リボツナ2 | ナノ



1.




5月の連休といえばゴールデンウィークだろう。
勿論シーズン真っ盛りに撮影なんぞ望めるべくもないので今は5月の半ば。
白い雲、青い空はそろそろ初夏の気配を覗かせている。
肌を撫でる風は爽やかで、これが撮影に付いてきているんじゃなければウキウキと心弾むのに。



オレは大学をどうにか卒業し、アルコバレーノどもは高校生へと危なげなく進級した。
多少足りない出席日数も補習を受けることを条件にクリアして、成績は5人とも問題なし。オレと大違いだって…大きなお世話だ。

年が明けてから始まった共同生活にも慣れ、オレの心配を余所に何事もなくここまできていた。
よかった筈なのに何故だかもやもやする。

ちらりと視線を向ければ、楽しそうに談笑する華やかな集団。
あたりまえだ、撮影用のメイクを施している俳優女優が撮影の合間にそこに集まっているのだから。

リボーンはオレがマネージャーに戻ることを条件に俳優業を続けることになった。
アルコバレーノを続けながらの俳優業は、はっきりいって寝てる暇もないくらいだ。
だから必然的にリボーンの移動手段確保のためにオレは付いて回ることが多くなり、結果こうして居たくもない撮影現場の隅にいる羽目に陥っている。

「よろしかったらどうぞ。」

向こうを見て重いため息を吐いていると、ひょいっと伸びてきた腕から差し出された紙コップが目の前にあった。びっくりして横を向けば、リボーンと非常に仲良くしている女優のマネージャーさんで、オレより5つか6つは上だろうと思われるデキル男風の顔がにっこりと笑い掛けていた。
紙コップをありがたく頂いて、その嘘くさい笑顔に適当に応えているとオレの横に座ってきた。

「うちのタレントとそちらのタレントは仲良くなったみたいですね。」

「…そうですか?」

どう見てもそっちの女優が勝手にお熱になっているんじゃないの、とは言えないのでそら惚ける。すると身を乗り出してそうですよ!と近寄ってきた。
爽やか過ぎて似合っていないトワレの香りが近付いてきて、思わずうぇっとなる。
相変わらずリボーンとザンザスさん以外の男は苦手だ。
さりげなく身体を離すが何故かにじり寄られて気持ち悪さに泣きたくなった。
どうやって逃げ出そうかと思っていれば、向こうにいたリボーンがオレを呼んでくれた。

「ツナ!」

「うわっ、何だよ。今行くー!…すみません、また。」

おざなりに頭を下げると、慌ててリボーンへと駆け寄っていく。
うううっ気持ち悪っ。何でオレんとこに近寄ってきたんだろ。
呼ばれてよかった〜!
駆け足でリボーンへ近付くと、先ほどの男がマネージャーをしている女優からポンと肩を叩かれた。

「気を付けた方がいいわよ。」

「へ?」

「うちのマネージャー、君みたいな子がだぁい好きなの。」

「オレみたいって…」

「ちっちゃくて、可愛い、男の子。」

聞いた途端、怖気が立った。やめて欲しい、オレは立派に成人した大人なんだ!少なくとも男の子でもなければ可愛くもない。
自社の女優に性癖をバラされているとは知らないマネージャーは、こちらを未練がましく眺めていてその視線は舐めるようにこちらを見ていた。
気持ち悪さに腕を抱え、慌ててリボーンへの後ろに隠れる。

「チッ、次からは来なくていいぞ。」

忌々しげに女優のマネージャーを睨むリボーンの横顔を見てびっくりすると同時にもやもやが強くなった。
来なくていいっていうのは、オレを変なヤツから離したいだけで他意はないと分かっている。
決してこの女優と2人きりになるとか、そんなことじゃない筈なのに。

こんなことを考え出したのは、つい先日のこと。
そういえば去年の年末の女遊びについてはすっかり聞き忘れていたことに気が付いた。
うまいこと交わされて答えていないということに。

向こうを睨む横顔をじっと見詰めていると、それに気が付いたリボーンがオレの顔を覗き込む。
いつもの色気の滲む目元がふっと和らいで愛おしそうにオレを包む。
知ってる。
こいつは女の人には誰にでも優しいことを。だから勝手に相手が入れあげて勘違いするのだ。
分かっていても納まらない腹の虫のせいでプイッと横を向くと、頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。

「先に帰ってろ。」

「…嫌だ。もうちょっとだろ?今まで待ってたんだし、今帰ったら待ってた意味ないじゃないか。」

さっきのヤツは気持ち悪いけど、今度は一人にならないように他のスタッフといるからと言えばしぶしぶ待つことを許可してくれた…って、オレの方がマネージャーなのに何でお前の許可がいるの。
失礼なヤツだとは思ったが、心配してくれているのは確かなので黙って頷いておいた。

……決して、あの女優と2人きりになるんじゃないかなんて思ってないんだからな!






あまり上手ではない主演女優のお陰でリテイクを何度も喰らい、気が付けばあれから3時間は経とうとしていた。
辺りを見れば夕日に染まっていく空に、今日はここまでだと監督が撮影を打ち切った。
リボーンの撮りは終わっていて、ここから先はもう撮影に出ることもない。
だからだろう、主演女優から先ほどの女優まで色々な女優から果てはアルコバレーノのファンだという俳優にまで捕まって、結局帰れたのは夕方をとっくに過ぎた夜と言われる時間になってからだった。

他のメンバーには撮影に時間が掛かることもあると言ってあるので、夕飯は各自済ませるようにと言ってある。

「久しぶりにどっかで食べていく?」

「そうだな…だったらこの前九代目と行ったあそこはどうだ。」

「…予約入れないと入れないとこじゃなかった?」

かなりの人気店だった筈で、予約はいつも一杯だと聞いたことがある。
ムリだろと言おうとして気が付いた。

「ひょっとして予約取ってあるんだな…」

通りで家から出るときにデニムを履くなとか、こっちの革靴がいいとか煩かった筈だ。
ちらりと横を見ると、ニヤリと笑ってこちらに視線を注いでいる顔が。
何だろう…なにか嫌な予感が…

それでも先ほどから空腹を抱えているオレには、予約が取れていてすごくおいしいことを知っている店に行くことを拒否することはできなかった。


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