リボツナ2 | ナノ



1.




ナミモリの近くには広い森がある。
山間の小さな村の奥にひっそりと存在するその森は忌み森とも言われ、近隣の村や町では恐れられていた。
深く生い茂った木々の気味の悪さにではない、そこには人ならざるモノがいるのだという噂だ。
けれど不思議なことにナミモリの住人には悪さをしない。
代わりに年に一度、一人の少女が森へと消えていく。
住人たちがどこをどう探しても見付からないその少女は、一ヶ月後にひょっこり姿を現して以前と変わらぬ生活へと戻っていく。
その間の記憶はないのだと皆一様に口を揃えるのだが、どの少女も以前よりずっと綺麗になっていった。
一ヶ月だけの神隠しなのか、はたまた物の怪のいたずらなのか。
それは今でも分かっていない。

ここはそんな不思議な森のお話。

















綱吉は今年15歳になったばかりの少年だ。
ふわふわと纏まりのない髪の毛は瞳と同じミルクチョコレートを溶かしたような色をしている。
小作りな顔に不似合いなほど大きな瞳が今はキョロキョロとせわしなく辺りを窺っていた。

時は夕暮れから宵へと移り変わる時刻。
赤々と最後の明かりを写していた夕日が山の奥へと吸い込まれ、そのまた奥へと落ちきってしばらく経った頃。

友だちの山本の試合を延長線まで付き合ったせいでこんな時間の帰宅となった。
山本は綱吉のヒーローで親友だ。野球をやらせれば誰よりも上手い彼の友人でいることは本当に誇らしいと思っている。
そんな山本のお願いを無碍にできなかった綱吉は半泣き状態でこのナミモリの森の脇を駆け抜けていた。

どんなに必死に走ってもクラスで一番ビリの綱吉のこと、次第にスピードは落ちていきついには歩きとさほど変わらない歩調へとダウンしてしまった。
綱吉の家はこのナミモリの森の横を抜けなければ帰ることができない。
この森の物の怪はナミモリの住人には悪さをしないが、物の怪はしょせん物の怪である。正直怖いというのが綱吉の偽らざる心境であった。

それでも、ずっと学校から走り通しだった綱吉は疲れに負けて少しだけ休もうと足を止めた。
それが始まり。
どんなに後悔をしても遅いのだと、人生の不条理を嘆く羽目になる第一歩だった。


辺りは暗闇に染まり、外灯のないこのナミモリの森の脇では月明かりだけが頼りだ。
月明かりのない時はライトで照らさないと足元も覚束ない。
そんな深遠の闇に包まれている森の奥からガサゴソと音が聞こえてきた。
よくいる森の動物のどれだと耳を澄ませるとタヌキやイタチより草を踏み締める音が重い。

ドキドキと激しくなる鼓動を浅い呼吸で鎮め、そっとそちらを向く。
きっと怖がりの綱吉は聞き間違えただけだと、それを確かめるために。
ゆっくりと振り返った先には白い薄ぼんやりとした何かが低い木々の間から姿を現したところだった。

「ひっ…!」

怖さに悲鳴も上げられない。
幽霊かはたまた物の怪か。
恐怖で閉じることもできない視界の先に飛び込んできたのは、白いふさふさの尻尾がとても綺麗な狐だった。

「き、つね…」

ホッとして思わず呟いた声が聞こえたのか、その白い狐は綱吉をじっと見詰めている。
不思議な色を宿した狐の瞳に逆らえず、吸い込まれるように見詰め返したその先で狐がニタリと笑ったような気がした。
これは物の怪の類だったのかと驚きに見開いた瞳の先で燐光を伴った狐がふわりと浮かび上がる。

夜空をバックに浮かんだ白狐は綱吉の周りを音もなくくるりと一周まわり、それからふいっと突然姿を消した。
まるで夢だったというように。

呆然と狐が消えた森の奥を眺めていると、カクンと足が崩れて地面に座り込んでしまった。
狐の気に中てられてしまったのかもしれない。
今更のようにガクガク震える膝を掴んで、それでも立ち上がろうと足に力を入れていると今度は別の方向からサッと影が現れた。

「なんだ、豹か………………って、ええぇぇぇえ!!?」

幽霊狐(?)に化かされた気持ち悪さにうっかり実体のある動物だというだけでよかったと思いそうになった綱吉は、目の前に現れた動物が本来この森にいる筈のないいきものだということを忘れそうになっていた。
そう、本来豹などこの森にはいない。だというのに何故ここにいるのか。

狐のせいで腰を抜かしていた綱吉に黒い豹は音も立てずにゆっくりと近付いてくる。
黒い瞳はまるで自身を映す鏡のように何の感情も浮かんではいない。
生い茂った木々をすり抜け、人が通うことでかろうじて道のようになっただけという道の真ん中で腰を抜かしている綱吉の前まできた黒豹はふんふんと綱吉の匂いを嗅ぐように喉元に鼻を寄せてきた。

ぐるぐるという低く唸る喉の音、それに目の前に迫る口許からわずかに覗く牙が本物の獣だと知れる。
得体の知れない恐怖ではなく、生命の危機に瀕していることに震えが止まらない。
喉元を一噛みされただけで死んでしまうのだからもっともだろう。

喉元の匂いを嗅いでいた黒豹はもっとだというように綱吉に身体を寄せ、しまいには乗り上げてきた。
逃げ出すという気すら失せてただ目の前の黒豹の興味が逸れてくれますようにとそれだけ祈る。
地面の上に寝転がり、恐怖に瞳を見開いたままで黒豹の口の行方を辿っていた綱吉の洋服の襟の匂いを嗅いでいた黒豹は、その鼻面を襟の奥へと押し込んで綱吉の肌の上にその濡れた鼻を押し付けた。

見たこともないほど大きな黒豹だった。
けれど豹らしく音を立てない歩みと、鋭利に尖った牙は正真正銘の獣の証だ。
この大きさならば綱吉くらいの人間を食べるとしても不思議ではない。
そう思うともうダメだと涙が浮かんできた。

「ひっ、ひぅ…っ…」

こんなところで黒豹に食べられて人生が終わるのかと情けなくも浮かべた涙がボロボロと零れ落ちる。
すると洋服の襟に鼻を押し込んでいた豹がその長い舌で綱吉の鎖骨をザリザリと舐め始めた。
執拗に幾度も鎖骨と首筋を行き来する舌は、綱吉の肌の味を確かめるように撫で付けていく。
猫の舌のように櫛のような突起のある舌でのそれは人間である綱吉には酷く痛かった。

それでも動いたら動脈を食い千切られるかもしれないとその痛みに耐え、ぎゅっと瞼を閉じた。
動かない綱吉に何を思ったのか黒豹は顔を上げて今度は服の上を鼻で辿っていく。
フンフンと鼻息荒く辿った先は洋服の裾で、そこに鼻を擦りつけたり咥えたりを繰り返していた黒豹はもどかしそうに鼻を服の中に押し込めるとそのまま下着の中にまで潜り込んできた。

柔らかい腹の皮膚を濡らしながらもっと奥へと入り込んでいく。
黒豹の鼻が何かを見つけてピタリと止まった。
胸などに何の用があるというのかそこで鼻を止めた黒豹は思いもかけない場所に舌を這わせてきた。

「ヒッ…!」

ただでさえ発育不良だと言われている綱吉のあばら骨の浮いている胸板の、一番先にある小さな突起。
身体に見合った小ぶりなそれは勿論誰にも触らせたことなどないし、自分でも触る場所ではない。
唯一風呂で身体を流す際に申し訳程度にタオルで擦るくらいだ。
それを黒豹は舌でぞりっと舐め上げた。

ぞり、ぞり、ぞりとはっきり聞こえる舌の音が耳朶を打つ。
服の中で獣の息が篭っていくと恐怖で強張っていた身体が徐々に違う動きに変わっていった。
舐められる度に痛さで竦んでいた筈の身体が違う刺激を呼び起こされてビクンと跳ねる。
覚えのない感覚に包まれて、吐き出した息が熱いことに綱吉はうろたえた。

「あ、あ…」

自分でもはっきり分かるほど膨らんでいる乳首に声を上げる。
硬くしこったそこを確かめるように黒豹の舌が這い、次第に下肢に熱が溜っていく。
男でもそこを刺激されれば気持ちがいいのだと知った。

舐め続けていた片方から舌を離した黒豹はもう片方にも舌を這わせる。期待に震えていたそちらは一舐めで形を変えてぎゅっと尖る。
なんでこんなことを獣がするのか理由が分からない。
けれどいまだ逃げられないのも確かだ。

怖さにではなく気持ちよさで腰に力が入らなくなった綱吉は、それでも黒豹の卑猥な舌から逃れようと足を蹴って横へと身体を捻った。
それにううううっと唸り声を上げると黒豹は脇腹の柔らかい肉に歯を立てる。
食い千切られたくはないと慌てて動きを止める綱吉に獣はまたも舌を這わせてきた。



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