1.これは一体どういう状況なのかと問われれば、多分オレの誕生日を祝うためだと答えるしかない。 けれど本当の本当にこれがオレへのご褒美だと思っているのならばお前は心底サドだと思う。いや、自己中を絵に描いたような性格なのは知ってたけどね。 10年前からオレとリボーンの誕生日はいつも一緒に執り行われていて、勿論今年も13日のリボーンの誕生日に合わせてバースディパーティが開かれていた。 ボスになったというのに、何だかリボーンのおまけみたいだとちょっと拗ねていると獄寺くんをはじめ、他の守護者からそれなら2人きりで過ごしませんか?と誘っては貰えた。 だけど部下にそこまで気を使って貰うのも悪いし、よくよく考えてみればオレはオレの誕生日くらい一人でのんびりしたかった。 なにせ個性豊かな守護者に加え、個性の範囲を逸脱している暗殺部隊に、言うことを聞かない父さん率いる門外顧問や元がつくアルコバレーノたちは好むと好まざると何故かボンゴレにかかわってくる。 総じて、オレの日常は喧騒と怒号と野郎どもに塗れているのだ。 そう誕生日ぐらい誰にも邪魔されず過ごす権利はあるんじゃないのか、と10年経った今やっと思い至った訳である。 そうと決まればその日を満喫するために仕事のスケジュールを都合し、明日は一人でローマを観光しようと計画を立てていた。 何せイタリアに渡伊して3年経つというのに、碌々観光らしい観光はさせて貰ってもいない。 かなり威光あるイタリアンマフィアだとは聞いていたが、想像以上の規模とそれに伴う重圧とをいきなり背負わされたオレはそんな暇など与えられなかった。 明日のひとりぶらり旅に心を弾ませていると、本日の主役がタキシードで登場した。 左右どころか壁のように女性をはべらす姿を見て、喉元まで出掛かった言葉を飲み込んだ。 ……何もいうまい。 「よう、おまけ。」 「おまっ、思ってても口には出さないっつー思いやりはないのか?!…まあいいや。明日があるから。んで、なんですかセンセイ。」 辺りの女性たちを退けてオレの首根を引っ掴むと人気のないバルコニーまで連れ出された。 途中、それに気が付いた獄寺くんがオレの後についてこようとしたのだが、それをリボーンは手で追い払うとバルコニーに居た数人まで追い出した。 2人きりになるのは本当に久しぶりで、そう言えばイタリアに渡ってからは常に誰かが居た状態だったことに気が付いた。 リボーンもオレの専属家庭教師から呪いを解いてフリーのヒットマンに戻ってしまったからでもある。 それでもことあるごとに助言や仕事を請け負ってくれているために、こうしてパーティも開かれるのだが。 人が居ては言い難い話でもあるのだろうかと、手摺りに背中を預けてリボーンの言葉を待った。 リボーンのようなタキシードではないが、この日のために仕立てたスーツは地味なオレらしくないアイボリーのそれで、どうやらリボーンが誂(あつら)えてくれたらしい。 「そう言えば、これありがとな。」 スーツの襟を摘んで言うとああと軽く頷いた。 「そいつは守護者どものプレゼントだぞ。オレは見立ててやっただけだ。礼ならあいつらに言ってやれ。」 「そうなの?」 そんなことは聞いていなかった。後でお礼をしようと考えていると目の前に手がにゅっと突き出された。 驚いてその手を辿ると勿論リボーンしかいない。 「…なんでしょうか?」 「プレゼントを寄越せ。」 「って、さっきワインやっただろ!」 「バカ言うな。あんなもんプレゼントの内に入るか。いつも仕事が終わるとてめぇにくれてやってんのと同じだぞ。」 リボーンは何故か依頼した仕事を終えるとワイン瓶を片手にふらりと現れて、すぐに消えてしまうことを今、思い出した。 何で忘れていたのかといえば、実はそれはオレの口に入る前に獄寺くんやら山本やら、果てはランボに飲まれてしまっていたからだ。 そんなことなど言えないオレは言葉に詰まってどうしようかとリボーンの顔を覗き込む。するとそれを見ていたリボーンは首を横に振って肩を竦めた。 「お子様舌のお前にワインは早すぎたみてぇだな。とりあえずランボは後で絞めるとして、何をくれる?」 「や、あの…」 祝う気持ちはあれど、如何せん10年だ。ネタもつきた。 どうしたものかと頭を悩ませていると、ネクタイを引っ掴まれて互いの顔を付き合わせる。 「明日、一日休みを取ったんだってな?それに付き合ってやるから代わりにきちんと寄越すんだぞ。」 「って、ええぇぇえ?!ちょ、待っ…オレの誕生日…!」 「そんなのツナが悪ぃ。それにてめぇ一人だと危なっかしいからな、護衛も兼ねて案内してやるぞ。それがオレからのプレゼントだ。」 「そんなプレゼントいらね…欲しいです!ありがたいです!!」 懐から銃を抜くなぁ!銃身を心臓に向けるんじゃない! そんな訳で、ぶらり一人旅が何故か先生同伴の修学旅行に変更になってしまった。 . |