リボツナ2 | ナノ



1.




報告をつぐむ度にサラサラと揺れる赤毛の艶やかなロングヘアーは出会ってから10年経った今でもビアンキのトレードマークとして変わらずその存在を示している。
いつでも女性としての心遣いを忘れない彼女は、主張するところは決して曲げないのに押し付けがましくはない。
だからこそ『彼』の愛人を10年以上も続けていられるのだろう。

以前のような禍々しい美しさはなりを潜め、今では随分と大人しくなった代わりに内面的にも熟成された大人の美をその面に滲ませていた。

自分はどうだろうか。
突然現れた赤子は実はとんでもない存在で、気が付けばマフィアのボスに祭り上げられていた。
嫌だ、出来ないと叫んでいた頃と今も何ら変わっていないような気がする。

ビアンキの潜入調査の報告を聞きながら、つい漏れたため息にどうしたの?と心配げに報告書から顔を上げたビアンキに苦笑いを返す。

「何でもないんだ。ただ、ビアンキは綺麗になったな…って、」

「いやだ、当たり前じゃない。明日はバレンタインなのよ。半年振りに会う愛しい人に、最高の自分と最高のチョコレートを届けるために戻ってきたんだから!」

道理で報告が少し乱雑な訳だ。それでも欲しい情報はきちんと押えているから文句も言えない。
そういえば、明日には『彼』も報告に立ち寄ると言っていた。ビアンキのことだ、待ち伏せるのだろう。
苦笑いを深くして分かったよと頷く。
ビアンキの恋路の邪魔だけはしないに限るのだから。

それにズキリと痛んで苦しくなった胸からようよう小さく息を吐くと、それを見たビアンキが綺麗なラインを描く眉を寄せて顔を近付けてきた。
白人特有の白い肌、女性特有の繊細な美貌に思わず羨望する。
オレが女だったら、少しは違っただろうか?

そう考えた矢先にいいやと否定が胸の奥から零れる。
変わりはないだろう。
ビアンキは『愛人』で、オレは『生徒』だ。
性別は関係ない。
だけどその関係が終わりを告げた今、オレの性別が違っていれば少しは変えられただろうか。

仮定を論じる虚しさを嫌というほど『彼』に叩き込まれたのに、ついそんな考えが浮かんでしまうほど疲れているらしい。
今を見据えなければ、先を見通すことなどできないのだと言って笑った顔は赤子から呪いが解けた今も変わりはない。
よく考えれば昔から『彼』ほど見た目は変わったのに、中身が変わらない存在というのも珍しい。
それは一貫した自己があるからに違いなく、そんなところが愛おしいのだとビアンキはいつも惚気ていた。

「ツナ…?」

「何でもないよ、大丈夫。少し疲れたみたいだから、ちょっと休憩してくるよ…」

仲間を心配するビアンキの視線に耐え切れず、逃げ出すように執務室を後にした。
バタン、と重い音を立てて閉じられた扉を背に扉の前を守る構成員たちに少し歩いてくるよと言伝てて長い廊下を歩き出した。










一人になりたい時にはバラ園の奥の、すこし小高い丘を下った原っぱに腰を下ろす。
空を見上げる機会など年にそうありはしない。
抗争、調停、会合とその合間には各地の諜報員の報告を聞き、それに指示を出す。
ここ10年ですっかりマフィアに染まった自分の時間は、けれど中身までは変えることは出来なかった。

相変わらずのダメツナは健在でも今では他人に見られないよう仮面をつける癖が身に着いている。
それを外すしてゴロリと寝転がった。

今日は幸いなことに口煩い右腕は不在だ。オレ以外では彼しか判断のできない仕事だからと送り出した時にバレンタインには必ずお送りしますから!と涙ながらに訴えていた。
今年もバラの花束が届くのだろう。そして何故か山本からは白百合が届く。
女の子じゃないんだから花束はちょっとと言っても、2人ともそれが一番贈りたいものだからと言って聞かないのだ。

右腕からも親友からも大事にされている自覚はある。それは危ない方向なのかもしれないが、オレと違ってまだ口で言うだけだったり、形で現すだけだ。押し付けがましくはなく、オレを尊重してくれる彼らにいつも救われている。

「あーあ、女に生まれてればよかったのになぁ…」

なんて思わず呟いていた。

「なら女になってみるか?」

とあらぬ方向から声を掛けられて驚いて起き上がる。
するとそこには滅多にお目にかかることのできない、幻の緑のアルコバレーノがボサボサ頭にずり落ちた眼鏡をくいっと上げながら近付いてきた。


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