リボツナ2 | ナノ



1.




警視庁でジョットを知らないものなどいないと言い切れるほど彼は有名人だった。
王者のたてがみのような金色に輝く髪と、小さい顔それから大きいがあくまで冷淡な印象を与える碧い瞳。

冴え冴えとした美貌というに相応しい面を新聞紙から上げたのは目の前に置かれたコーヒーの匂いにつられたからではなく、ジョットの横から恐る恐るといった調子で声が掛かったからだった。

「あのー…ここは刑事課、ですよね?」

と多分ジョットに訊ねたのだろう声は、けれどすぐに掻き消されてしまった。

「なっ!ジョットが2人いる!」

「バカな!そんな訳なかろ…うおおおぉぉお!本当だ!」

などという幼馴染み兼右腕(という名の雑用係)のGの悲鳴とナックルの絶叫は刑事課の室内を駆け巡った。

「煩いぞ、お前たち…確かにここは刑事課だがなんの用だ。」

ちらりと冷たい一瞥を2人にくれたジョットは、そっけない言葉とは裏腹に自分にそっくりだという相手の顔をじっくりと眺めた。

薄い茶色の髪と同じ色の瞳は大きく零れそうで、ミルクチョコレートを溶かしたようにも見える。
長いがまばらな睫毛は不安そうに瞬かれ、日本人特有の曖昧な笑みを浮かべる口許はふっくらとおいしそうなピンク色をしていた。

全然似てないではないか、と内心でGとナックルを眼科に行かせるべきだと思いながらも相手の返事を待っていた。

すると迷っている様子を見せながらも口を開きかけた、その時。

「悪いな、待たせたか?」

とチョコレートのように甘い印象の少年(に見えた)の後ろから黒い影が現れた。
いや、それは黒い影ではなく、いつも喪服のように黒ばかり着ている警視庁一キザな男だった。

その声にパッと表情を明るくさせた少年は、慌てて後ろを振り返るとふわふわとわたがしのような髪の毛を横に振って答えた。

「いいえ!丁度今来たところです。リボーンさんこそお時間平気ですか?」

少年の関心と瞳とがリボーンに向けられてしまったことにジョットは憤りを感じていた。
何故だか分からない。自分の質問に答えなかったからなのか、相手があのリボーンだからなのか、それとも別のなにかか。

ともかくムッとした表情で少年の背中を見ているとそれを見下ろすリボーンの視線が気持ち悪いほど脂下がっていることに気が付いた。

「…あの野郎、仕事ではジョットと組んで、プライベートではあんな可愛い子となんてうらやまし…ゲフゲフ…いや、淫行罪で掴まっちま…うほん!」

どうにも本音がダダ漏れしているGの言葉を聞きながら、ジョットは段々とイラつきを抑えきれなくなってきていた。

リボーンはジョットと同じ警視庁の刑事だ。
ジョットが金の王者ならリボーンは黒の悪魔と並び評されることも多いが、仕事ではよく組まされることもあり互いに相手を評価していた。あくまで自分の次に出来るヤツとして。

だがである。
あの少年を目の前で掻っ攫われていくことだけは許容できそうにもなかった。

さりげなく少年の肩に手を回し、この場から立ち去ろうとする黒い背中に待ったを掛ける。

「待て。貴様なにをしにどこへ行くんだ。」

ジョットの言葉にチッと舌打ちを零したリボーンは、明らかに邪魔をするなと言葉ではなく態度が物語っていた。

「…こちらは先日の強盗事件の目撃者で、高校教諭の沢田先生だ。今から当時の現場の様子を聞くためにご足労願ったところだぞ。」

「そうか、それならオレも立ち会う権利があるな。一緒に行こう。」

サッと立ち上がったジェットを見てリボーンは無言で睨みつけてきた。
それをものともせずに、少年だと思っていたのに教師だった彼の横に並び立つと肩を抱きかかえていたリボーンの手を払い除けた。

「行こう、沢田先生。」

「あ、はい…」

ジョットの目線までしかない身長の彼がびっくりした表情で振り仰ぐ。自分だけを映している大きなミルクチョコレート色の瞳に満足して手を引こうと握るとそれをリボーンに叩き落された。

「なにをする…」

「てめぇ、ツナに気安く触るんじゃねぇ。」

「貴様に言われる筋合いなどない。」

バチバチと冷たい火花を目の前で散らす2人を前に、沢田はどうすればいいのかと途方に暮れた。

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