リボツナ2 | ナノ



5.




ジョットさんの顔を見た途端、全身の血の気がザーッと引いていくのが分かった。
どこをどうしたらこんなことになってしまったのか分からないのに、分かるのはこれ以上リボーンさんともジョットさんとも一緒にはいられないということだけだ。

早くくっ付けばいいのにと思う一方で、これでこじれてしまえと意地悪く思う気持ちも自分の中に見つけてホトホト嫌気が差してくる。
逃げ出したのは誰のためでもない、自分の弱さに尻尾を巻いたからだった。












リボーンさんの車から逃げ出して3分と経たない内に足がもつれて転がりそうになる。それでも1mでも1cmでも遠くに逃げたかったオレはふらつきながらも校門をくぐり、今は人気のない体育館へと足を向けた。

ボタンの飛んだシャツや擦れて血の滲んだ手首を誰かに晒す訳にもいかず、かといってこのままなんの断りもなしに早退するということもできない。
人目を避けて職員室に置いてあるジャージにでも着替える機会を待とうと、体育館の一番奥の茂みに足を踏み入れたところで突然後ろから口と身体を押さえ込まれた。

「ふぐぅ…!」

「兄ちゃんワシの顔を覚えとるな?」

「!?」

息も出来ないほど口を塞がれ頚動脈を押えられながらそう顔を覗かせた男は、誰あろう強盗事件の時に見たあの顔に間違いなかった。

暗闇での一瞬の出来事だったために似顔絵などに協力できるほど覚えてはいなかったというのに、一目見た途端にこいつだとはっきり分かったのは目元から頬にかけて薄い痣があったからだ。

どうして今まで忘れていたのかといえば、あまりに薄くて光の加減だったのかそれとも痣なのかがはっきりしなかったからに違いない。

驚きに身動きすることすら忘れて男の顔を眺めていると、男はオレの顔とはだけたシャツを見ていやらしい含み笑いを浮かべた。

「なんや、兄ちゃん誰かに襲われたんか?こないな可愛ぇ顔なら納得やけどな。…最後にイイ思いさせたる。」

そういうとヒヒヒヒッ…と卑下た笑い声を上げながら首を締め付けていく。塞がれた口と頚動脈を押える力の加減に酸欠で意識が朦朧としてきた。
それでも必死に指を男の腕に突きたてて抵抗していると、後ろから覚えのある声が聞こえてきた。

「貴様、そこでツナに何をしている!」

「チッ………なっ?!どうして同じ顔がもう一つあるんや!」

もうダメだと意識を手放しそうになったところでわずかに男の腕の力が緩み、どうにか気絶することだけは免れた。
けれど手放しかけた意識のせいで身体はいうことを利かず逃げ出すことは叶わない。

燃えるような碧い瞳のジョットさんの気迫に気圧された男が、オレを盾にしたまま体育館へと逃げ込んでいった。












体育館なんかに立て篭もった男のせいで取り囲んだ警察とそれを野次馬しようと覗きにくる生徒や同僚教師などにこの情けない姿を晒す羽目になった。

唯一の救いは目撃者であるオレを監禁して殺そうとした犯人によるものだと思われていることくらいだ。
ジョットさんが現れなければ暴行では済まない行為をされていた筈で、だから濡れ衣を被せることにほんの一ミリとて同情などしない。

逃げ出そうとしたオレの手足を用意していた縄で縛った強盗犯は、酷く興奮していた。
口汚くオレを罵ったり、警察の説得に涙したりと感情の起伏が激しいせいでともすればオレを道連れにしかねないようにも思えた。

顔を見られたオレだけを殺しにきたところをオレとよく似たジョットさんを見て混乱しこうして逃げ込んだらしい。
袋のネズミとはいえ、オレという一般人を人質に取られたジョットさん率いる警察は下手に手出しも出来ずこう着状態へと陥っていた。








オレを一刺しで殺すために用意されていたミリタリーナイフは刃渡り20cmはある大振りな代物で、よく研がれているせいで刃の先を押し付けられただけで皮を裂いて血がしたたり落ちてきた。

体育館にある大きな時計で確認するとすでにあれから3時間は経過している。
3時間も死の恐怖と対面しているせいか、首に宛がわれたナイフが今にも押し込められても仕方がないのではと半ば諦めはじめていた。

素直にあの2人の仲を取り持っていればこんなことにはならなかったのではないか。これは天罰というヤツで自分が死ぬのも当然のことなのではないのかとそんな風にすら思えてくる。

耳元ではぁはぁと荒い息遣いを立てる強盗犯の悲痛な叫びを聞きながら、恐怖に心が折れて目を閉じたところで声が掛かった。

「ツナ、ツナ…!諦めるんじゃねぇぞ!」

その声に驚いて目を見開くと体育館の2階の窓から見覚えのある影がオレたちの前まで飛び降りてきた。

「近寄るんやない!それ以上近付いたらこいつを殺したる!」

ぐっと喉元に切っ先を押し付けられてながらも、ここで死ねるなら幸せかもしれないと思った。
今まではジョットさんのそっくりさんとしてしか視界に入ってなかったオレが、追っていた強盗犯に捕まって殺された沢田綱吉として記憶に残るのならそれでいい。
心の片隅にでも覚えて貰えるならばと吸い込まれる刃に身を任せてまた目を閉じようと俯いたところで身体の拘束が突然解かれた。

「生憎だったな。こいつ一人の訳がなかろう…ツナを拘束し殺そうとした罪その身で償え。」

そう後ろから声を聞いたところで、死への恐慌を突然解かれたことに足がガクンと落ちて前のめりに倒れ込みそうになった身体を伸びてきた腕に抱えられた。

「大丈夫か…!?」

「リボーン、さん…」

酷く慌てた様子に少し喜びを覚えたなんてどこまでオレはバカなんだろう。
一般人が事件に巻き込まれれば当然のことだと知りながらも、それでももう一度顔を見ることが出来てよかったと思う。

犯人の腕を捻り上げているジョットさんとリボーンさんは互いの足を引っ張ることないベストカップルだとしみじみ感じた。だからこれでオレに関わることをすべて終わらせてやろうと決意して顔を上げた。

「平気です。大丈夫、オレ意外と丈夫なんですよ。」

だから離して欲しいとリボーンさんの胸を手で押し遣ると、ギクリとした表情で身体を強張らせながら腕が離れていく。それに少しだけ苦笑いを浮かべて気にしていませんとリボーンさんに聞こえるくらいの小声で囁いた。

「ツナ…」

「色々とありがとうございました。これで一市民と公僕に戻れますね。」

だからこれでお別れですと言葉に出さずに笑い掛けると息を止めてリボーンさんはマジマジとオレの顔を凝視した。

「オレはオレです。身代わりはごめんだし、ジョットさんとリボーンさんお似合いだと思いますよ。」

「…どういう意味だ?」

どこまでも本人の前では惚けるつもりらしい。
だとしてもオレはこれで舞台から降りるのだから、ここからは2人の問題だろう。
精一杯の笑顔はなんだか引き攣ったものになったが、それでもこれでよかったのだと緊張によって上手く動かない手足を引き摺りながらリボーンさんの前から歩き出したところでジョットさんがオレの背中に声を掛けた。

「いいのか…?本当にそれでツナは後悔しないのか?」

「…っ!」

ジョットさんはオレがリボーンさんのことを好きだということを伝えてある。だからこそここでそれを言われるとは思わずにキッとジョットさんを睨み付けるように振り返った。

「オレはそいつのことを認める訳にはいかないが、それでもこの強盗犯と同じだとも思わない。オレとお前の区別すらつかない間抜けだとはな。」

「ジョットさん、」

何が言いたいのだろうか。
リボーンさんがオレとジョットさんのことを同じだと思わないのはジョットさんが好きだからで、それを受け入れて貰えないからこそ同じ顔をしたオレでもいいと思ったんじゃないのか。

言葉の意味を理解出来ずにジョットさんを見詰めていると、その手元にいた強盗犯が突然喚き散らしながら暴れ出した。

「もう終いや!これでなにもかもご破算や!」

窮鼠猫を噛むの言葉通り、逃げ場のなくなった強盗犯はジョットさんの拘束から抜け出すと、懐から鈍く黒光りするそれを取り出して辺り構わず引き金を引いた。
パン!パン!と鼓膜を叩く音は低く耳朶に響いて、その音に免疫のないオレは逃げ出すことも出来ずにただ呆然とそれを見詰めるだけだった。

最後に憎しみを込めた瞳がオレを捉えて、その憎悪に足が竦んだところをパン!という音と共に銃身を向けられた。
だがそれもすぐに何かに遮られ、それとほぼ同じくして一発の銃弾の音を聞いたところで音は止んだ。

何も聞こえない、何も見えないことに恐怖を覚えて目の前を塞ぐ黒い影に手を伸ばすとそれが重く伸し掛かってきた。
支えきれずに床に膝を付いてやっとそれがリボーンさんであることに気が付いた。


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