リボツナ2 | ナノ



1.




高校教諭などというと、中学生や小学生と違ってまだ楽だというイメージが強いようだが、それは受け持ちの生徒に依るところが大きいと思う。
沢田の勤める並盛高校はレベルは中の上といったところだが、風紀が厳しくわずかな違反も見逃さないという鬼の風紀委員長が在学しているためかとにかく遅刻や身だしなみ、校内の乱れを許さない校風があった。

頬を撫でる風が日差しの暖かさを伝えはじめるこの時期は、一年の中で一番次の年度に向けて教師は忙しなくなり、生徒は期待にまたは淋しさにドキドキと胸を躍らせる。
3月の卒業式を控えた2月の終わりは、ともかく落ち着かない季節といえるだろう。

何度でも言おう。
例え高校教師だとて、この時期は忙しいのだ。
だというのに、市民の安全を守る警察官は忙しくはないのだろうか?

片や黒いジャガー、此方黄色のフェラーリというどう考えてもまっとうな公務員じゃ乗ることなんかできないド派手な高級外車が2台、校門の前に横付けされてオレの帰りを今や遅しと待ち構えていた。
しかも、である。
その待ち構えている2人が普通のオジサンならまだマシだったのに、これまた超の付く美形だった。
最近ではこの時間になると現れる金と黒の2人組み見たさに遅くまで学校に居残る女子も少なくはない。

「沢田先生、そろそろ帰っていいですよ。」

「す、すみません!」

という教頭の嫌味の籠った戦力外通知にトホホ…と涙にくれながらも持ち帰りの仕事を鞄に詰めていく。
6時を過ぎるとさすがに夕日が沈み、グラウンドを照らす明かりが目に飛び込んできた。
そういえば、野球部のエースがこの事件のはじまりだったのだと遠い眼差しになる。

ことの始まりは1ヶ月ほど前に遡る。
野球部のエースこと自分の受け持ちの生徒である山本武くんが万引きをしたと学校に通報が入り、慌ててオレが大型書店へと駆け付けた。
山本くんの家はお寿司屋さんで丁度忙しい時間帯だったこともあるし、あの山本くんが万引きなんて絶対しないという自信があったからだ。

駆け付けてみれば丁度店内の監視モニターの映像を流している最中で、そして山本くんは他校生に濡れ衣を着せられたことが判明した。
すぐにそこの高校に問い合わせをする書店店員に申し訳ないと頭を下げられながら、オレより大きな山本くんの背中を押して帰途についていた時にそれは起こった。

野球部のエースなのに気さくな山本くんとよかったねと言い合いながら大通りを歩いていくと、キャーッ!!という悲鳴が路地裏から響いてきた。
慌てて駆け出そうとするオレの腕を掴んだ山本くんは危ないからここにいてくれと路地裏へと吸い込まれていった。
教師として生徒にそんな危ないところに行かせる訳にはいかないと慌てて後を追ったのだが、現役高校生プラス野球部のエースの脚力についていける筈もなく、路地裏の奥へと足を踏み入れたときには山本くんの影も形も見当たらなかった。

声のした方向に視線を向けたその時、突然暗闇から黒い影がオレの目の前を横切っていった。
街灯もない路地裏の上に、男は黒っぽい格好をしていたせいでこれといった印象もない。けれどこちらを振り返った瞳のギラついた鈍い光に身体が凍りついてしまい、追いかけることも出来なかった…。

それがこの並盛で最近頻発している強盗事件と同じ手口だったなんてことを知ったのは、警察官に呼ばれてからの話だ。
すぐに呼んだ警察はパトカーを何台も連れてきてその多さに驚いていると、妙に見覚えのある車が紛れ込んでいた。

「ツナ?!」

「あれ…?リボーン、さん?」

刑事ドラマなどではいつもきちんとした格好をしていることの多い捜査1課の刑事たちだが、どうにもくたびれた感が拭えないよれたワイシャツに解け掛けたネクタイ姿で現れたのは、この書店で顔見知りとなったリボーンさんだった。

「…ツナが強盗犯を目撃したのか?」

「へ?リボーンさんがなんでそのことを…」

いつもの黒いジャガーと、それからいつもより身だしなみが適当になっているリボーンさんを交互に眺める。
するとリボーンさんの後ろから制服警官が大声で話しかけてきた。

「警部!お話のところ失礼しますっ!」

「って、けいぶーっ?!」

驚きに絶叫を上げると制服警官はやや引き攣った顔で後ずさり、リボーンさんは苦笑いを浮かべていた。

「そう、実は刑事だったんだぞ。ツナ先生。」

「え…オレ教師だって言いました?」

「いつも手にとっている本の中によく教材が紛れているからな。」

そうだっただろうか。
いま一つはっきりした記憶はないが、そういえばそうだったかもしれない。
そこは深く考えずに納得したのだが、それでもリボーンさんが刑事だったことに驚きを隠せない。
こちらに聞かれないように小声で耳打ちする制服警官に指示を出すと、オレの腕を取ってパトカーの中へと誘導されていった。






ということがあった翌日に、再度事情聴取をしたいと言われて警視庁へと足を運んだまではよかったが。
その後の惨事を想い浮かべながらも校門へと向かうと、今日も今日とて華々しい2人がパリっとしたスーツ姿で出迎えてくれた。両脇には嫉妬でギラつく女子生徒を侍らせて。
毎回のことながら胃がキリキリする痛みを訴えはじめた。帰りたい。心底ひとりで帰らせてくれと思いながらもここで逃げても結局はどちらかに捕まることも体験済みなオレは、2人の車の間に立った。

「ツナ、遅かったな。心配したぞ。」

とリボーンさんが言えば隣からは、

「そうだ、狙われているのだから早めに帰宅した方がいい。」

とジョットさんも頷いた。
オレに掛けられる言葉はどちらも優しいのに、互いに視線を交わすことはない。
それだけツーカーなのかと思うと妙なところがズキリと痛んだが、それには気付かないふりをして曖昧な笑みを浮かべた。

「今日はジョットさんに送って頂く日でしたよね。なにもわざわざ2人で待ってなくてもいいのに…」

そうリボーンさんに言うとリボーンさんはムッとした表情でフンと鼻を鳴らした。

「オレが来なけりゃ2人きりになっちまうだろ。どうして恋敵に塩を送らなきゃならねぇんだ。」

なんてサラリと言われ、苦笑いしか浮かばない。
そこまで大事ならオレなんかをジョットさんの車に載せないよう本人に言えばいいのに、どこまでも意地っ張りな人だと思った。それともジョットさんがそれを突っぱねてしまうからかもしれない。

金色に輝く髪の毛を持つジョットさんは怜悧な眼差しが見る者を惹きつけて離さない魅力溢れる人だ。
対してリボーンさんはいつも黒尽くめの格好をして、それが気障でも嫌味でもなく決まっている人だった。
2人でいると対をなして見えるのはなにもオレだけだった訳ではないらしく、件の警視庁でこっそり盗み聞いてしまった事実からいまだ立ち直れないでいた。

「それでは今日はオレの車へどうぞ?」

「いつもすみません…」

睨み付けるリボーンさんの視線に顔を上げられず、そそくさとフェラーリの助手席へと逃げ込んだ。
荷物を足下に詰め込むと、オレがシートベルトをするかしないかというところで発進する。仮にも警察官がいいのだろうか…と思ったが、いやよくないと急いでシートベルトを嵌めた。

「ツナヨシ、今日こそオレとディナーに行こう。」

「そういうことは恋人に言ってあげて下さい。」

他人曰く、オレとジョットさんは似ているらしい。オレから言わせればどこが似ているというのかというほど共通点はないと思うのに。
だからなのかやたらとオレに構うジョットさんに最近はイラついていた。
ジョットさんが悪いんじゃない。悪いのは人の恋人を好きになってしまったオレの方だ。

だから我慢して、我慢して、ずっと我慢していたのについそんな嫌味が口から零れてしまった。
後ろからはオレとジョットさんのことが気になるのかリボーンさんがついてきている。
それが余計に辛かった。

チラリをサイドミラー越しにジャガーの黒い車体を視界に入れてから、大きなお世話だったことに気が付いた。
そんなこと言われなくても毎日一緒にいるというのに。

ぎゅっと噛み締めた唇は痛みすら感じない。それに気付かないジョットさんはしばらく無言でいると、何故か少し頬を赤らめてこちらを振り向いた。
ちなみにメーターは振りきれている。

「……それはオレに恋人がいるのかと訊ねているのか?」

「いえっ!そういう訳じゃ、」

いいから前を見てくれ!と祈るようにジョットさんを見詰めていると、軽々とハンドルを切って毎朝バスから眺める景色を次々とすごいスピードで追い抜かしていった。
まさに神業ともいうべきハンドル捌きに生きた心地がしないオレは、それでもどうにか頭を振ることができた。

「そうか、少しは気にしてくれているのだな…」

マズイことを聞いてしまったと焦っていると突然ブレーキを踏んで車がギリギリ通れる幅の小道へとハンドルを切った。
気が付けば後ろにいた筈のリボーンの車を振り切って、見たこともない高層マンションへと連れてこられてきていた。













タイトルを瞑目さまからお借りしています



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