6.脇腹を手で押さえながら膝をつくリボーンさんを支えるも体格の差と力のなさで床に倒れ込んでしまう。 それでもオレが下敷きになることでリボーンさんへの衝撃を少しでも減らそうと両手を広げてリボーンさんを抱えると、オレの肩に額を乗せるような格好で凭れ掛かってきた。 「きゅ、救急車を…!はやく!」 我ながら悲鳴のような声だと思う。けれどそれに構ってなどいられない。 どこを撃たれたのかオレが支えなければならないほどなんて余程酷いのだろう。 最後の一発はリボーンさんが撃ったのか、手にした拳銃からは独特の匂いがする。 手を撃ち抜かれたらしい犯人は喚き声をあげて蹲り、それに同情など一切見えない瞳で手錠を掛けるとジョットさんは犯人をGさんに預けてこちらに近寄ってきた。 オレとリボーンさんを見詰める碧い瞳に怯えるも、この状態のリボーンさんを放る訳にもいかずジョットさんの顔を見詰め返した。 「ジョットさん…」 目の前で立ち止まったジョットさんはオレの顔から視線を逸らすとリボーンさんの背中を蹴り上げた。 「ちょ、なにするんですか!」 「見て分からんか?恋敵に塩を送る気は更々ないのでな、引き剥がしにきた。」 「だったらリボーンさんを蹴らないでオレを蹴ればいいじゃないですかっ!」 そこまで独占欲が強いのならば何故オレにやらないのか。 そんなことをしなくてもリボーンさんはあなたのものじゃないかと睨み付けると、肩を落としてため息を吐かれた。 「オレは好きな子を大事にするタイプだ。だからツナを蹴る訳がなかろう。」 そう言い切られてやっと疑問が湧いた。それってオレのことが好きだから蹴らないという風にも受け取れる。 イヤイヤイヤ!まさかと思いながらも瞼を瞬かせていると、オレの肩に額を乗せていたリボーンさんがうっ!とうめき声を上げた。 「貴様があれくらいで死ぬほどの怪我を負うものか。ツナの上から早く退け。」 リボーンさんの肩を乱暴に掴んでオレから無理矢理引き剥がそうとするジョットさんの手を見て、思わずパシッと叩き落してしまった。 「あ、思わず…ごめんなさい、」 ショックだったのかオレの顔を悲しそうな顔で見詰め返すジョットさんに謝っていると、リボーンさんの重みに耐え切れなくなった訳でもないのに2人で床に倒れこんでしまった。 「すいません!大丈夫ですか?!リボーンさん!」 慌てて肩口にある顔を覗き込むと子供っぽく不貞腐れた表情のリボーンさんが見えた。 やはりオレとジョットさんが話しをすることすら面白くないらしい。 ジョットさんと変わって貰おうとリボーンさんの下から抜け出そうとするも体重を乗せられていて思うように逃げられなかった。 「あの…退いてくださ、」 「逃げんな、つうか逃がさねぇぞ。イイ子ぶることももう止めた。」 「なんのことです…か?」 意味が分からずそう声を掛けるとリボーンさんはオレの手を取って押えていた脇腹の上に強引に触らせる。 痛みのせいでオレの手が触れただけで息を詰めたのに、それでも手は外されることなくそこに置かれたままでオレの上にまたがった。 「ツナを庇って出来た傷だ。お前は償わなきゃならねぇってこった。」 「それは…」 どうしたらいいのだろうか。 リボーンさんとジョットさんの邪魔はしたくないのに、結果的にはどう足掻いても邪魔ばかりしている。 二度と近付かないつもりだったのにそんなことを言われては逃げ出すことも出来ない。 手の平を伝う生暖かい血液に自らの無力さを呪っても今更遅い。 警察と一緒に来ていた救急車から救急隊員がリボーンさんをオレから引き剥がすまでお互いに無言で見詰め続けた。 オレを襲い、リボーンさんに発砲した強盗犯からの自供で窃盗団をひとつ根絶やしにしたジョットさんはリボーンさんの分も仕事をしなければならず、かなり忙しいらしい。 強盗犯の起こした学校での事件の実証検分を終えたジョットさんは、リボーンさんのところに行くなと会う度に言う。 けれどそんな訳にもいかず、毎日学校が終わると顔を出したり土日には極力ついているようにしていた。 リボーンさんが受けた傷は少し掠っただけだったために一週間が経った今では大分塞がってきているのだと聞いていた。 あれから、償えと言い張ったとは思えないほど今まで通りのリボーンさんはオレが病室に顔を出すことを心待ちにしてくれているようだった。 忙しいジョットさんの代わりかもしれないがそれでもいいとさえ思う。 オレの気持ちさえバレなければまた元の友だちに戻れるかもしれないと思えるようになった矢先にそれは起こった。 医者も驚くようなスピードの治癒力のせいで、今日抜糸を終えたばかりのリボーンさんがシャワーを浴びたいと言い出した。 抜糸も済んでいるために許可は降りたが、傷が傷だけに心配でならない。 明日にすればとオレが言うと明日はもう退院するのだと言う。 「手伝って貰えるか?」 「はい、分かりました。」 と何の気なしに返事をすると今まで見たこともないような笑顔を見せた。 ニヤリという擬音が聞こえてきそうなそれにゾクッとしたが逃げ出す訳にもいかない。 リボーンさんは実家がお金持ちなのか、警察病院ではなくかかりつけだという私立病院の一人部屋で治療していた。 私立だけあって広い病室内の上にトイレにシャワー室までついている。 なんでも政治家のセンセイが立場が危うくなる度に駆け込むことでも知られているからだと聞いた。 夜の検診までたっぷり時間があるからと病室の鍵を掛けたリボーンさんを不審に思うことなくその背中についてシャワー室まで付き添った。 いくら抜糸をしたとはいえ、腕を上げると痛いと訴えるリボーンさんの言葉を信じてそれならばと身体を洗ってあげることにしたからだ。 昨日まで身体を拭いていたことを考えて、そう違いはないだろうとシャツの袖を捲くりスラックスの裾を幾度も折って中に入った。 そこには洗うために何も身に纏っていない背中と長くてすらりとした足や腰が否が応でも視界に入り、恥ずかしさに慌ててそこから視線を逸らした。 「なんだ、どうして服を着たままなんだ?」 「え…だって洗う手伝うだけなら脱ぐ必要は…」 オレが入ってきたことに気付いたリボーンさんはそう言うと思いの外広かった浴室内の奥からこちらに向かってきた。 暖かいシャワーを出しっぱなしにしているせいで、湯気で視界が遮られていたところから突然腕がシャツの前に現れた。 大きいのに器用な指があっという間にシャツのボタンを外してしまうとそれを剥ぎ取られ、今度はベルトに手がかかって焦る。 「ちょっ、待ってください…!」 「濡れちまうぞ。」 「でも、」 そうやって押し問答を繰り返している最中にリボーンさんの手はオレの意思を無視してスラックスを寛げると浴室の床に落とされ、それに驚いているとリボーンさんの顔が近付いてきた。 「言うことを聞いてくれねぇのか?」 「っつ…!」 なぁ、と誘うような低い声が耳元で囁く。絶対にこの人は自分の声の魅力を知っているに違いない。 逆らい難い響きに目を閉じてどうにかやり過ごそうと堪えていると、腕を取られて脱ぎ落としたスラックスから引き離された。 「いらねぇモンは外に出しとくぞ?」 トランクス一枚という心許ない格好にひどく動揺しながらも、断ることも出来ずに頷いた。 オレより頭一つ分以上高いリボーンさんの髪の毛を洗うには座って貰うしかない。 椅子がある訳でもないので仕方なくしゃがんで貰うとシャンプーを手に取ってから洗い始めた。 艶やかだが見た目通り少し固めの髪の毛を濡らしてから指の腹で擦っていく。 シャワーの流れる音だけが響く浴室はなんだか不思議な空間だった。 丁寧に泡を立てるように指を滑らせていれば、急に腿を掴まれた。 両手が泡で塞がった状態では止めることも出来なくて思わず逃げようと掴まれていない足を後ろにつくも、腿に触れていた手はするんとトランクスの裾から奥へと吸い込まれていった。 「何するんですか!」 尻の形をなぞり上げる手付きにそう声を上げると、くるりと振り返った先にあるリボーンさんの中心を見てギクリと身体が震えた。 「これを見りゃ分かるだろ?抜糸が済むまで待ってやったんだ、するぞ。」 「だからオレとじゃなくて、好きな人として下さい!」 幾度も繰り返された言葉だった。 オレのことを好きだと言ってくれるのはありがたいのだが、それはあくまでジョットさんの身代わりとしてであってそれ以上ではない筈だ。 オレなんかに言わずとも本人に言って下さいと同じだけ繰り返したのにまだ言うなんて。 片手で泡だらけの髪を流すと、掴んでいたオレの尻から腰に手を回して引き寄せられた。 適当に後ろに髪の毛を流したリボーンさんにドキドキして、そんな仕草すら格好いいなんて卑怯だと心の中でなじる。 泡がついたままのオレの手からはポタポタと泡がしたたり、その手を押し付けることも出来ずに胸まで上げていると腰に周っていた手がトランクスを下に引き下げはじめて悲鳴をあげた。 「ヤ、ちょ、止めて!」 「言って分かんねぇならこうするしかねぇよな。」 腰に纏わりついていたトランクスを腿まで下げると少しだけ反応がある中心が見えてしまう。恥ずかしさよりも驚きで逃げられないオレを放ったまま、はみ出たそれをリボーンさんの手が掴んでそれから流れるような早業で口に咥えられてしまった。 「ひっ…!」 暖かく湿ったその感触に素直に起ち上がった中心に泣きたくなる。 口を開くことさえ出来ずにされるがままになると気をよくしたのか淫猥な音をわざと立てて吸い付かれた。 「んっ…!あっ、あん!も、ねがい…!はなし、て!」 腰を抱えられているせいで膝をついて逃げることも出来ない。手はほとんど泡のなくなっていることなど知らずにリボーンさんに触らないようにと上げたままだった。 口淫など知識として知ってはいてもしてくれる彼女の一人もいない身のせいで初体験だ。 出してしまいたいという衝動とリボーンさんの口に出してしまうことなど出来ないと必死に堪えていた。 けれどもう限界に近い。 ヨすぎて、だけどそれを押し留めることがこんなに苦痛だったなんて知らなかった。嫌々と幼子のように頭を振って堪えるも、オレの我慢など気にもとめないリボーンさんに軽く歯を立てられながら舌先で先を突かれてあっけなく果てた。 ドクドクとで続けるそれを飲み干したリボーンさんの顔を見れなくて、泡でぬめった手で自分の顔を覆い隠す。 それを見たリボーンさんはオレの手を引くと浴室の床にオレをしゃがませた。 「どうした?恥ずかしかったか?」 「あ、当たり前です…!」 顔を上げられずにいると、腿に纏わりついていたトランクスまで取り上げられてシャワーの届かない隅に放り投げられた。 「これでもまだ疑うか?」 まだなにもしていないのに、先ほどより大きくなったリボーンさんの怒張を見せつけられて声も出ない。 顕著に現れたそれを見てもまだ頷けない訳があった。 「だって…ジョットさんとオレって似てるんですよね?」 そしてあのスペードとかいう男の言葉。 本屋で出会ったて一目惚れしたというのが本当ならば、やはりオレではない筈だと意固地になっている自覚はあった。 好きな人に望まれているのは分かっても、それでも自信が持てなくて、そして何よりジョットさんは素晴らしい人で綺麗でリボーンさんと吊り合っていて。 身代わりでもいいと思えれば楽なのにどうしても思えない。 離れるのは辛いのに、傍にいるのも辛いなんて自分でもどうしていいのか分からなくなって、泡が目に入った訳でもないのに涙が零れた。 後から後から流れる涙に頭の上からため息を吐かれてビクッと肩が揺れた。 「泣かれんのはめんどくせぇって思ってたのにな、」 男で、ジョットさんのそっくりさんなだけのオレなんてそんな程度だろうと知ってはいても、はっきり言われると胸の奥が抉られた気がした。 息を詰めて唇を噛み締めていると、そっと割れ物に触る手付きで抱き締められた。 濡れたリボーンさんの髪から雫が頬を伝い落ち、オレの肩へと滑っていった。 互いの体温が伝わるほど密着しているのに遠いと感じていると、それを拾ったようにリボーンさんが呟いた。 「どうしたらオレが本当にお前を好きだと分かって貰えるんだ?何回言えばいい?どんな言葉なら分かる?」 ムリだろうなと思った。 自信が持てないオレはいつまで経ってもリボーンさんの本気を疑う。 そもそも、吊り合わないのだ。 だからゆるく首を横に振って逃げようとすると、今度は力の限りに抱き締められた。 息も出来ないほどどころか、手形が残るほどの力で逃げ道を塞がれて困るよりも本当は嬉しい。 信じられたらどれだけ楽だろう。だけどどうしてもこのままでは信じきれない。 やっぱりダメだとリボーンさんの肩に手を押し当てて離れようとすると、その手を取られてひょいと担ぎ上げられた。 「なっ!?ちょ、こんなことしたら傷口が開いちゃうだろ!」 「だったら暴れんじゃねぇぞ。この傷はお前を庇って負った傷だからな。」 伝家の宝刀を抜かれてしまいぐうの音も出ない。 そうして浴室から裸のままで病室へと担ぎ込まれた。 . |