リボツナ2 | ナノ



4.




落ち着いたタイル張りの浴室に足つきのバスタブが置かれていた。女の子ならばお姫様みたいだと喜ぶかもしれないが、24になった男が嬉しい筈もない。

そうだよ、今日24になったんだよ。
なのに楽しみにしていたひとりの時間をぶち壊されて、あまつさえ右腕に謀(はかりごと)を企てられ、昔馴染みのカテキョーさまに喰われちゃったなんてどんだけオレ不幸を呼ぶ男なの。
そういう星の下に生まれてきたってこと?

頭から注がれるシャワーのお湯を顔を上げることで受け止めて、まだ腰までしか溜まっていないバスタブの中で足を投げ出した。それでも余裕だったりする。
バシャバシャと足でお湯を蹴り上げているとバスルームの向こうから声が掛かる。

「結構余裕じゃねぇか。はしゃいでんのか?」

「誰がだ!腹立ってるから暴れてるんだっ!」

スーツを脱ぎ捨てている布擦れの音と、わずかにくぐもった声にそう反論する。広いバスルームのせいで怒鳴った声が意外に反響してそれが余計にイラついた。
こいつに何を言ってもムダだと知っていても言いたいことは山ほどある。腹立ち紛れに言ってやれと半ばヤケクソになった。

「大体さ、あの愛人はリボーンの元愛人で今日きた彼女も獄寺くんの愛人だとすると他の女性たちもそうなんじゃないのかって疑うよな。」

「そうだぞ。」

何を当たり前なことをと呆れ口調でさらっと返され二の句が出ない。
驚きで動きが止まっているところに真っ裸になったリボーンが断りもなく入ってきた。
ああ、うん。着痩せするタイプだと分かっていたけどちょっとへこんだ。
こいつと風呂を一緒に取るのは10年ぶりだけど、決定的に違うのはリボーンの呪いが解けたことじゃないんだと気が付いた。

無理矢理捻じ込まれたせいで裂けているらしい奥は熱を持ってかジクジクと痛み始めていた。それでも弱みは見せまいとバスタブの縁に掴まりながらも隠さず堂々と近付いてくるリボーンを睨む。

今までと何かが違うと感じていた。
その何かが分からなくて後手にまわっていいようにされてしまっていたけど。

お湯に浸かったことで余計に体力を消費してしまったことに気付いても今更ということだろうか。
常に先手を読むリボーンに今回も負けっぱなしは癪に障る。
顔を覗き込んでいたリボーンの顔目掛けてシャワーを掛けてやると、さすがに予想していなかったのか驚いた表情になる。

きちんと撫で付けられていた髪がシャワーの勢いで乱れ、その端から雫を滴らせていた。
切れ長の眦が見開かれ長い睫毛がパチパチと瞬いている。
少し溜飲が下がってふふんと鼻で笑ってやると、それを見たリボーンが髪を掻き上げて苦笑いを零す。

「気が済んだか?」

「…」

済む訳あるかと返せない自分はどこまでもお人よしらしい。
返事をするのも癪でシャワーを手にしたまま横を向くとバスタブにリボーンが入ってきた。

「ちょ、狭くなるだろ!」

「それがいいんだぞ。」

男女で入るならばそこまで窮屈にならない程度の大きさでも、普通くらいのオレとこちらでも大きい部類のリボーンとではどうしてもくっつく羽目になる。
足を縮めて隅に寄ってもお構いなしのリボーンの足が身体とバスタブの隙間に入り込んで囲われてしまう。

「こっち寄るなよ。」

シャワーを盾に間合いを取っていると、その手を取られて引き寄せられた。2分ほど抵抗を試みたがただでさえあらぬ場所の痛みと疲れ、そして相手がリボーンだということに早々に諦めてしまった。
シャワーを湯船に放り出し、抱き寄せられたままで力を抜くと凭れ掛かる。

「相変わらずちっせぇな。」

「普通だろ!お前とか守護者とか周りが規格外だらけなんだよ。」

後ろから身体を抱えていた手が喉元を辿って耳裏へと滑っていく。
頭からかぶったお湯のせいで項に張り付いていた髪の毛を掻き分けると指で強く押し付けられた。

「跡が残りやすい肌だな。」

「っ!」

言われて恥ずかしさに声も出ない。下を向けば片足の膝を抱えられ赤く残った跡が内腿の柔らかい肌に幾つも残されていた。
慌てて膝を抱えて縮こまる。

「へ、変な場所に跡付けんなよ!明日から普通に仕事あるんだからな。」

「知ってるぞ。だから付けてやったんじゃねぇか。」

「…つけて『やった』?」

「ああ、そうだぞ。」

悪びれなく返す言葉に呆れてものも言えないまま振り返ると、余裕の表情で片肘をついてニヤついていた。
さっぱり意味が分からない。大体この行為のどこがオレへのプレゼントだったというのか。
読めない腹の中を探ろうと顔を覗いていると、膝を撫でていた手がするりと奥に入り込む。
膝を抱えていたせいで無防備だったそこに指を突きたてられぐるりと中を弄られた。

「やっ…バカぁ!」

「女と違って孕まねぇが腹が下るんだとよ。少し切れてるか?後で薬を塗ってやる。」

いらないと拒否したいのに声を出せない。変な声を上げたくなくてぐっと唇を噛み締めていると口の中に指を無理矢理捻じ込まれ結局声が漏れた。
痛みの底から湧き上がる感覚が喉の奥までせり上がってくる。

「ひっ、あっつ!」

「お抱えのヒットマンの指を噛むバカがどこにいる。使い物にならなくなったら責任取るんだぞ?」

言われて噛み締めようとした口許を緩めた。その隙に奥を弄る指が深く潜り込んでいく。掻き出された白濁の代わりにお湯が流れこんで何ともいえない違和感に包まれた。
喘ぎ混じりの声を零していると、後ろから項や肩に歯型が残るほど噛み付かれ痛いと言えずに悲鳴があがる。

「こんだけ付けときゃ疑いようもねぇだろ。」

やっと奥と口から指を引き抜かれ、力の入らないオレは湯船に沈みそうになった。というかもう立ち上がれない。
リボーンより長くお湯に浸かっていたのだ。湯中りを起こして当然だった。

一通り身体を洗い流されて、来たときと同じく抱えられて寝室に辿り着いた。
柔らかい肌当たりのシーツの上に放り投げられても指一本動かせない。
互いに裸のままだがそこに突っ込む気力も尽きた。

眠るというより落ちるに近い感覚に襲われてそのまま意識を手放していく。
その横に潜り込んだリボーンが濡れた髪を拭いてくれながら呟いた。

「10年目の誕生日プレゼントはオレだぞ。顔よし腕よし頭よしの上に守護者除けにもなる。これで安泰だな、ツナ。」

どこがだ、そんなプレゼントはいらない!と声を大にして叫んだつもりがどうやら落ちたらしい。
遺憾ながら広い腕に抱きこまれることに嫌悪感を感じることはなかった。








翌朝の目覚めは骸と雲雀さんの口喧嘩から始まった。
三叉槍とトンファーが叩き合う音で慌てて飛び起きる。

「ちょっと!何で人の部屋で戦闘始めるんですか!………あれ?」

ガバリと上掛けを跳ね上げてから自分が裸だということに気が付いた。次いで腰を抱く腕の存在にも。
ドキドキと煩い心音に急かされるように首を横に向け、腰に巻き付いている腕を辿ると片肘をついて、その上に顔をのせる大変楽しそうな表情のリボーンが寝転がっていた。

「ふおぉぉお…!何で、なんで真っ裸なんだよおぉぉ!」

「ボケんのも大概にしろよ。裸じゃなきゃできないことをしたからに決まってんだろ。」

シレっとした顔で言われ血管がぶち切れそうになった。
ありえない!ありえない!そう言い聞かせても胸や上掛けから覗く腰の際どいところにまでしっかりと赤い跡が残っていて、しかも段々思い出してもきた。
回されていた腕が腰を撫でるととんでもない声が出て慌てる。

「なっ!綱吉くん、本当の本当にアルコバレーノに喰われてしまったんですか?!」

「…君の最初は僕が貰ってあげようと思っていたのに……噛み殺すよ。」

恨みがましい4つの目がこちらを睨んでも、オレだって信じられない。
愛人は女しか持っていなかった上に、その気のある男にはまったく秋波を送られたこともなかったオレが男としちゃったなんて。身体は死ぬほどだるいけど、捲き付く腕に憎悪も湧かない。諦めたというより、違和感がないといった方が正しいような気がしている。

って、イヤイヤイヤ!そこは全力で否定しておかなければ!!

「そういえば、オレの初めてってなんのことですか?」

ぶんぶんと頭を振っていたオレは雲雀さんの妙な言葉に引っ掛かりを覚えた。
そう訊ねると、横に転がるリボーンも仁王立ちしていた雲雀さんもポーズを取っていた骸さえ呆れ顔になった。

「…鈍い鈍いとは思っていましたが、まさか気付いていなかったとは。」

処置なしといった頭を振るパイナップルに腹を立てていると、隣の雲雀さんすら白けたといわんばかりにトンファーを下ろす。

「初めてっていえば初めてだよ。処女とでも言えば分かりがいいのかい。」

「しょ…」

「まぁ童貞は卒業させてやったからいいだろう。大体初めてであんなにあんあん喘いでんだ、素養はあったってこった。よかったな、ツナ。」

「ちっ、ちっともよくねー!」

何バラしてんだスケベ親父!セクハラ家庭教師!
逆ギレとは知りながらも頭にきてベッドの上から逃げ出そうともがくと、すかさず骸が横に近寄りオレの手を握った。

「そんなサドッ気のある元家庭教師より僕にしませんか?優しくしてあげますよ。」

クフフフッ…と笑われて怖気が立った。手の平を指でなぞられて悲鳴を上げるとトンファーが飛んできて骸の居た場所に吸い込まれていく。
勿論すぐに避けた骸はオレの手を離すとまた三叉槍を構え始める。

「どきなよ南国果実。綱吉は僕のおもちゃだって言ってるだろう。」

「違います!ってか、何でオレが男と付き合わなきゃならないんですか!」

叫んでも聞いちゃいない。
どうすりゃいいんだ。

「だから言っただろう。オレが一番お買い得なんだぞ。守護者じゃねぇし、変態パイナップルからもストーカーな右腕からもバイオレンスなマイペース男からも守ってやれるぞ。つうかよく考えてみろ。オレ以外のヤツに突っ込まれてぇのか?」

訊ねられ思わず想像してしまってから眩暈を覚えて頭を抱える。
うん、ムリ。
こめかみを押さえながら横目でリボーンを覗くと答えが分かっているのか頷いていた。

「…お前ら以外っていう選択肢は、」

「「「ない。」」」

あれだけ気の合わない3人なのに返事がぴったり重なった。

「どうです、一度試してみませんか?」

「フン、試すまでもないよ。」

とまたも骸と雲雀さんが迫ってきた。
ムリったらムリ!
分かっている癖に助け舟を出す気はないらしいリボーンは無言のままこちらを見ているだけだ。
2人に腕を掴まれそうになって慌ててリボーンにしがみつく。

「すみません!オレ、リボーンがいいです!リボーン以外とする気はまっったくありません!」

この2人を相手にしたら死ぬことだけは確かだ。それくらいならまだリボーン1人の方がマシだと逃げ込む。
逃げ込んでから気が付いた。五十歩百歩だということに。
けれど一度出た言葉は戻らない。

思わずしがみ付いた先はリボーンの胸元でハタと気付いたオレが逃げ出す前に強い力で抱き締められた。
真っ裸ということは勿論下も履いてないということで、それはオレだけじゃない。
リボーンの中心が腹に当たってお元気なことを確認した。
ちっとも知りたくなかったが。

へたに動くと余計に元気になるような気がして動けなくなる。
それをいいことに肩を抱いた手が項を辿って生え際の境目に吸い付く。
ちくりとした痛みに声を殺すと後ろから歯軋りが聞こえてきた。

「綱吉くん!」

「…死にたいの?」

「ひぃぃい!ちょっ、まっ、リボーン!」

ボンゴレボスが守護者にやり殺されるなんて冗談じゃない。
助けて欲しいと切実に訴えると場面と不釣合いなほどイイ笑顔でのたまった。

「それならオレを貰い受けるんだな?返品は不可だぞ。」





こうして24歳の誕生日は世界一物騒で、世界一傍迷惑なプレゼントを受け取る羽目になった。




happy birthday?



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