リボツナ2 | ナノ



6.




リボーンにとってオレはどんな存在なんだろうかと気になったのは出会ってから4日も経った風呂場でのことだった。

白蘭さんから守ってやったのだからキスさせろ、じゃないと黒豹になっちまうと脅されて納得できないながらも拒否することも出来なかった。

父さんと母さんに見付からないように、勉強を見て貰うという名目で引き篭もった部屋での口付けは今まで交わしたそれより甘くてぎゅっと胸を締め付けられるような息苦しさに溺れてしまいそうで正直怖い。

リボーンとオレとの間には恋とか愛とかはない筈で、あるのはギブアンドテイクという互いにとって損はないが得にもならないという関係しか横たわってはいないのに。
それをどこか寂しいと思っている自分に気が付いた。

そんなバカなと否定したくてもそれも出来ずに苦しくなって、両手で掬い取った湯を幾度も顔に叩き付けた。
髪の毛までびしょ濡れになった状態で湯船からあがると、ガラリと浴室の扉が開いて先ほどまで考えていた張本人が現れた。
勿論真っ裸だ。

黒豹に変身してしまうせいでなのか、それとも元々羞恥心が足りないのか、リボーンは裸を見られることを恥ずかしいとは思っていないようで、前を隠すこともしないで近付いてくる。慌てたのはオレだ。

「ちょ、なんでオレが使ってるのに入ってくるんだよっ!」

踏み出しかけていた足を戻すと湯船に肩まで浸かる。すると近付いてきたリボーンが獣のように鼻をオレの頬に寄せてきてボソリと呟いた。

「…黒豹に戻っちまいそうなんだ。そうなっちまったら戻せるのはツナだけだからな。」

「へ?さっきしたばっかりなのに?」

オレとの口付けは女の人とのセックスに相当すると言っていたのにと目を丸くしてリボーンに視線をやると、その瞬間にいきなり暗い霧が現れてリボーンを黒豹へと変えてしまった。

「なんで…」

呆然と姿を変えてしまったリボーンを見ていると、表情のない筈の黒豹が不機嫌だと分かる顔でガォォと吠え掛かる。
バスタブに尻餅をついたまま黒豹の挙動を視線で追っていると、黒豹はオレの唇ではなくその下の顎から喉元、そして鎖骨を辿って湯船に半分ほど浸かっていた胸の先へと舌を這わせてきた。

「ちょっと、ヤメロよ!」

手で黒豹の耳と掴んでも湯ごと舐め取る音が止まらない。ピチャピチャと小さく響く音が耳朶を打つ度に湯に浸かっているせいではない熱がじわりと滲み出る。そこも感じるのだと最初のセックスで知ってしまってからは触れることもできないでいた。
ぷくりと膨れた乳首を突起のある舌先で押し潰されて声が上がった。

「んンン…っ!」

構わず舌で形に添うように舐められて、逃げ出すように背中をバスタブの向こうに押し付けると同じように黒豹も追ってきた。
へたに声を上げれば覗かれるかもしれない。必死に堪えようと唇を噛み締めても隙間から零れる声は押さえ切れなくて浴室に響いた。

弄られることで硬くしこりはじめたそこよりも、何も刺激を与えられていないのに立ち上がりはじめた中心を感じてひどく動揺した。
誤魔化そうと手で押えるともっと膨らんでしまい涙が零れる。

どうすればいいのかさえ分からずに黒豹の舌の動きに耐えているとざりっと下から舐め上げられて悲鳴が零れた。

「ひゃ…あっ!」

思いの外大きな声が出てしまって自分で驚いた。すると胸から顔をあげた黒豹が長い舌を薄く開いていた唇に差し込んできた。
人間のそれとは違う舌は口腔の粘膜をおうとつのある舌の表面で擦っていく。
痛いのにその奥にぞくっとするような快楽が湧き上がって舌で押し返そうともがくと力で押さえつけられた。

鼻から抜ける声に甘さが混じりだした頃には黒豹から人間へと元に戻ったリボーンが唾液を送り込むように唇を唇で塞いでいた。
ちゃぷん…という水音の後に肌を伝う手が下へと伸びて腹から期待に震える起立へと下っていく。

ちゃぷちゃぷと水が揺れる音とともに起立を擦り上げられて、苦しさとは別の衝動で息を吐いた。
塞がれていた唇から漏れた声にカッと熱くなっていると、リボーンの背中の向こうにある扉の前から父さんの声が掛かる。

「ツナ!なんかあったのか!?」

「な、んでもな、いっ…!」

覗かれたらアウトだと必死で言い繕うオレを無視して、リボーンはその手を緩めてはくれない。唇から移動したリボーンの舌は弄ぶように耳に甘噛みを繰り返す。
思わずんふっ!と声が零れ、慌てて口を手で押えた。

「バーカ、家光はとっくに出ていってんぞ?」

「っつ!」

呼吸も出来ずにいたオレはその一言でやっと手を外すと息を吸い込むことができた。
意識がはっきりしたことでリボーンが戻っていたことにやっと気付く。

「はっ…はぁ…も、いいだろ?戻ったんなら手、離してよ…」

起立を握ったままの腕に手を掛けて押し返してもビクともしない。どころか扱く力を込められてビクビクと身体が跳ねた。
耳朶にかかる息の熱さに浮かされて、押し返していた筈の手がリボーンの腕に縋り付いていた。

空いている方の腕で引き寄せられ、自由に動くリボーンの手がどんどん膨らんでいく起立を追い立てる。
ぬめりを帯びた先をぎゅっと弄られて思わずリボーンの肩に手を伸ばしてしがみ付く。
湯船が激しい音を立てると頭の中が真っ白になって気が付けば白濁を放っていた。

リボーンの肩から手が外れるとずるずるとバスタブに沈み込む。
それを見ていたリボーンがやっと気付いたというようにオレの顔色を覗き込むと、慌ててオレを湯船から掬い上げた。

「湯あたりを起こしてんのか?しょうがねぇな…」

「誰のせいだよっ…!」

くらくらするせいで力なく罵倒するもリボーンには馬耳東風だった。いや豹耳東風か?
白蘭さんにイタズラされたせいで、最初にオレにかけられていたようなオレが女の子に見えたのだろうかと思いつつも、オレを難なく抱きかかえる腕に安心していつしか意識を手放していた。










ジリジリと焼かれるような視線を感じて振り返ると、遠くからリボーンがこちらを見ていた。
学校に教師として現れてから1週間が経ち、やっと女の子たちがオレがリボーンの情報を持っていないと認識しはじめた頃、ふとした瞬間に気付いた。

学校の行き帰りを一緒にしなければならないが、それ以外は近寄って欲しくないと言うと少し不機嫌になったが頷いてくれた。
近寄らなくなって平穏が訪れたのに少し寂しいなんて勝手なことを思いながら。

背中に感じた視線を辿ると授業の手を止めて、または移動の途中、学食の窓側からこちらを眺めている。
眺めていたことに自分で気付かなかったのか、オレと視線が合うとハッとしたように慌てて顔を背けるリボーンに最初は変なヤツだと思って気にも留めていなかった。だけど一度気付いてしまうと意識してしまって今は振り返ることも出来なくなった。

今も少し離れた場所から眺めているのか、オレの肩に手を掛けている山本の腕の辺りに視線を送るリボーンはやっぱり今も無意識なんだろうか。
あれからキスは幾度も繰り返していたけれど、それ以上の接触は互いに避けていた。
本当はキスもしたくはない。リボーンにしてみれば黒豹から人間に戻るための行為だとしても、オレはそこまで割り切れない。割り切れない感情がどこからきているのか知りたくなくて振りかえることが出来なくなっていた。

山本の話に相槌を打ちながらも意識は他へと向いていると、肩に手を掛けている山本がこっそり耳打ちしてきた。

「…気付いてるか、ツナ。後ろからツナの先生がおっかねぇ視線をオレに送ってきてること。」

「っ…!知らな、」

「さすがに分かってんのな。結構おもしれーよ。こうやって近付くと…」

言いながら山本の息がオレの耳朶にかかると身体が強張る。山本は友だちでリボーンみたいに誰でもいいケダモノじゃないと分かっていても、リボーンや白蘭さんのような人種にばかり慣らされたせいで身体が勝手に反応してしまう。するとオレと山本の間にあるわずかな隙間に何かが飛んできた。

飛んでいった先を見れば木の枝が砕けていて、慌てて飛んできたと思われる方向を振り返るとリボーンが懐に何かをしまいこんでいるところだった。

「次やったら命はねーぞ、ってことかな?」

「…ごめん、」

オレが謝るのもおかしな話だが、一応ヤツの関係者でもあるのでそう詫びる。すると山本は目を見開いてそれから苦笑いを浮かべた。

「自覚あるんだかないんだか。」

「?」

「邪魔してやろうと思ったけど、このままほっとく方がおもしれーかもしれないのな!」

と爽やかに言い切られても意味が分からない。
山本の顔をじっと見ているとまたも銃弾がオレの真横を横切っていった。


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