リボツナ2 | ナノ



3.




黒豹が人間に戻るなんてことはない。
そう言い聞かせて、この身体の痛みも、牙で齧られた痕も、地面にこすりりつけられて擦った肌のかさぶたも、全部ぜんぶ夢なんだと二度とないから忘れてしまえと思っていたのに。

校門を出て獄寺くんと別れ、あの道をまだ日が高いから大丈夫だと確信しながら歩いていたら。

「…ここで待っていれば来ると思ったぞ。」

なんて涼しい顔であの強姦魔こと存在自体が犯罪だという男が目の前に突然現れた。今日は裸ではなく黒いスーツ姿だが。
なんてそんなことどうでもいい。
木々の間を縫うように飛び出てきた男の顔を忘れる筈もなく、ギャー!!と叫ぶと慌てて逃げ出した。

「悪霊退散ー!」

「誰が悪霊だ、誰が。こんなイイ男を捕まえて失礼だぞ。」

勿論鈍臭いオレと、豹のような身のこなしの男とでは差は歴然としていた。
後ろからがばっと抱きつかれ、あの恐怖が蘇って身体が硬直したところを引き寄せられた。
獣のように鼻を首筋に押し付け、オレの肌の匂いを嗅いでいる。

「な、なんだよっ!」

強がってはみたものの声は裏返っている。また犯されるんじゃないのかと怯えていると、匂いを嗅いでいた場所をペロリと舐められた。

「ひぃぃい!」

「うるせぇぞ、ツナ。ヤりゃしねぇから大人しくしとけ。」

そう言いながらも男の手はしっかりオレの腰に巻き付いて離れない。
ジタバタともがいていると、ふむと頷いて納得した男がオレの首筋から顔を上げると今度は耳に齧りつきながら呟いた。

「おまえ、ハンターの家系だろ?なのに聖なる処女の匂いもする…おかしなヤツだな。」

「おかしいのはあんただよ!確かに父さんはハンターだけど聖なるしょ…ってなんだよ!」

しかもオレは男だ処女の訳もない。なのに納得していない男はオレの耳をハムハムと食みながら今度は服の中にまで手を突っ込んできた。

「バッ…どこに手いれてるんだよ!」

制服のシャツの中に大きな手を入れられて胸をまさぐられる。ない膨らみを確かめるような手の動きにぞわぞわっと背筋が冷たくなった。

「…胸もねぇしな。こっちもついてる。…おまえ何者だ?」

「知らなっ、」

胸を撫でていた手が下肢に降りてきてズボンの上からぎゅっと握られた。恐怖で縮みあがっていたそこを掴まれて痛さに身体を強張らせていると後ろから声がかかった。

「あれー?なにしてるのかな、綱吉くん。」

状況に似つかわしくない呑気な声には覚えがあった。たまにこの道で行き会う白蘭さんだ。
突然の声に男の力が緩んだ隙に腕から逃げ出すと白蘭さんの方に駆け寄った。

「んー?どうしたの?なーんか訳あり?」

「知りません!こんな変態と知り合いなんかじゃありませんから!」

言いながらも白蘭さんの背中に逃げ込むと男はぎょっとした顔でオレと白蘭さんの顔をマジマジと見詰めている。

「誰が変態だ。つーか…白蘭と知り合いなのか?」

何を驚いているのか、男は白蘭さんを指差しながらそう叫んだ。
それに少し躊躇いながらも頷く。知り合いというほどでもないが、知らない人という訳でもない。

人里離れたこの森の横を通るこの道で、白蘭さんと出会ったのはオレが中学に上がるという春先の話だ。
初めて自転車で通学することになったオレは新品の自転車が嬉しくてこの道で通学の練習をしていた。恥ずかしながら小学5年生になるまで自転車もまともに乗れなかったからだ。

雨上がりの3月のある日、必死に自転車の練習をしていたオレの目の前に白いなにかが横切った。イタチかテンか、とにかく山に住む生き物だろうと思うのだがよく分からずにそれでも自転車で轢いてしまうのは可哀想で慌ててハンドルを横に切った。
切ったはいいが今だ練習中だったオレは上手に避けることも出来ずに自転車から転がり落ちた。転びどころが悪かったオレは自転車の下敷きになりながら呻いていたのだ。

その時に現れたのは白蘭さんだった。
見たこともない真っ白い髪、頬には変わった模様が入っていて、着ている服もなんだか個性的でびっくりしたものだ。
そんな白蘭さんが「大丈夫かい?」とオレに手を差し伸べてきたのが出会い。

それからこの森で養生しているのだという白蘭さんと度々この道ですれ違うことがあったのだと男に告げると、男は形のいい眉を顰めてオレの前にいる白蘭さんを睨みつけた。

「てめぇを取り逃がしてからずっと、どこに隠れたのかと探していりゃあまさかこんなところで餌まで調達して力を蓄えていたなんてな…しかもツナっていう極上の餌まで目星をつけて。」

「嫌だな、リボーンくん。餌だなんて思ってないよ。君と一緒じゃない、彼女たちからほんの少し力を貰っただけだよ。」

男の言葉を肯定する白蘭さんに驚いて顔を覗き込むと人間とは思えない表情でにんまりと笑いかけてきた。
慌てて掴んでいた手を離すと2人から距離を置く。
そんなオレの行動など気にした様子もない白蘭さんはブルブルっと身震いすると後ろから白くて立派な狐の尻尾を取り出した。途端に白蘭さんの周りに燐光が漂う。

明らかに人ではない白蘭さんに開いた口が塞がらないでいると、不機嫌な様子を隠さない男が懐に手を入れて切れそうな視線を益々鋭くして白蘭さんを睨みつけた。

「ねぇ、綱吉くんは美味しかった?今までハンターと聖女の守りで手が出せなかったんだけど、君のお陰でそれも破られたしこれからは遠慮なく誘惑してあげるよ。」

「チッ、させるか。」

言葉より早く抜き去った銃で白蘭さんに発砲したというのに、その場所に白蘭さんの姿はなかった。
どこにいったのかとキョロキョロしていると、突然後ろから顎を掴まれてぐいっと後ろに引かれて口を塞がれた。
ぬるっとしたものが唇に這ったところでまたガンッ!という発砲音が響き渡り、唇と顎から気配が去ると慌てた様子で男がオレに駆け寄ってくるところだった。

「ふふふっ…またね、綱吉くん。」

燐光の名残を残したままふわりと森の闇に消えた白蘭さんの後ろ姿をただ呆然と眺めることしかできなかった。











送ってやると言い出した男を連れて家に辿り着いたのはそろそろ夕飯の時間になるという頃だった。
帰る道すがら男から聞いた話に心底逃げ出したいと思った。
どうしてオレが。
それが偽らざる心情だ。

分かったのはこの横にいる男は白蘭さんに黒豹になる呪いをかけられていたということ。つまり白蘭さんが男の追っている物の怪だということだ。
そして何故かその白蘭さんの次のターゲットがオレらしい。

「いいか、ツナ。一人には絶対なるなよ。それからもう一度守りの術を掛けて貰え。オレがお前をヤっちまったから効力としては弱くなるだろうが、それでもないよりずっといい。」

「って、あんたのせいじゃないか!そもそもその術ってヤツは誰が掛けたのか知らないよ!」

はっきり言って冗談だと笑い飛ばしてしまいたい気分だ。だけど横にいる男が黒豹だったというのは身を持って知っているし、白蘭さんが物の怪だというのも頷ける話だった。
よくよく思い返してみれば白蘭さんの言動は怪しすぎた。
そしてそれはこの黒尽くめの男にも言える。

言い返しながらもオレより随分上にある顔をキッと睨むとそれを見て男は悩ましげに顔を顰めた。

「まだ白蘭の術が掛かってんのか?それともこれが聖女の効力なのか…?」

「訳わかんないこと言ってないでよ!」

やたらと距離を詰めてくる男から逃げるように一歩前に進むと、その後を守るようについて男はきた。白蘭さんに何をされるのか分からないけど、こいつがオレにしたことほど酷くないんじゃないのかと思う。
初体験が男…とういか獣というのもかなり酷い話だ。しかも女と間違えられてだなんて滅多にいないだろう。

ともかくこいつには気を許してはならないと思いながらも森の横にある我が家へと辿り着いた。
月明かりしかない森に一軒だけぽつんと建つ小さい家には母さんとオレ、そしてハンターである父さんの3人暮らしだった。
ハンターの仕事を請け負っている父さんは物の怪の退治を得意としていて人に害を成す物の怪だけを専門に退治していた。

「ただいまー…」

「今日は少し遅かったわね。…あら?そちらはどなたかしら?」

玄関で声をかけるとすぐに母さんが顔を出す。その母さんがオレの後ろにいる男の存在に気が付いてそう声を掛けてきた。
どう説明すればいいのかと思わず悩んでいると、男はその場で膝を折って手をついた。

「知らずとはいえご無礼を。あなたのご高名は一介のハンターに過ぎない私でもよく存じております、聖女奈々。」

「……せいじょ…?って、ええぇぇええ!!?母さん聖女だったの!」

「やあねぇ、昔の話よ?今はただのツナのお母さんだもの。」

だからそんなにかしこまらないでね?と笑う母さんの顔はいつもの優しい表情だった。


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