リボツナ2 | ナノ



5.




ジョットとリボーンの本気を察した各人が身の危険を感じてどうにか逃げ切った頃には、すっかり日も暮れてしまっていた。
それでも翌日は教鞭に立たなければならない身ゆえに、気を使って翌日でもと言ってくれた2人にそれは出来ないことを説明するとやっと事情聴取へと相成った。

机と椅子以外ない部屋はガランとしていて、よく刑事ドラマなどに出てくるそれと似ている。けれどそれよりはやや広めの室内をキョロキョロと見まわしていると、ツナと声を掛けられて温かい何かを手渡された。

「カフェオレ…」

「前にウチのコーヒーは旨いぞと言ったら飲んでみたいと言ってただろ。」

「あ、りがとう…ございます。」

よくそんなことまで覚えていたものだ。気はつくし、格好いいし、きっとモテるんだろうなと思い浮かんだ自分のセリフに瞬間顔を赤らめた。
それを見られないようにと俯いていると、リボーンの横からムスッとした声が掛る。

「オレの分はどうした。」

「てめぇの分はねぇぞ。その内Gが持ってくるだろ。」

「それはそうだな。」

そのやりとりを聞いている内に何故か胸がムカムカとしはじめる。カフェオレの匂いは変わらないのにどうしてだろう。
同じ職場で一緒に仕事をすれば互いのことを知るとはなしに分かるようになるのは当然のことだ。なのにリボーンがジョットのことをよく知っていることに胸がざわつく。

俯いたままでカフェオレを啜っていると、リボーンの言う通りGが差し入れですとコーヒー片手におずおずと入室してきた。
先ほどこの2人に追いかけ回されたことが幾分か堪えているようだ。

リボーンは気にした様子もなく、ジョットは頷いただけでGを見ることなく沢田の手元を見ていた。

「どうかしましたか?」

「いや、カフェオレが好きなのか?」

そう訊ねられてええまぁとだけ答えた。本当は好きか嫌いかというより、飲めるか飲めないかという程度だったが。
それを言うとせっかく覚えていてくれたリボーンに悪いので曖昧に頷くと、突然ジョットはすくっと立ち上がって出て行ってしまった。

「オレ、何か悪いこといいました…?」

突然の行動に沢田はおどおどしてジョットが出て行った扉を見ていると、それにリボーンとGは揃って首を横に振った。

「違うぞ。あいつの奇行は今にはじまったことじゃねぇ。その内戻ってくるから気にすんな。」

「知った風な口を…と言いたいところですが、その通りなので気にしないでいいです。思ったことは即実行しなければならない性分なんですよ。」

「そうです、か?」

「そうなんだぞ。」

そう断言するリボーンを見て、やはり先ほどのあの男の意味深長な言葉はこの2人を指していたのだと沢田は誤解してしまった。









ジョットがいないままリボーンと何故かGが居残ったままで進められた事情聴取も終わり、今後のことを話たいとリボーンに手を引かれて部屋から出ようとしたところでガチャと扉が開いた。

「遅くなってすまなかったな!ツナ、これが本当のカフェオレだ。」

「……ぇ?」

突然消えたかと思えば、また突然現れて、そして沢田の手に何かを手渡す。ジョットのあまりに唐突な行動にどう反応すればいいのかさえ分からず、手渡されたそれを覗きこむと中にはクリーム色に溶かされたコーヒーがなみなみと注がれていた。

「カフェオレ?」

「そうだ、好きなんだろう?こんな警視庁のカフェオレじゃなく、本当に美味しいカフェオレ用の豆で淹れたカフェオレだ。これなら美味しいと思えるだろう。」

その言葉に沢田の心を見透かされたようで肩が揺れた。嫌いじゃないけど好きじゃないなんて失礼にもほどがある。
バツの悪さに口元を隠すように慌ててカップに口を付けて驚いた。

「美味しい…本当に美味しいです!」

飲める、ではなく美味しいと思えるカフェオレを飲んだのは初めてだった。思わずジョットの顔を見上げるとニッとイイ顔で笑っていた。
今までのような冷たい印象が覆るほどのそれに沢田はびっくりして、それから敵わないなぁと白旗を上げた。

顔はそっくりでも全然違う沢田とジョットでは、誰が見たってジョットがいいと言うに決まっている。だから好きだけど認めて貰えない相手はこの人なんだろうと沢田は納得した。

この2人の仲の悪さを知っている警視庁内の人間ならば誰もがありえないと声を揃えるであろうに、沢田の前でヘタに格好をつけてしまった2人の痛恨のミスだった。

飲みきったカフェオレにごちそうさまでした!と2人に告げて帰ろうとしたところで今度はGに声を掛けられた。

「あの…沢田さん好みのカフェオレを淹れてくれる人はいないんですか?」

「へ?」

遠まわしながらも恋人はいないのかと訊ねるGに惚けようとしたのに、それもかなわず苦笑いが漏れた。
好きだと気付いた瞬間に終わっていたんですなんて言える筈もなく、どうにか顔を取り繕うとにへらと情けない顔になった。

「いません。募集中です。」

と答えた途端、廊下から「っしゃ!」という叫び声が幾つも聞こえてきて驚いていると、目の前のGも握りこぶしを握っていた。
その後、警視庁内でカフェオレブームになろうとは沢田はついぞ知らなかったが。

それを聞いたジョットがフフンとリボーンを鼻で笑っていると、リボーンは沢田の手を取ってにじり寄ってきた。

「オレのカフェオレの方が絶対美味いぞ!」

「は?それはオレに言わなくても、好きな人に言ってあげて下さい。」

沢田を間に挟まなくては素直になれないらしいリボーンに、素直になれと背中を押してあげてもガクッと肩を落として頭を抱えている。
そこは頭を抱えるほどじゃないのにと内心で思いつつも、そんなリボーンさんも好きなんだけどなとこっそり心の中で呟いてみた。

大人の恋というやつはとかく上手くいかないものらしい。
そんなことを思いながらも、そっと手を外すとそれではとその場から立ち去ろうとしたところでまたもジョットに腕を取られた。

「話は聞いたか?この近辺を荒らしまわっている窃盗団の頭の顔を見てしまったのだぞ。しかも相手はお前の顔も覚えている…どういうことか分かるか?」

「どういうって…」

どういうことだろう。何がヤバいのかさえ分からずにジョットの顔を見上げると自信満々の笑顔で言い切られた。

「ツナ、お前の近辺警護をしてやろう。上手くいけば窃盗団の手掛かりが掴めるし、一石二鳥だ。」

「っ…待たねぇか!ツナの近辺警護はオレがやる。」

慌てて間に割り込んだリボーンに一瞥をくれただけで、すぐにジョットは沢田に向き直った。

「フン、貴様ごときがツナに近寄ることすら度し難い。」

「って、なんで今日会ったばかりのてめぇが『ツナ』呼ばわりするんだ。」

そういえばいつの間にやらツナという愛称呼びになっていた。

リボーンとはつい3ヶ月ほど前に件の書店で知り合ってから、幾度かその書店の同じコーナーの本を取りそうになったりする内に少しずつ話をするようになった仲で、ツナと呼ばれるようになったのはほんの最近のことだったというのに。

だから刑事だと知った時には驚いたし、少しだけリボーンのことを知れたようで嬉しかったのだと今なら分かる。
ツナと呼ばれる面映ゆさも胸にしまおうと瞼を閉じてにっこり笑った。

「ツナでいいですよ。綱吉なんてオレには似合わないし、ツナの方が呼ばれ慣れてますから。」

そう言うと益々ジョットは得意気に胸を張ってリボーンの背中をバンとひとつ叩いた。

「本人の了承も得たからな、貴様に言われる筋合いはない。さて、ツナいいな。」

「はい?」

いささか芝居がかった物言いだがそれが妙に似あうジョットに呼ばれ、思わず返事をしてしまうとよしよしと頭を撫でられた。

「いい子だ。よし、オレが守ってやる。」

「はいぃぃ?」

気が付けば近辺警護と窃盗団の手掛かりという名目の元、ジョットが沢田の警護をすることが確定してしまっていた。
それに横やりを入れてどうにかジョットと供にその任に就くことになったリボーンとの確執が深まっていったことを沢田だけは知らない。

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