リボツナ2 | ナノ



2.




「で、頭にきたてめぇが逃げ出したって訳か?」

手渡されたワイングラスに注がれる赤い液体から香る芳醇なそれを吸い込んで、やっと身体の力が抜けていった。
はじめて通されたリボーンの隠れ家は使う本人のようにシンプルでいながら本物を贅沢に使っている。
凭れ掛かるソファの座り心地のいいことといったら、ボンゴレの屋敷にあるそれと同じくらいだ。

ワインに口をつけるといまだにいいワインが分からないオレは眉を顰めた。
その顔を見たリボーンが白けた顔でオレからワイングラスを奪い取るとそのまま飲み干してしまう。
なんだかご機嫌が悪いということは分かった。

「なんだよ…たまにはいいじゃんか。リボーンだっていいと思ったから連れて来てくれたんだろ?」

そう言うとチッと鋭い舌打ちをしてワインの瓶を掴むと煽りはじめた。
いつもは手順だ作法だと理を説くリボーンにしては珍しく荒れている。
どうしたのだろうかと眺めていると飲み終えたらしいワインの瓶をゴロンと床に転がしてからこちらに迫ってきた。

「オイ、ツナ。」

「ふぁ、はいっ!」

背凭れに身体を預けていた格好だったオレの上にリボーンが伸し掛かってきた。
アルコバレーノの呪いを解いて数年経つがいまだにこのリボーンは慣れなかった。
ぷにぷにのホッペが(見た目だけは)可愛かった赤ん坊が、オレの頭一つ分大きな男になってしまったのだ。慣れろという方がムリがある。

しかもその顔ときたら愛人さんが両手でも足りないほどいるというのも納得のエロ顔だった。

「誰がエロ顔だ。ダメツナ。」

「ダメツナ言うな!てか勝手に心の声を読むなよ。もう家庭教師は廃業だっつてただろ。」

目の前に迫る顔を手で押し遣るとその手を掴まれ左右に押さえつけられる。
理不尽なのも気まぐれなのも知っているが、その意味を知りたいと思った。

じっと見詰めていると徐々に近付いてくる顔に焦って身体の間に膝をいれれば、それを足で払われて横に転がった。
この手の接触は守護者たちに繰り返されていて、ただのスキンシップ以上だというのは分かっていても易々といいようにされるほどオレもおぼこではないつもりだった。

「そうだぞ。辞めたからこうしてるんじゃねぇか。」

「って言われても…」

そいう意味で興味があるということだろうか。
性質の悪い守護者たちは一様に好きですだの、僕のものになりなよと一歩間違えれば熱烈なラブコールともとれる言葉で迫ってはくるけど、残念ながらオレは遊びで男と付き合える性格ではないので丁重に拳と死ぬ気の炎でもってお断りしていた。

そんなオレを見続けてきたというのにどうしてリボーンまでこういうことを強要するのか。
涼しげな目元がふっと笑みの形に崩れ、それからいきなり首筋に顔を埋めてきた。

「ちょ…何する気?」

「ナニをするのも楽しいが、まずは聞いてやる。オレに大人しく身体を差し出すよな?」

「なっ!ばっ!誰が男に掘られるの分かってていいよって言うもんか!」

耳元で尋ねられ、その声色の艶っぽさに背筋がぞくぞくしてきた。それでもここで流されたら負けだと声を張り上げる。
けれどそれを無視して耳の穴に舌を突き入れられて変な声が思わず漏れた。

「ん、ふっ、ううん!」

クツクツと低い声が耳朶を打ち、その声に我に返ったオレは唇を噛み締める。
押さえつけられたままの両腕を一纏めにされ抗おうと腕に力を込める前に鳩尾に膝を入れられた。

「ぐっ!」

胃液がせり上がるほどの痛みに身体が竦む。相手はリボーンだという気安さにどこかまだ大丈夫だと思っていたらしい。
下からキッと睨み付けると意外や余裕のない顔でこちらを見詰めているリボーンの瞳とかち合った。

「あのまま京子とうまく纏まるのかと思えばそんな素振りもねぇ。そうかと思えば守護者どもの秋波も歯牙にもかけねぇ…それならオレにもって思ってどこが悪い。」

なんだか開き直りにも聞こえる言葉に唖然としつつも顔を眺め続けた。
こういう風に感情を見せるリボーンははじめてでどうしていいのかさえ分からない。
最後まで聞こうと口を閉じるとシャツの上から身体を弄られた。

「しかもお誂えむきにオレの誕生日にのこのこ現れやがった挙句、てめぇ自分でなんっつたか覚えてるか?」

リボーンの指がシャツの上を辿って胸の先を探り当てると布越しに痛くなる手前の強さで弄りだした。
自分でも分かるほど硬くなってきたそこをシャツの上から舐められてビクッと身体が跳ねる。
ここまでされる前に殴り倒してきたというのに、今日のオレはどうかしてしまったのだろうか。

鼻にかかった声が漏れて羞恥に身がよじれるほど悶えた。
もうヤだ。と口から零れる声は自分でも信じられないほどか細い。
逃げ出したいのに逃げ出せない訳をみつけてしまい、泣きたくなった。

「どこか見てんじゃねぇぞ。『リボーンと一緒にいいところに行きたい』っつたのはてめぇだろ。」

「バッ…そういう意味じゃないよ!」

このままだと辛いのは自分だということも知っている。
必死に両手に力を込めてリボーンの手から逃れると、その動きを読んでいたリボーンに転がされて床の上に落とされた。

「んなもんはオレが決める。」

腹ばいの格好の上に降りてきたリボーンの手が床に手をついたオレの手の上に這って縫い付けた。
益々逃げられない体勢になったオレの項をリボーンが齧る。

「痛っ!」

「痛いのも好きだよな?こっちの痛みはどうだろうな。」

手を押えていた片手が外れ、スラックスの上の丸みをなぞっていく。
ぎゅっと掴まれた痛さに身を縮めていると、項に歯を立てることをやめて耳裏を舌で舐めはじめた。
真剣に逃げなければと焦れば焦るほど身体はリボーンの動きを追って過敏に反応していく。
スラックス越しに尻の間に指で弄られて、噛み締めていた唇から嗚咽が漏れた。

「嫌だっ!なんで好きな人に強姦されなきゃならないんだよ!」

とうとう言ってしまったという後悔と、そうしなければもっと辛かったんだという反発が胸の中で渦巻いていた。
勝手に零れる涙が床の上にポタポタと零れ、それを聞いたリボーンの手が止まる。

いつものように切って捨てられるだろう自分の気持ちを抱えたままリボーンの言葉を待っていると、頭の上から大きなため息が聞こえてきた。
そのため息にビクリと身体が震える。

「バカが。もっと早く言やぁいいのに、ここまでしなけりゃ言わねぇなんざどこまで強情なんだろうな?」

呆れた声でそう呟かれ腕の中に顔をうずめた。
うっとおしいと思われたのだろうと思うと次の言葉も聞けないほど心臓が痛くなる。
今更言わなきゃよかったと後悔しても遅いのは知っていて、だけど言わなきゃ身体だけ貰って満足していたかもしれないのだ。

うちひしがれたまま瞼をぎゅっと瞑って身を縮めているとこっちを向けとリボーンが言い出した。
怖くて頭を振って拒否すると横から手が伸びて顎を掴まれる。
容赦ない力で後ろを向かされて泣いて腫れた瞼をそっと見開いた。

「結構前から知ってたぞ。てめぇがオレのことを好きなことぐらい。」

ふふんと鼻で笑われて居た堪れなさに瞼を伏せた。
するとそれが気に食わなかったのか眦を舐められる。慌てて視線を上げればイイ顔で笑っていた。

「だから来たんだよな?オレの誕生日に一緒に居たいなんて可愛いぞ。」

カーッと燃え上がるほど熱くなった顔と、視線を反らせなくなった目がリボーンを見詰め続ける。
徐々に近付いてくる顔に逃げなきゃと思うのに身体は動かなくて、わざとゆっくり近付いてくる顔がぼやけるまでずっと目を見開いていた。

触れるだけのキスは蕩けてしまいそうなくらいよくて、幾度も幾度も繰り返されるそれに酔わされて頑なだった心が解けていった。
触れた時と同じくらいゆっくりと離れていった唇をぼんやり見詰めていると、その唇がまた近付いて今度はあっと言う間もなく塞がれた。

息もできないほど貪られ、空気を求めて開いた唇もまた塞がれる。今までしたどんなキスより官能的なキスを終えると口端からどちらのものとも分からない唾液が顎を伝ってシャツを濡らしていた。
ハァハァという荒い息だけが部屋にこもって今までしていたことが幻じゃなかったのだと知る。

それでも意味をはかりかねていると、最後まで聞いてやると促された。

「…すき、です。」

ずっと押えていた気持ちを吐き出すと、涙腺が壊れたように涙が止まらなくなった。
愛人もいっぱい居て、オレをここまで育ててくれたリボーンにこんな気持ちを持ってしまったことにどこか罪悪感を抱えていた。
家族同然に過ごした10年間を汚すようで、必死に目を背けてきた想いを聞いて貰えただけでいいと思った。

「ごめんな、聞いてくれてありがとう。」

歪む視界では表情は読めないけれど、困惑とか嫌悪は感じられないことに感謝した。
ぐしぐしと顔を袖で拭うとその手を掴まれて引き寄せられた。

「お前がオレのものになるっていうなら、オレもお前のものになってやってもいいぞ。」

「え…?」

どんな顔で言っているのか顔を見たいのに滲んでよく分からない。
パチパチを瞬きを繰り返してやっと開けた視界の先にまたドアップになったリボーンの顔が迫ってきていて心臓が止まりそうなほど驚いた。

「どうする?」

と訊ねられても答えは決まっている。

「そんなの聞くまでもないだろ。」

そうだなと笑った顔に唇を寄せるとどちらからともなく重なった。

「しょっぱいキスってのは初めてだぞ。」

「ふふっ、リボーンの初めてを貰っちゃった。」

額をくっつけて笑っていると、いきなり立ち上がったリボーンに腕を引かれて奥へと連れていかれる。

「とりあえずはオレがお前のハジメテを貰ってやる。」

「おま、下品だな!」

くくくっと笑ったリボーンが下品どころかとんでもないサドっ気があったと知るのはその後すぐのことだった。
リボーンの誕生日にはオレを、オレの誕生日にはリボーンをプレゼントだと言われ、死ぬ気で2日間を過ごしたなんてことは守護者たちには内緒にして貰いたい。



おわり



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