7.「う゛ぉぉい!泣いてちゃ分かんねぇだろうがぁ!いい加減に泣き止め!」 「ううううっ…ひどっ、スクアーロさんまで…ひっく…ううううっ…」 「怒ってねぇぞぉ!本当だぁ!」 えずくオレの周りでワタワタと慌ててご機嫌をとるスクアーロさんに、弱いと知って上目遣いで懇願する。 ザンザスさんといい、スクアーロさんといい昔からこれでお願いすると何でもいうことを聞いてくれたもんだ。 「…それじゃあしばらく泊めて下さい。」 「それは…お前酷いぞぉ…」 何のことだろ? 今から1時間ほど前の出来事だ。 色々あったけど、身も心も恋人同士になったリボーンといつものように俳優の仕事のために撮影現場へと向かおうとしたときのこと。 車のキーを握って、さあ行くよ…と声を掛けようとしたらすでにリボーンの姿はなく、慌てて外にでればタクシーに乗り込むところだった。 「ちょっ…!何で一人で行くの?!」 「…今日はついて来なくていい。来るんじゃねぇ。」 「どういうこと?…今日の撮影にはあの女優がいるよね?それに関係があるの?!」 「関係ねぇ。行って来るぞ。」 そう言うとタクシーを出していってしまった。 呆然としたのは当然だと思う。 だってあの時も何でもないって言ってたのに。 置いてきぼりにされたことと、まだ隠している何かがあることにムカついて飛び出してはみたものの、どこへ行っても連れ戻されることは必至だった。 だから、あいつが知らないところへ行ってやろうと思ったのだ。 幸いにもスクアーロさんのマンションを知るのはザンザスさんの事務所とオレだけ。 ザンザスさんはそういうのには無頓着というか、スクアーロさんが迎えに行くのが当たり前でマンションは知らないと聞いたことがある。 隠れるにはうってつけだった。 「と、言う訳でしばらく匿って下さい!」 「…」 深〜いため息を吐かれた。 これがザンザスさんなら有無を言わせず別れさせられることだろう。あの手この手と手ぐすね引いて待っている節がある。 スクアーロさんはといえば、オレの頭をわしゃわしゃと掻き回すと好きにしろぉ…と言ってソファを立っていった。 想像通りの小ざっぱりとした室内は居心地がいい。 何も持たずに飛び出てしまったから明日には帰らなければならないのが残念なほど。 ソファに置いてあるクッションを掴むと抱き込んで転がった。 考えれば考えるほどムカつく。 何もなければオレが行ってもいい筈なのに、置いていくってことは何かあるっていうことだ。それって何だ。 うーとクッションの端を噛んでいると、スクアーロさんがお茶を手に近付いてきた。 「…いい匂い…ダージリン?」 「そうだぁ…なあ綱吉。お前、リボーンのヤツに理由は聞いたのかぁ?」 「聞いてない。…っていうか、教えてくれないんだって!」 またもため息を吐くと、銀髪をガリガリと掻いてあのクソガキに塩を送るつもりはねぇが…と口を開いた。 「その女優はなぁ、あいつみたいな生意気な野郎じゃなくて、お前みたいなのが好みだぞぉ…」 「はっ?…あの女優のマネージャーが、じゃなくて?」 バツが悪そうに彷徨わせていた視線をオレに合わせると、苦笑いの顔で話してくれた。 「あの女優の事務所とうちの事務所が懇意だっていうのは知ってるかぁ?」 「う、うん。」 「お前、高校生の頃に一度だけうちの事務所の記念パーティに出たことがあるだろう?その時からお前を狙ってたらしいぞぉ…」 「…どうしてそんなこと知ってるんですか?」 う゛っ!と言葉に詰まるスクアーロさんに詰め寄って下から覗き込む。 絶対何か知ってる。 じーっと睨んでいるとほとほと困ったといった顔でザンザスには言うんじゃねぇぞぉ…と言って折れた。 「あの時、お前はザンザスにずっとくっ付いていただろう…それを見てザンザスに言い寄ったらしい…それ以上は知らねぇ…」 「…」 つまり、オレと知り合いたいがためにザンザスさんすらダシに使おうとしたってこと? ……っていうことは。 「リボーンが毒牙にかかっちゃうかも!?」 急いで仕事場に行かなきゃ、と立ち上がるとハシッと腕を掴まれた。 「そっちじゃないだろうが!お前があの女優のいるところに居ると気が気じゃねぇんだろうよ。」 「オレ、浮気しないけど…?」 「そういう問題じゃねぇだろうなぁ。あの毒婦…どんな手を使ってでもっていう怨念を感じたぜぇ…」 ゾッとしない話だ。 大体、あれから5年は経っているのにまだ狙われてるんだろうか。 女の人だと思うせいかそういう気持ち悪さはないけど、それでもリボーンは嫌なんだ。 「嬉しいかも…」 赤くなった顔を見られたくなくて、クッションに顔を埋めているとスクアーロさんがはぁぁ…と魂まで抜けてしまいそうなため息を吐いた。 「あんなガキのどこがいいんだか…」 「全部だよな?ツナ。」 ガチャリと扉が開いて入ってきたのはリボーンだった。 えええぇぇえっ?! 「どうしてここが…?」 「ツナの考えてることなんざお見通しだぞ。ああ言えば多分雲隠れすることも、こいつの家に転がり込むこともな。」 「だって…分かったとしても、どうしてスクアーロさんちが分かったの?」 カツンカツンと音を立てて近寄ってくるリボーンに呆然としているとその顔を見てニヤリと笑われた。 「オレが本当はボンゴレの幹部だって知って聞いてるのか?」 そういえば。 手を叩いて納得した。こいつのことだからオレが実家に戻らないことも、ザンザスさんのマンションに行かないこともお見通しだったのだろう。 山本という手もあったのだが、リボーンが身内以外の男のところに出入りするのを酷く嫌がっていたので仕方なくスクアーロさんのところへ来たのだ。 「…ついでに言うとな、こいつは身内じゃねぇだろうが!」 「えぇ?!身内みたいなもんだよ!ね、スクアーロさん!」 「う゛う゛、おお。」 振り返ってスクアーロさんに同意を求めると、何故か視線がフラフラしていた。 疚しいところがあるかのように。 どういうことだろうかと考えていると、リボーンに頭を叩かれた。痛い。 「何すんだよ!」 「それはこっちの台詞だぞ。間に合ったからいいようなものの…」 そこから先は小さな呟きだったためによく聞こえなかった。 「焼きもち?」 「…っ!そうだ……そういう男は嫌いか?」 顔を覗きながら訊ねると、不貞腐れたように視線を下へと向ける。 そんな様子にこっそり微笑ましく思うと、リボーンの手を掴んで立ち上がった。 「内緒。」 「ツナ…」 スクアーロさんに挨拶をしてマンションを後にする。 エレベーターに入る前にリボーンに捕まって腕に閉じ込められた。 軽やかな音を立ててエレベーターが到着したことを知らせる。 リボーンの腕からすり抜けると、その腕を取って中へと引き込む。 「…オレも焼きもち妬いてたのは知ってるだろ?でもリボーンが焼きもち妬いてくれてるとは思わなかった…だから嬉しかったのは、内緒。」 「ツ…」 オレに向かってきていた顔に手をやると、リボーンの口のある部分に手の上からキスをした。 「そういうのも内緒、な。ふたりだけの秘密でいいだろ?」 丁度いいタイミングで扉が開き、オレは固まったままのリボーンを置いて外へと駆け出した。 向かうは愛車。 ミニのドアを開けると後ろから車の中へ押し込められた。 「ちょ…!」 「この中はふたりっきりだからいいんだろ?」 座席に押し付けられて上からリボーンの顔が近付いてきた。 観念して目を瞑る。 本当はオレもしたかったから。 終わり |