リボツナ2 | ナノ



2.




警視庁の期待の星…というとなんだかカッコいいが、その実この2人のことを上層部は持て余していた。
自分たちの手足になるほど可愛げもなければ、大人しくもないからだ。

ずば抜けた頭脳とそれから導き出される回答は今まで外れたことはない。誰かとつるむことをよしとせず、どころか自分の捜査の邪魔だと言って憚らない。しかもそんな無茶なと思うような捜査で実績を上げてきたリボーンと、幾人かの部下を自分の手足のように使いこなし、いざという時には自らが陣頭指揮を取る。誰もが逆らう気力を失ってだんまりを決め込んだ犯人すら自供してしまうまさに王者のような青年ジョット。
そんな2人を同じチームにすることで、少しは大人しくなったかに思われたのだが…






アイスブルーの瞳を冷たく光らせながらわずかにジョットより高い位置にある黒い瞳を睨み付けると、視界の先で形のいい眉がぴくりと跳ね上がった。

「てめぇ…どういう了見でツナの手ぇ握ろうとしやがった?!」

「…エスコートは紳士のつとめだ。」

しらっと言い切られてリボーンの血管が切れかけたところで、ふいに横から声が掛った。
それに天の助けかとホッとした沢田の顎に指が伸びた。

「お前たち、こんな往来でなに痴話喧嘩なんぞをしているのだ?ふむ…こいつがジョットのそっくりさん…か?思いの外似てないように私は思う。何故なら髪の色、瞳の光彩もだが何より肌のきめ細かさが…」

「「触るなっ!!」」

ボサボサの髪に無精ひげ、眠そうに淀んだ瞳と汚れた白衣の男が沢田の顎をつまむと顔を近づけてマジマジと覗き込んできた。
それに抗う術もなくなすがままになっていた沢田の肩をジョットとリボーンは左右から引き寄せるとその男から遠ざけた。

「息がぴったりじゃないか。」

至極残念そうに沢田から引き離された男がそう嫌味を言うと、ジョットとリボーンが心底嫌そうに顔を歪めた。

「冗談は貴様の顔だけで十分だ。それでオレとこいつに何か用か?」

「あぁ…先週鑑識に回されたガラス片が少し面白いブツだったんでね。それをさかなにジョットにそっくりだという先生を見にきたのさ。」

どうやらこの男、鑑識官だったらしい。しかもジョットは男を苦手としているのかわずかに眉間の皺を増やしながら男の持つ鑑識結果を覗きこんでいた。

「この事件と昨晩の強盗事件が同じ犯人ならば…ツナが危ねぇな。」

同じく覗き込んでいたリボーンに突然そう声を掛けられて沢田は大きな瞳を益々大きく見開いた。

「え…?」

視線が沢田に集中して、それにやっと気付いた沢田はキョロキョロと辺りを見回した。
すると通りすがりの人たちまでこちらを眺めていることにぎょっと肩を揺らす。
そんな人だかりの中から情けない声を上げて沢田に飛びつくように前まで躍り出た男がいた。

「ジョットっ!頼まれた資料と近辺の事情聴取終わりました……って、あれ?ジョット縮みました?」

「バカ者、オレはこっちだ。」

くるくるの巻き毛に甘い印象を与える垂れ目はどこかお坊ちゃんくさい。顔はいいのに何かいま一つという点数をつけたくなる男は、沢田の肩を掴んで顔を覗きこんだところでボディブローを左右からお見舞いされて廊下に伸びてしまった。

「ちょ…大丈夫ですか?」

「平気だぞ。こいつは打たれ強いマゾだからな。」

と平然とリボーンがいえば、

「お前のところのパシリと一緒にするな。…だが、気にすることはないすぐに起き上がる。」

とジョットまで気にした様子がない。それでもかなり痛そうな音で伸びたことに沢田はどうしても心配になって、男の横にしゃがみ込むと突然両手を握られた。

「運命の人…あなたは僕の運命の人なんですね!あぁ、僕が今まで虐げられてきたことはすべてあなたとの出会いのため…アモーレ!」

打ちどころが悪かったのか男が沢田にそう熱烈なアタックを仕掛けていると、その頭の上からぬっと黒い影が2つ男の上に覆いかぶさってきた。

「てめぇ、殺す!」

「死ね。」

いつの間にか拳銃を男に向けて構えているリボーンと、手の甲にグローブを装着したジョットが炎を迸らせて男に襲いかかっていった。
唖然とそれを見守るしかないツナの手を取ると、危ないですよと少し距離を置いたところまで避難させてくれた人がいた。

「あ、ありがとうございます。」

「いいえ、お怪我はないですか?」

「はい、平気です。」

優しげな瞳とは裏腹にどこか腹の読めない笑みを浮かべる男は随分と変わった髪型をしていた。先ほどの白衣の男が怪しげだとするなら、この目の前にいる男は如何わしいような気がする。
失礼だろうと心の中で沢田が自分を恥じていると、握られていたままだった手をついっと男の顔の前まで持っていかれ、あっと思った時には手の甲に口付けを落とされていた。

「スペード!」

ジョットの鋭い声に沢田がビクンとしているのに、言われた本人は気にすることなく沢田の手を握ったままでにっこりと笑っていた。

「いいじゃないですか。美しいものに心奪われるのは自然の摂理ですよ。フフフッ…本当に美しい。このまま剥製にして飾っておきたいくらいです。」

「っ!」

スペードと呼ばれた男の言葉に冷たい狂気を感じて慌てて手を振りほどくとリボーンが沢田の肩を抱きかかえた。

「変態が。」

「オヤオヤ…貴方に言われるほどではないですよ。本屋で一目惚れをした挙句、職権乱用をしまくってトモダチにまでなったストーカーさんほどでは、ね。」

フフフフッ…といやらしい笑みを浮かべるスペードの言葉に沢田の肩を握るリボーンの手がわずかに揺れたが、いま会ったばかりのへんた…いや男とリボーンとでは信頼度が違う。
後ろを振り向いた沢田はニコッと邪気のない笑みでリボーンに呟いた。

「それが嘘でも本当でもオレはあなたを信頼してます。きっと相手の子も気付いてくれますよ。リボーンさんイイ男なんだから!」

自信を持って!と励ますとなんとも複雑な顔で沢田を見詰めてきた。

「クフっ…!頑張って下さいね。」

「うるせぇ。」

苦虫を噛み潰した表情でそう答えるリボーンに満面の笑みを浮かべた変た…じゃないスペードが手を振るとその場から悠然と離れていった。
それを無言で見詰めていたジョットの足元からは、先ほどの優男の情けない声が聞こえて消えた。

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