リボツナ2 | ナノ



1.




滅多に家に帰って来ない父親が、自分の目の前で手を合わせて拝み込んでいた。
それを見て、何度頼まれようともガンとして首を縦に振るものかと益々意固地になる。
嫌ったら、嫌だ。

「なぁ〜!ツナ、頼む!!お前だけが頼りなんだ!給料も弾むし、休みも考慮するから、な!」

「い・や・だ!絶っっ対、嫌。」

プンと顔を横に向ければ、それを傍で見ていた母さんが父さんへの助け舟を出した。

「つっ君、何がそんなに嫌なの?家光さんがこんなに頼んでいるじゃない。少しは考えてあげたら?」

「……だって、我が儘で有名なヤツのマネージャーなんて、まだ大学生のオレにはムリだし。」

「あら、ついこの前まで恭弥くんのマネージャーしてたじゃない。」

「あれは!…あれはマネージャーじゃないよ。入院中のディーノさんの代わりに少しついただけで。」

思い出しただけで、身の毛もよだつ。気に入らないことがあると「噛み殺す」が口癖の雲雀さんの付き人として1ヶ月傍にいたのだが、何度怖い目にあったことか!
何故か気に入られたらしいオレは、オレに近付く男という男に目くじらを立てる雲雀さんからその男たちを庇ったり逃がしたりするのがとても、とても大変だったのに。
思い出したくなくて、ブンブンと頭を振る。

「雲雀からもお前をマネージャーにして欲しいと言われてるんだがな…まぁ、今は雲雀じゃなくリボーンの話だ。何でだかオレも知らないが、リボーンがお前をマネージャーにつけるなら俳優もやってもいいと言ってるんだ。助けると思ってアルバイトしてくれよ。」

「どこの世界に、アルバイトでマネージャーをするヤツがいるんだよ!しかも相手はあの、人気バンドのヴォーカルだぞ!!そんなのと一緒に行動したら、オレの平穏な日々がなくなる!だからぜったい嫌ったら嫌!!」

ノンブレスで言い切る。ゼーハーと息を付くが、聞いちゃいない父さんはガッと手を握ると涙目で訴え始めた。
うざい。しつこい。
この攻防がもう3日も続いていた。
いい加減諦めてくれればいいのに、諦める気配がない。

重いため息をつくと、とうとうオレが諦めた。

「分かった。どんなヤツか知らないから、今度会わせて。それから決めさせて。」

つっく〜ん!!と身体を抱きしめる父親にすかさず蹴りを入れて、手近にあったクッションを押し付ける。
それに抱きつくと、何度もありがとう!やったぜ!と繰り返している父さんを複雑な顔で見詰めた。

うううっ…すっごい不安。










それから1週間経ったある日のこと。
大学の帰り道で、いつも寄る喫茶店へと足を運び少し遅い昼ごはんを食べている時のことだった。

その喫茶店は焼きたてパンがうりで、昼食時などは列ができるほどの人気店だ。
並ぶのが面倒なオレは、いつもこの時間に食べにきていた。
2時を過ぎると人も減り、焼き立てではないけれどゆっくり選べるのがいいのだ。
割と大食漢なオレは、席に着く前にトレー一杯にパンを盛り付けてポットの紅茶を頼む。
ホクホクして日当たりのいい席を陣取ると、何故かオレの前に誰かが座った。

誰だ?

目深に被った帽子に、濃い目の色つき眼鏡をした、妙に小洒落た感じの男だ。
すらりと伸びた身長も、広い肩幅も、長い手足も明らかに一般人とは違う。
そういう人たちを見慣れているオレでも、思わず目が行くほどだ。

「あの?」

誰かと勘違いしているのでは、と声を掛ける。
しかし目の前の男は口端をニイと上げると、眼鏡を下げて顔を晒した。

「!!?」

「はじめまして、だな。沢田綱吉。」

パクパクと池の鯉のように口を開けたり閉めたりした。
声も出ない。
どうしてこんな場所に。

「自己紹介は必要か?」

掛け直した眼鏡の奥が楽しげに歪んでいた。
勿論そんなものは必要なくて、首を横に振れば手を取られた。

リボーンだ。
父さんの事務所に所属しているが、本物を間近で見るのは初めてだ。

取られた手と、目の前の顔を交互に眺める。
握り込まれた手は、すいっと口許まで導かれて甲にその薄い唇を落とされた。


「な、な、な…なにっ?!」

「挨拶だぞ。これから世話になるマネージャーへのな。」

「何で?!オレまだやるって…!」

「言わなきゃここで眼鏡と帽子を取るぞ。いいのか?」

!!

脅しだった。こんな人目のある場所で、しかも大学の近くのよく行く喫茶店。そんなところで素顔を晒してみろ、後ろに座っている女の子たちや、横に陣取っている近所の主婦、OLや店員などが一斉に襲い掛かってくるだろう。
それだけじゃない。そんな有名人と知り合いだなんて知れたら、ここに出入りも出来なくなるだろうし、大学でも追いかけ回されること請け合いだ。
誇張じゃない。それくらい人気のあるバンドの、特に人気のあるヴォーカルなのだ。

背中に冷たい汗が流れ、顔はまさしく蒼白になっているだろう。
逃げられない状況に、相手は狩る者特有の余裕を窺わせて嫣然と笑っている。
答えは是以外ない。

どうして。
くやしさと、理由の分からない抜擢にめまいがする。
目の前の男は楽しそうに笑っていて口を開かない。
言うしかないのか。


「マネージャーになります…。」

「よし。これから面倒みてやるからな。」


いや、オレがお前の面倒みる立場なんだけど。



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