顔の前で手を合わせていると、背中を押されてつんのめりそうになった。

「進んでるぞ」

「ご、ごめん!」

慌てて足を前に踏み出すと、自分よりもかなり身長のある背中を追って園内へと駆け出した。









遊園地の中は夕方ということもあり、親子連れからカップルへと客層が反転しつつある。どこぞのテーマパークのようにパレードもないからそんなものだろう。
通路を照らす明かりと、乗り場から漏れる光だけが頼りの中を集団で進んでいく。
どうしてお化け屋敷なんてベタな選択をしたのかと思っていたが、案外女の子の方が楽しみにしているようにも見える。
リボーンはどうだろうかと斜め後ろから顔を覗き込むと、その視線に気付いたのか顔をこちらに向けてきた。

「何だ?」

「や、別に!」

相変わらず読めない無表情に首を振ってから隣に並ぶ。そうしている間にも次々とお化け屋敷に吸い込まれていくみんなを送り出していく。
まだ数人前に残っているが、中から聞こえる悲鳴が気になるのか誰もオレたちを振り向こうとはしない。女の子たちでさえリボーンに話しかけない状況に、オレは顔を上げた。

「あのさ、」

リボーンの耳元に顔を寄せ、聞こえるか聞こえないかのギリギリの小声を出す。聞こえなければそれでもいいと思いながらも続ける。

「今度の土曜日の祭りって、誰かに誘われてる?」

訊いてしまってから、やめればよかったと後悔した。誰かに誘われていたら、オレが誘い難くなるだけだ。
自分のバカさ加減に打ちのめされ項垂れていれば、リボーンはボソリとオレの頭の上から呟いた。

「まだ誰とも約束はしてねぇぞ」

「え、あ…?」

その声に顔を上げると、もう自分たちの前は誰も居なくなっていて。
どういう意味だろうかとリボーンを見上げるも、行くぞとかけられた声がすぐに先へと進んでいく。

「まって、って!」

スタスタとお化け屋敷の暗闇に吸い込まれていく背中を追い掛けた。



2012.05.21










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