リボツナ2 | ナノ



21.




保険医に追い立てられ、慌てて教室に駆け込むも間に合わずにまたも遅刻を取られた。
昨日、今日と立て続けての遅刻に担任からお小言を貰って授業が始まる。

出来のよろしくないお頭は昨日からの出来事を必死に追うのに精一杯で、授業なんて身に入る訳がない。
こりゃあ夏休みの補習は決定だろう。
もういいや…と早々に諦めた。





昼休みを告げるチャイムが鳴り響くと、一斉に移動を始める。男ばかりの高校ならこんなものだろう。
山本なんて休み時間の度にパンを口に入れているくらいで、食欲は何物にも勝るということか。
いつものように中庭にと誘われたがゴメンと断る。
余程表情が硬かったのかしきりに獄寺くんがついてきたがっていたけど、色々と困るので遠慮した。

保健室へと向かおうと教室から出ると、同じ一年生だと思われる気の弱そうなヤツがオレに紙を手渡してきた。
小さいそれには一言屋上で待つ、とだけ書かれていた。
どういうことだろうと手渡したヤツを見る。

「さっ、さっき渡されたんだ。俺は知らないよ!」

と叫ぶと逃げ出していった。
つまりリボーンに渡すように言付かったのか。
あの慌てようだとそういうことなのだろう。
手の平で紙を握ると制服のジャケットに押し込めて屋上へと向かった。






歩きはじめたはいいが、まだ校舎の全てを把握しきっていないオレはどこから屋上に出られるのかを知らなかった。上へあがってもその校舎の屋上は立ち入り禁止になっていて、それならどの校舎だとまた次の校舎へと足を向ける。そんなことを3回も繰り返している内に、やっと人の気配のする屋上へと辿り着いた。

ここも本来ならば立ち入り禁止なのだろうが、鍵は掛かっておらず錆び付いたドアを身体で押して外へと扉を開ける。
すると思いもよらない人たちがそこには待っていた。

「待っていたよ、綱吉くん!」

「はぁ?」

と言われても何のことだかさっぱり分からない。分かるのはこの人たちは運動部の部長やら副部長らしいということぐらいだ。
見覚えがある。
腕を掴まれ、自分より厳つい上級生ばかりが揃う輪の中へと押し込められた。

「まぁまぁ、こっちで話そうじゃないか。」

「いえ、あの…」

リボーンと約束があるのだと言おうとして手を翳すと、その手に視線が集まる。何だろうかと自分で見て慌てて隠すももう遅い。
手形のばっちり残った手首を見た彼らはざわざわと騒ぎ出した。
ファンクラブがどうとか、何をされたんだとか、何だか部活の勧誘だと思っていたのは間違いだったのか?
とにかくその隙にと逃げ出そうとすると、またも腕を掴まれた。今度は両腕を同時に2人で。

「逃げるのはよくないよ、綱吉くん。」

「そうそう…これは何なのか教えて貰わないとファンクラブの会報に載せられないじゃないか。」

「ななななに…ふぁんくらぶ??」

そんなもの初耳だ。いや、そもそも会報って何。
顔を引き攣らせながらもその手から逃げようとしても、体格の違がありすぎて前に進むことも出来ない。
逆に後ろに引き摺られてまた取り囲まれた。

「ちょっと待て…これは何だ?!」

「なに!?」

後頭部に手を差し込んだ上級生の一人が首裏に指を這わせる。髪で隠れていたそこを暴くと他の面々へと突きつける。覚えがあり過ぎるオレは必死で手で隠すもその手首まで取られて動けなくなった。

「綱吉くんの公式プロフィールには恋人はいない筈なんだが、これは何だい?」

「こ、公式って…」

絶句だ。何だこの人たち。
ひょっとしてこの人たちがオレの愛飲ドリンクをその会報とやらに載せていたんじゃ…。

言葉もなく呆然としていると、ネクタイを取られ上からボタンを外されていく。
暴れても多人数対一人じゃ話にならない。
あっという間に一番下まではだけられると揃って無言になった。

生っ白い貧相な身体に昨晩の痕が生々しく残っている。
鎖骨から胸へと唇が辿った痕がはっきり分かるほど隙間なく付けられていて、偏執狂的なその数と位置とが白日の元に晒された。

違うんです!と叫ぼうとしても声が出なかった。何故なら後ろから口を手で覆われていたからだ。ふぐふぐと喋ろうとするも喋らせて貰えず気が付けば物陰へと押し込められていた。
ただでさえ人影のない屋上で、声も出せずに体格のいい先輩たちに押え付けられて…なんだかこれって暴行とかってヤツと似た状況みたいだと思った。

ははは…まさか。そう思っていると、一人がオレの身体に手で触り出す。気持ち悪くて顔を顰めても周りの先輩たちも同じように触れてきた。
似た状況じゃなくて、まさしくそれだと気が付いても口を塞がれて声が出せない。
気持ち悪さといいようにされる悔しさに涙が滲んできた。

一人がもぞりと下肢をまさぐりはじめると、今度ははだけた上半身に顔が近付いてくる。
嫌で嫌で、こんなことされてもいいと思えるのはやっぱりリボーンとだけだと突きつけられた。
悔しさに口を塞いでいる手を噛むと声を上げて離れた。
その間にベルトを緩められて身体に生暖かい息が掛かる。

万事休す。
怖さに目をぎゅっと瞑って気持ち悪さに耐えるとパス、パス、パス!と軽い音が響いてオレの上から気配が消えていった。

ゆっくりと目を開けるとそこには自分より大きな体格の男を吊し上げているコロネロさんと、オレのズボンに手を掛けている先輩にエアガンを突きつけているリボーンとが視界に入ってきた。

「よお、てめぇら面白ぇことしてんな?」

「リ、リボーン!!?」

コロネロさんが拳で、リボーンはエアガンで急所を狙い打ったために、あと意識があるのはこの先輩一人だけだ。…そのエアガン、改造してないか?普通ここまでの威力はない筈なのに。
ニヤリを笑っているように見えても、瞳の奥が冷たく暗い。ゾッとするような目付きで先輩を眺めるリボーンの本気が知れた。こいつ殺られるんじゃ…。

「お前、今日は保健室に…」

「待ち合わせの相手がここに居るんじゃ仕方ねぇだろ。」

じりじりと後ずさる先輩にカツンカツンとわざと音を立てて近付いていく。
恐怖に歪む顔に、リボーンたちの武勇伝が本当だと分かる。
手摺りに背中が触れると、哀れなほど身体を震わせてひぃぃい!!と悲鳴を上げた。気絶しているヤツらが幸せに見える程だ。

その先輩の顔の横の手摺りに足を蹴り上げると、飛び跳ねた先輩の襟首を掴んで引き寄せた。
絶命しそうな白い顔に向かってリボーンが吐き捨てる。

「ファンクラブまでは大目に見てやったが、今回みたいなことがまた遭ったらてめぇら全員殺すぞ…」

「はいぃぃいい…!」

面白くもなさそうに失禁した先輩を放り投げると、はだけた前を掻き合せていたオレの前まで歩いてくる。
目の前にリボーンの大きな手が見えて、やっとリボーンの瞳を直接見れた。
もう怒りはどこかにいっているのかいつものように何も映していない瞳だ。

その手を取ることも撥ね退けることもできなくて、ただ見詰めているとボソリと呟いた。

「…好きだ。」

言われた途端に涙腺が決壊してしまったように温かい涙が次々と零れ落ちる。
泣く気なんかなかったし、泣く理由も見当たらない。
なのに何故か涙が止まらなかった。


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