リボツナ2 | ナノ



5.




ハンターになることを強制的に決められて、しかも強姦魔がその家庭教師役に名乗りをあげたせいで狼との同居が決定してしまった。何、黒豹だって?獣であるのは確かだけど中身は狼で充分だと思う。
いくら自分が戻りたいからといって親の目の前でねっちょりキスされたこっちの身にもなってみろ。父さんはヤツに説教を始めたけれど男はちっこも堪えてないし、母さんは素敵な彼氏が出来てよかったわねなんて呑気に頬を染める有様だ。
イヤイヤイヤ、オレ男だから!彼氏じゃなくて彼女が欲しい年頃なんだけど!




なんてことを友人たちに愚痴っている最中だった。
勿論黒豹にヤられちゃったことは省いて、偉そうで何様でセクハラをする男がオレの家庭教師になったのだということだけを身振り手振りで伝える。
するとそれを聞いた獄寺くんと山本は目を剥いてオレににじり寄ってきた。

「ぬあぁぁあ!オレの沢田さんになんてことを!果たしてきましょうか?!」

「イヤイヤイヤ!君のじゃないから!」

「だよな!ツナはオレのだもんな!」

「山本まで!…もうやめてよ。後ろから前から女の子たちの視線が痛くなってきたよ…オレ次の休み時間呼び出しかも。」

見た目は銀髪の王子様のような獄寺くんと、校内のヒーロー山本の親友だというだけで女の子たちからやっかまれているというのに、今の発言は頂けなかった。
そんな女の子たちの視線もついでにオレの突っ込みも気にせず、山本はぐいっとオレの肩を引き寄せた。途端にぎゃあ!と悲鳴があがる。

「ちょ、やめて…」

逃げ出そうともがいていると間を裂くように声が掛かった。

「イタズラが過ぎるぞ、少年。」

ペシ!という音がオレの肩辺りで響いて、でもオレは痛みを感じずになにが起きたのかと驚いて辺りを見回せば隣の山本が手を押えていた。
それからその手を叩いたであろう凶器…教師用の木の定規を視界の端に入れて慌ててそれを辿っていくと。

「んなっ?!!なんでおまっ…」

「チャオ。一時間ぶりだな。」

強姦黒豹男ことリボーンだった。
スラリと長い手足を覆うスーツは昨日とは違い、濃い目のグレーのそれだった。
手にしている定規といい分かりやすいくらいキャラを作っているスーツといい、嫌な予感をヒシヒシと感じながらも恐る恐る訊ねてみる。

「…なんでここにいるの?」

「決まってんだろ。この格好、この小道具、どれをとっても教師に見えねぇか?」

見える。見えるが聞きたいのはそこじゃない。
どこに突っ込みを入れようかと口をパクパクさせていると、隣で山本が叩かれたてを擦りながらリボーンに話しかけた。

「ちわ!オレ山本武っス!あんたはツナの『カテキョー』で間違いないんすか?」

若干の言葉の棘を感じてオヤと思った。誰とでも仲良くなってしまう山本がこんなに険を含む言い方をするのは珍しい。突然現れて手を叩かれたことに腹を立てているのだろうか。
そんな山本の問いにフッと余裕の笑みを浮かべるとあっさりそうだぞと白状してしまう。
するとリボーンの見た目に引き寄せられにじり寄ってきていた女の子たちが金切り声をあげた。

「なんで沢田ばっかり!」

「ダメツナの癖にイイ男ばっか侍らせてんじゃないわよ!」

「それオレのせいじゃないよ?!」

そもそもオレも男だからどんなにイイ男でも嬉しくもなんともないのだ。どうせなら可愛い女の子がいいと思うぐらいには普通の男のつもりだ。
だというのにぎゃいぎゃい煩い女の子たちに詰られていると、オレの前に近寄ってきていたリボーンが辺りの女の子たち、それから興味を惹かれて遠巻きにこちらを眺めている男子生徒たちをぐるっと一瞥してからにっこりと微笑んだ。

「チャオっす!これから数学教師を務めることになったリボーンだぞ。この沢田の家に居候しているから分からないことがあればどんどん聞いてこいよ。」

とオレを引き摺り寄せてそう宣言してしまった。
必然的にクラスメイトにまでこの男との同居がバレてしまったのだが、リボーンは悪びれることなく嘘臭い笑顔で取り囲む女の子たちの質問に答えていた。

「…離してくれよっ!」

「ムリだぞ。これからはここでもセットだ。嬉しいか?」

「悪夢だ…」

分かっている癖にそう訊ねる男の顔をぶん殴ってやりたかったが、ハンターの上に黒豹でもあるリボーンの身のこなしには隙がない。
担任が現れるまでの間、ギラギラした目の女の子たちに囲まれながら過ごす羽目となった。











放課後になってやっと開放されたオレは山本の練習を覗いてから家路に着いた。
ほとんど獄寺くんが女の子たちを蹴散らしてくれたからよかったものの、どの子もリボーンのプライベートをオレから聞き出そうと必死になっていてホトホト困っていたのだ。

教えてやれるほど知っていることなどありはしない。本来はハンターであることと、物の怪の呪いのせいで黒豹に姿を変えられることだけしか知らないのだから。
ケチだの独占禁止法に引っ掛かるだのという訳の分からない言い掛かりをつけられても知らないものは知らないのだ。
明日もきっと同じ目に合うんだと暗澹となりながらも重い足を引き摺って歩いていくとつい愚痴が零れた。

「もうヤだ…」

「なにが嫌なの?綱吉くん。」

「うわぁ!な、な、なんで白蘭さんが?」

「やだなぁ…また会いに来るよって言ったじゃない。」

そうだけど、そうじゃなかった。
重力のないような足取りで真横まで迫ってきていた白蘭さんに慌てて逃げの体勢を見せる。けれどそんなオレを気にした様子もなくにっこりと微笑まれた。

白狐である白蘭さんはかなり力の強い物の怪なのだそうだ。リボーン曰く「最強の陰険白狐」だそうだけど、物の怪の世界ではかなり大物らしい。
そしてその白蘭さんをあと一歩というところまで追い詰めたリボーンも相当凄腕のハンターだという話だった。
ハンターとしては上級の父さんをもってしてそう言わしめるのだから本当だろう。
…性格と性癖はともかく。

そんなリボーンと父さん、母さんの施した守りの術はなまなかな物の怪では近付くことさえできない代物だという話だった。
なのに白蘭さんは平気な顔をして隣に居座っている。

「…平気なんですか?」

「んー?術のこと?そりゃあ結構頑張ってるなとは思うけどね。」

全然効いていないらしい。
ダラダラと脇から嫌な汗が出て、どうやってこの場から逃れようかとばかりに神経が集中していた。
その隙をついて白蘭さんがオレの後ろに回り込む。背後からふうっと息を吹きかけられてぞわぞわっと這いあがった感覚に覚えがあった。

「なーんでリボーンくんが君に付きっきりになったんだと思う?」

声も違う、口調も違う、息遣いも後ろから感じる体温さえ違うというのにあの時と同じように、いやそれ以上の何かが身体の奥から湧きあがってきていた。
逃げ出せなくなったオレの肩を引き寄せて後ろから抱きかかえるように身体を拘束される。
ぴったりとオレの頬に頬を張り付けた白蘭さんは、オレの身体を制服の上からなぞるようにゆっくりと腕の力を強めて囲いを狭めていく。

「未通のままなら僕でも手が出せなかったんだけど、彼が綱吉くんの中で精を放ってくれたから触ることも犯すことも出来るようになったんだよ。ほら、こうやって…」

制服の上から起立を掴まれて自分の変化に驚く。自分の意思とは関係なく起ち上がっていくそれを感じてぞっとした。
リボーンが言うには普通の人間ではどうすることも出来ずにただ精を吸い取られるのだと、そういう物の怪なのだということだった。頻発する少女失踪事件の犯人だとすればそれも頷ける。

白蘭さんの手が動く度に湧き上がる衝動と浮かされたように熱を持つ下肢とに裏切られた気分で震えているとクスクスと笑い出した。

「すごいね、頑張るんだ?それとも彼に操立てでもしてるのかな?」

「違う!」

それだけはない。
あんな女なら誰でもよくて、手が早くて、自分勝手な強姦魔なんかに操なんて立てるもんか。
今だって一緒に帰るぞなんて言っていたくせに、女の子たちや果ては女教師や事務員のおばさんにまで捕まってオレを放っているヤツなんかに。

言われて一瞬だけムカつきが勝ったが、それもすぐに淫靡な手の動きに押さえ込まれてしまう。
太腿の内側をズボンの上からなぞられただけで中心がぐんと起ち上がったことを自覚した。
首筋から生え際にちゅっちゅと幾度も吸いつかれて力が抜けていく。
下肢を撫でている手とは逆の手が制服のジャケットのボタンを外してシャツの上からまさぐりはじめたところで頭の上をガウン!という音と空気を押し退ける気配が通り過ぎていった。

「遅いよ、リボーンくん♪」

「待たせたな。」

余裕綽々の声を聞いてカッときたが、よく見れば汗まみれの上に余程引きとめられたのかネクタイが妙な方向に曲がっていた。オレを探して慌てて駆けつけてくれたのかと少し思ったが、よく考えてみればそれはないだろう。
白蘭さんの気配を感じて駆けつけたというのが正解だと思った。

そんなリボーンは曲がったネクタイを解くと手にした銃を白蘭さんに合わせたまま近付いてくる。リボーンと一定の距離を保ちながら白蘭さんはオレから手を離すと森の奥へと逃げ出していった。
どうやら今オレをどうこうする気はなかったらしい。
やっと開放されたオレは地面に膝をついてへたりこんだ。そこにリボーンが駆け寄ると腕を引っ張られて上から怒鳴りつけられた。

「馬鹿野郎っ!待っとけって言ったぞ!」

「うるさいな!ほっとけよ!!」

怒鳴られるのはもっともで、だけど素直にごめんとは言えなかった。
自分が気を確かに持っていれば平気だとタカを括っていたことが分かったのに、まともに顔を見れずに苛々したまま怒鳴り返した。
ぐいっと胸倉を掴まれて殴られるのかと身を竦めると、そのままリボーンの胸まで引き寄せられて強い力で抱きすくめられた。

「な、に…す、」

「うるせぇ。しばらく黙っとけ。」

自分勝手な言葉に腹が立つよりも、心底心配したのだと雄弁に語る腕にドキンドキンと妙な具合に心臓が動き始めた。

白蘭さんの術はリボーンの銃弾で撃ち払った筈で、それだけ強力な弾だからこそ撃たれることを警戒した白蘭さんは銃が当たることを極端に嫌って距離を保っているのだから。

だとしたらこれは何だ。
知りたいような、知りたくないような不思議な気持ちのまま逃げ出すこともできずにリボーンのジャケットの裾にしがみ付いた。

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