リボツナ2 | ナノ



いとし いとしと 言う心 2




腕を後ろに引っ張られたせいで縺れた足が廊下の上を滑った。
頭にぶつかると身を縮めているとぐっと手が伸びて抱え上げられる。
礼を言おうと顔を上げると苦いものを飲み込みきれない表情のリボーンの顔がそこにはあった。

怪我のために昨日一昨日としていなかったし、くっつきたての恋人だったらしたいのだろうと思っていたが、どうやらそれとは別らしいとここに至ってやっと気付いた。
あんな場所でするのが嫌で思わず逃げ出したが、本能はこれを嗅ぎ取っていたのかもしれない。

恐る恐る伸ばした手がリボーンの頬に触れる前に肩を廊下の壁に押し付けられてそのまま強引に口付けられる。
自分よりも高い位置にある顔が上から伸し掛かってくると息もままならない。
顔を横に向けようともがくと顎を掴まれた。

「んふっ!んんっー!」

まだ痛みの残る口腔を思うさま舌で弄られて抗議の声を上げるも、聞く気もないリボーンは掴んだ手はそのままに今にも脱げそうなオレのジーンズに手を掛けた。
痛みとそれからじわりと湧き上がる気持ちよさにジーンズを持つ手が疎かになっていたところを強引に毟り取られる。

布擦れの音と熱を帯びていく互いの息が廊下にこもって羞恥が蘇った。
ハッと気が付いたオレは慌てて手でリボーンの肩を押し戻すも、広いその肩はビクともしない。
舌を舌で絡め取られる動きに膝の力が抜けていくと、トランクスのゴムに手を差し込んで躊躇いなく落とされた。

「ダメ、ここじゃダメっ!」

やっと外された唇から逃れるように足を踏み出すが、足首に纏わりついたジーンズとトランクスに阻まれて廊下に転がる羽目となる。
どうにか手をついたために四つん這いの格好で後ろを振り返ると、足元のそれを踏んでいる足を視界に入れた。

「逃がさねぇ…」

「ちが、」

逃げる気はないのだとどうして分かって貰えないのだろう。
やっと誤解も解けて、同じ想いを伝え合ったというのに何をそんなに焦っているのか。
その時の自分には理解できなかったその気持ちが、のちに大きく膨らんでいくとは思ってもいなかった。















動くことすら億劫な身体を腕ごと引っ張りあげられて、意識が飛んでいたことを知った。
鉛でも下げているような手足の重みと、鈍痛を訴える腰、それからまだ奥に居座っている感覚がありありと双丘の奥に広がっている。

肩に額を押し付ける格好で凭れ掛かると、伸びてきた腕が膝裏と背中を抱えベッドの上から身体ごと掬い上げられた。
見るのも恥ずかしいくらい赤い痕だらけの自分の身体から目を逸らすもその先にある肩にも爪で引っ掻いたような赤い傷が見えた。

廊下で喘がされ焦らされた後、場所を移して強請らされた記憶が蘇りそうになって慌てて首を振った。

「もうムリだと泣きが入った割には、なぁ…?」

「バッ、違う!これは朝の生理現象であって!」

さんざん弄られたせいで赤みが残るそこを手で押えるとぬるっとした体液が手の平を汚す。
ジタバタと暴れていると、いつの間にやらバスルームに連れてこられていてバスタブに放り込まれた。

「うわっぷ!」

「よく洗っとけよ。」

それだけ言うとリビングから響く携帯電話の音に引き寄せられるようにバスルームから出ていってしまう。
その後ろも振り返らない背中にいいようのない不安が小さく頭をもたげ始めていた。





どうにか身体中を覆っていたあれやこれやを洗い流すと、適当に頭からシャワーをかぶって用意されていたバスローブに袖を通してリビングへと足を向けた。

入浴中一度も覗きに来なかったリボーンにどうして来なかったのだろうと不思議に思っていることがそもそもおかしい。
リボーン=猥褻行為という図式が固定していることに気付いたオレは、そういえばどうしてそんなことになったのかと今更気になった。

何語だか分からない言葉で喧嘩腰のやり取りをしているリボーンをリビングの扉越しに見詰めていると、そんなオレの視線に気が付いたリボーンが慌てた調子で電話を切る。
明らかに聞かれたくない話だったと分かる態度にぐっと唇を噛み締めた。

リボーンは大人だ。
オレも年齢的には成人しているから大人といえなくもないが、正式にはまだ学生という身分の上に親の脛を齧っている子供だと思う。
両親を前にずっと一緒にいたいと言い切ってくれた言葉に嘘はないと信じたいが、それだけでは生きていけないのが本当だ。

父さんと同じ仕事をしているというリボーンは、きっと父さんと同じで休む暇などあまりないのだろう。それが父さんの我が儘で日本に滞在することとなり、ひょんなことからオレと恋人同士になった。
オレのことを好きだと思ってくれる気持ちに偽りはないのだとしても、日本とフランスとではあまりに離れている。ただでさえ仕事が仕事だというのに、これではどう考えても一緒に過ごす時間は少ないだろう。

当たり前のことに今更気付いて身体が竦んだ。
一緒にいられない時間がどれだけ続くのだろうか。今まで誰かと会えないというだけで、これほど怖いと思ったことはない。
急に足元が掬われる気がして、慌ててドアノブに手を滑らせる。
そんなオレを訝しむように携帯電話をソファの端に放り投げたリボーンが、しがみ付くようにリビングの扉に凭れ掛かっていたオレの顔を覗き込んだ。

「…ツナ?」

「ん…」

どう返事をすればいいのかすら分からない。
分かるのは先ほどの電話は仕事絡みのそれで、しかも呼び出されたに違いないということだけだ。
国際手配犯の護送でやってきたと言っていたが、休暇は半年振りだとぼやいていたことを思い出す。実際父さんが日本に帰って来たのは2年ぶりの話しなのだからあながち冗談ではないのだろう。

警察なんてのは年中無休の営業職だと小さい頃から聞かされていたオレは、絶対に警察官にだけはならないと心に誓ったほどだ。
なのに初めて本気で好きになった人が男の上にグローバルな警察官だなんてどんな皮肉だろう。

一緒に住むんだと浮かれていた自分が恥ずかしい。
思えばリボーンは一緒にとは一言も言わなかった。ここに住めばストーカー被害は減るだろうと言われ、リボーンと一緒ならねとオレが返した。
答えは、なかった。

「っ、」

そもそも最初から間違いだったのだろうか。
両親に挨拶をしてくれたのも、ただオレが心配で…頼りないオレを放っておけなくてこの場を提供してくれただけ。リボーンにとって好きだなんて誰にでも言う挨拶みたいなもので、オレはたくさんいるだろう恋人の一人に過ぎないのではないのか。

そんな考えが頭を過ぎって身体を硬く強張らせていると、突然鼻をむぎゅうと摘まれた。

「いひゃい…!いひゃいって!」

「当たり前だ、痛いようにやってんだからな。」

「ひゃど!」

「聞こえねぇぞ。」

思い切り鼻を摘まれたせいで痛みで眦から涙が零れた。
それを見ていたリボーンはフンと鼻で笑うとやっと手を離して、そのままオレの腕を引っ張るとソファの上に押し倒した。

「リボー、」

「言っとくが、好きでもないヤツと一晩かけてセックスする趣味はねぇぞ。」

当たり前の一言に痛さにではなく目の前が滲むと、ベロっと睫毛の端を舐め取られて驚いてリボーンの顔を見返す。するといつもは余裕綽々の顔が、苦虫を潰したように歪んでいた。

「もう一日猶予がある筈だったんだが…」

言葉を濁すリボーンをただ見詰めていた。

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