リボツナ2 | ナノ



3.




沢田が立ち去った男の背中を眺めていると、ジョットがすごくイイ笑顔でリボーンの背中を叩いた。

「貴様に靡かないなんてどんな子だろうな。一度見てみたいものだ。」

「てめぇ…」

呻くように声を絞り出した声と、リボーンの切れそうなほど鋭い眼光を受け止めてなお笑顔を浮かべているジョットは何かを知っているようだった。
確かにリボーンが本気で口説いているのなら、どんな女の子だって落ちそうだと思う。なのにあの様子からすると一向に気付いていないらしい。いや、それとも分かっていてはぐらかしているのか。

ふっと思い浮かんだその想像を目の前の2人に当て嵌めてみたら妙に得心がいく。けれど男同士だし、そんなことないよな…と胸の奥で否定してみても一度思い浮かんだそれを打ち消すことは出来なかった。









ジョットとリボーンによって動くことも出来ないほど叩きのめされた巻き毛の男を白衣の鑑識官に預けるとまた3人で歩き出した。
沢田の左右にまるで番犬のように控える2人の確執を余所に、沢田は段々と口数が少なくなってきた。

「どうかしたのか?ツナ。」

「えっ…いえ!何でもありません!」

「妙な連中に出会ったせいだろう。聴取の前に休憩を挟むか?」

とジョットは言うが、妙な連中の内2人はジョットの部下だ。白衣の男だけはリボーンの仲間なのだがジョットとその部下たちのような上下の繋がりはない。横の繋がりというか、互いの利益が重なった時または興味を持った時のみの仲間だった。

それにはジョットもリボーンも口を噤んで、浮かない顔のツナの様子だけを気にして覗き込んできた。
しかしツナは、そんな自分の感情がどこからきているのかさえ分からずに苦笑いを浮かべると少しトイレに行ってきますと逃げ出した。

勿論、2人が付いて行こうとしたのだが、互いを牽制していたためにツナに置いてきぼりを食らうことになる。
そんな2人を仲がいいのだと誤解したツナが、その後もっととんでもない誤解を生むなどとは夢にも思わずに。





喧嘩するほど仲がいいらしい2人を置いてトイレまでトボトボ歩いていくと、廊下の角から突然飛び出してきた男にぶつかってしまった。
あまり大きい方でもない沢田は、ぶつかってきた男より小柄だった上に体重も軽かったのでペタンと尻もちをついてしまう。
それに驚いたのはぶつかってきた相手だった。

「なっ!アンタどこか悪いのか!これくらいの動きを読めずにぶつかった挙句、尻もちつくなんて…!」

「はぁ…」

お世辞にも運動神経のいい方だとは言えない沢田は、ぶつかってきた癖に態度のでかいヴィジュアル系バンドマンのような男の顔をマジマジと見詰めながらただそう声を漏らすので精一杯だった。
その態度に益々驚きの表情を見せた男はギャー!と叫び声を上げた。

「この世の終わりなのか?!先輩が無茶を言わなくなるのと同じく、アンタが不遜じゃなくなるなんて人類滅亡の日は今日だったのか!」

「って、えっと…」

どう答えていいのかと迷っていると、その男の背後にいつの間にか立った金髪の男が眉間に皺を寄せたまま無言で足を振り上げると勢いよく踵を振り降ろした。

「ぐぇ…っ!」

「うるせーな、コラ!しばらく伸びてやがれ!っと、なんだ?どうしてジョットが廊下に座ってんだ?」

そう声を掛けてきたのは、随分とガタイのいい金髪男だ。
同じ金髪碧眼とはいえ、ジョットとは印象が180度異なる。
ジョットは冷たい美貌を持っているが、目の前の男はどこか人懐っこさが窺えた。

しかし、その男の言葉でどうやらまたジョットに間違えられていたことに気付く。
金髪男に腕を引かれて立ち上がった沢田はありがとうとお礼を言った。するとそれを聞いた金髪男が思い切り引き攣った顔で仰け反って後ずさりを始めた。

「お前が礼を言うなんて調子でも悪いのか?」

「違いますっ!オレ、ジョットさんじゃありません。似てるらしいですけど、オレは沢田綱吉っていう名前があるんです!!」

思いの外大声になってしまったことに自分でも狼狽えた。似ていると何度も言われることに苦痛を覚え始めた沢田は、違うのだと誰かれなく伝えたい気持ちで叫び声を上げてしまっていた。

慌てて口を閉じると、その叫びを黙って聞いていた金髪男が上から下までじっくり沢田を眺める。
不躾な視線と自分でも訳が分からない感情に翻弄されたことに恥ずかしさに頬を赤らめて俯くと悪かったなと上から謝罪が落ちてきた。
その声に俯いていた顔を上げるとワシワシと頭を鷲掴みにされて撫でられる。

「パッと見似てるが全然違うな、コラ!悪かったぜ!」

「いえ…その、こちらこそごめんなさい。」

大声を上げてしまったことを詫びると金髪男はそこまで金髪だった睫毛をぱちくりと瞬かせてからカラリと笑い声を上げた。

「お前、可愛いヤツだな!」

「可愛い…」

今日はなんともいえない言葉をよく言われる日だ。
どう答えればいいのかすら分からず困っていると、伸びたと思っていたヴィジュアル系男がぽつりと一言吐き出した。

「先輩がジョット似の人を口説いてる…」

「バッ!」

湯気が出そうなほど赤くなった金髪男が、ヴィジュアル系男を追いかけて走りだしたところで、くるりとそのバンドマンもどきが振り返って叫んだ。

「オレもアンタなら可愛いと思いますよ!今度会ったら食事に行こう!」

「てめっ!ちゃっかり口説いてんじゃねー!」

先輩に言われる筋合いはないと言いながらも慌てて逃げ出した男のライダースーツの背中と、金髪男のミリタリー服の背中をぼんやりと見詰めていると突然横から声が掛った。

「騒がしい連中だな…これだから群れるのは嫌いだ。」

低い声とあまりに近すぎる位置からの言葉にびくんと身体が跳ねた。するとそれを見た男はくすりとも笑わずに沢田の腕を握ると顔を覗きこんできた。

「ふうん…ジョットに似てるっていうから見に来たけど似てないな。表情の作り方もまるで違うし、兄弟や親せきって感じでもなさそうだ。」

「はい、違います。」

不躾な視線に逃げ出したくなりながらもどうにか耐えていると、男は興味を失ったというようにクルリと背中を向けてその場から立ち去っていった。
それにほっと息を吐き出すとやっと目的のトイレまで辿り着くことが出来た。

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