リボツナ2 | ナノ



2.






●何処に行くにもスウェット


首に捲きつかれて少しあの世への入り口を見てきたツナだったが、どうにかリボーンの腕から逃れることに成功しテーブルの上に突っ伏していた。

「おはようございます、ツナさん。」

「おはよう。よく眠れたみたいだね。」

「ええ、先輩が居なかったので。って、何でもう戻ってきてるんですか?」

「…わざとらしいぞ、パシリのくせに。しかもなんだ?そのだらしねぇスウェットは。」

「パジャマですよ!」

「ハン!パジャマっつーのは前ボタンがあるヤツのことだぞ。ついでにナイトキャップも忘れんな。」

「あんたの趣味は聞いてない。」

喧々囂々と頭の上で行き交う言葉を聞きつつ、のろのろと頭を上げたツナは不思議そうな顔でリボーンを見る。

「リボーンはスウェット苦手なの?」

「あんなもん、パジャマでもなければ洋服でもねぇだろ。好きも嫌いもあるか。」

「ふ〜ん。」

それを聞いたツナはバツが悪そうに視線を横に逸らすと麦茶を口に含んで曖昧に言葉を濁した。

「なんだ?」

「や、別に休日は一日中スウェットだなんて言ってないよ。」

「…どこにある?」

「ふん?いつもの洋服箪笥の一番下に…」

告げるより早くリボーンが駆けていき、その行動の意味に気付いたツナが気付いた時にはすでに燃えるゴミとして廃棄されていたという。



●ドメスティックバイオレンス


ランニングから帰ってきたコロネロに朝食の支度をしていると、昨日の例の紙が貼り付けてあった冷蔵庫からひらりと落ちた。
それを拾うと、手を合わせて食べ始めたコロネロの前に座って何気なく訊ねた。

「コロネロって好きな子いんの?」

「フグッ!!ゲホゲホ…!いいいいきなりだなコラ!」

「お、その反応いるな。よしよし…それじゃ質問。好きな子に手を上げる男ってどう思う?」

「最低に決まってんじゃねーか!」

勢いあまって叩き付けたテーブルの上で麦茶と味噌汁が零れた。

「だよな。でもお前とリボーンのじゃれあいは見ててちょっと怖いよ。好きな子の前ではもうちょっと抑えないと怖がられちゃうよ。」

「お前、どうしてオレとリボーンが喧嘩してるのか意味分かってんのか、コラ。」

「…?」

きょとんと小首を傾げてコロネロを見ている時点でアウトだ。
まだしばらくは分かって貰えそうになかった。


●カニバリズム


食事の片付けをして流しで洗い物をしていると、後ろから抱きつかれて項を噛み付かれた。

「いてっ!」

「嘘吐くな、血は出てねぇぞ。」

「出てなくても噛み付かれたら痛いんだよ!って、リボーン、痛い!痛いって!」

はぐはぐと項から首筋にかけて犬歯で何度も噛み付かれ、痛さに手からコップがつるりと滑り落ちた。
音を立てて割れたコップに思わず手が出ると指の先が鋭利なガラスの先に吸い込まれ、ぷくりと血が膨らんだ。

「いっ…」

「間抜けなヤツだな。貸してみろ。」

言うと水で綺麗に洗い流されてから腕を引かれて救急セットのお世話になる。
器用にツナの指を処置していくリボーンの指は長くて白い。
その指が触れる度に痛みが引いていくようでツナは言葉もなくそれを見詰めていた。

パタンと救急セットの閉まる音がして、やっと現実に戻ってきたツナは目の前のリボーンの顔を睨みつけた。

「お前ね、なんで首に噛み付いたの。」

「…うまそうだったから。」

「腹減ったの?お昼はどっか食べに行こうか。」

「ツナが食べたい。」

「ツナ…ツナサンド?ツナマヨおにぎりとか?」

そう訊ねると包帯で捲かれた指を握られてぐいっと引っ張られた。
痛さに顰めた顔になにかが近付いてきて、驚いて顔を上げると唇に柔らかいものが触れてすぐに離れていった。

「…?!」

「ごちそうさまだぞ。代わりに昼も作ってやる、ここも片付けとくから店を開けてろ。」

「あ、うん。んん??」

ごちそうさまの意味も分からないツナと、ツナに嫌がられなかっただけでニヤけているリボーンとが本当の意味で理解し合うのはいつだろうか。



●アイドルオタク


店を開けるといっても、シャッターではなくただ鍵を開けてたばこの看板を外に出すだけで開店となる駄菓子屋を、包帯の捲かれた手で開けていく。

看板を手にすると、横から伸びてきた手がそれを攫って運んでくれた。

「ありがとう、コロネロ。」

「おう、気にするな。それはいいが手はどうしたんだ、コラ。」

「あー…洗い物しててコップを落として切った、んだよな?」

「なんで疑問系なんだ。」

「まあ色々と。あ、そこのユウセンの電源入れて。」

途端に懐かしいメロディが流れ出す。
ツナが中学生の頃によく流れていたアイドルグループの曲だった。

「懐かしいなあ。オレ、このメンバーの〇〇って好きだった。」

「…今はオバさんだぜ。」

「そりゃそうだよ。でも今でもテレビとか出るとつい見ちゃうな。」

「アイドルオタクか、コラ。」

「違うって!酷いよ、コロネロ。そういうコロネロも好きなアイドルっていないの?」

そう問いかけると難しい顔をして腕を組んで考え込む。
ツナはいつもの座椅子に座ると、コロネロも上がり口に腰掛けて悩んだ。

「アイドル…」

「女優でもいいよ。」

畳み掛けるように言い募るとぽつりとコロネロが呟いた。

「ある意味オレたちのアイドルだな。」

「へぇ…誰、誰?」

まだ小難しい顔をしているコロネロに詰め寄ると、白い頬をポッと赤く染めて顔を背けた。

「なんだよ、教えない気。」

「その内言うからそれまでは内緒だ。」


●アニメオタク


幾人かの小学生が買い物を済ませると、ツナは立ち上がってユウセンのチューナーを弄りだした。
あまりに懐かし過ぎて知らない歌になってきていたからだ。

適当に押していると、今度はアニメの歌が流れてきた。
よく見ているアニメの曲に気分よく鼻歌を歌っていると、スカルが障子紙を手に店の奥から現れた。

「ツナさん、ここの障子も張替えましょうか?」

「ありがと!スカルはホントいい子だね。」

「…トラウマになりそうなんでやめて下さい。」

いい子と言われて喜ぶのは小学生までだろう。特に好きな人にいわれるいい子は堪える。

それでもツナと一緒に居たい一心で障子の張替えをしていると、いきなりツナが泣き出した。

「ど、どうしたんですか?!」

「へ?あれ、ごめん泣いてたみたい。このアニメ好きでさ、特に最後がすごくいいんだよ。思い出し泣きしてた。」

「そういうことですか…びっくりさせないで下さいよ。」

ごめんなと笑うツナは違うなにかも思い出しているのか、中々涙が止まらない。
ぐしぐしと手で目を擦ると余計に目元が赤く腫れていく。

「氷持ってきますから、それ以上掻いちゃダメですよ。」

「ん…さんきゅー。」

慌てて取りにいこうと腰を上げると、ツナがポツリと呟いた。

「彼女と見に行った映画の歌だったんだ…」

聞かなかった振りをしてキッチンに駆け込んだスカルはツナには言えない一言を吐き捨てた。

「死んだ人は帰ってきませんよ。」

と。


●部屋が汚い

いつものように適当に読んだ本を積み上げていると、その隣の一山が突然雪崩を起こした。
ドドドッ…と音を立ててツナの上に落ちてくる本やCDの山々に埋もれ、うううっ!と呻いていると誰かの声が聞こえてきた。

「助けて欲しいか?」

「ううっ…リボーン?お願い上の本どかして!」

「ギブアンドテイクって知ってるか?」

あ、これは何かヤバい。といつもは鈍いツナの勘が告げていた。
それでもこの上の本が多過ぎて身動きが取れない。

ジタバタと手足を動かしていると、その手を押さえつけられて上から声が掛かる。

「てめぇは片付けがなっちゃいねぇ以前の問題だ。片付ける気がねぇだろ?」

「ある!あります!」

「嘘吐け。だったらここまで何でもかんでも積み上げるか。」

「ひぃぃい!ごめんなさい!」

「助けてやる代わりに一回オレのいうことを聞くんだぞ。」

「…なにするの?」

「それは助けてからのお楽しみだ。ついでに言うとコロネロは買出し中で、スカルは外の庭木の手入れだ。今いるのはオレしかいねぇぞ。」

「もうなんでもいいから助けて…!圧死する!」

半端ない量の本やCDが背中といわず身体に伸し掛かっていた。
早く出ないと本当に死んでしまいそうだった。
ダメだと警鐘を鳴らす勘を無視して懇願するとやっとリボーンが本をどかしてくれた。

「その言葉、忘れんなよ?」

ああ、悪魔との契約ってこんな心境なのだろうか。


●料理が全く出来ない

それでもどうにか助け出してくれたリボーンは、ぐちゃぐちゃになった本をきちんと片付けるとまたキッチンに戻っていった。
時計を見ればそろそろお昼だ。

「お昼は何?」

ひょいっとキッチンを覗き込むとカレーの匂いが漂ってきた。

「夏野菜のカレーだ。」

「うえぇ!にんじんとジャガイモだけでいいのに。」

苦い顔で鍋を覗くと、中には具があまりあるように見えなかった。煮込まれたのかとほっとしていると、その横で暖めたフライパンに茄子やらパプリカやらを入れて炒めはじめた。

「…それって、」

「そうだぞ、カレーの上にトッピングする野菜たちだ。」

「いらない!オレはいらないよ!」

「好き嫌いばっかりしてるからそんなにチビなんだぞ。」

「いいだろ!これ以上伸びないんだから!」

どうせおじさんだ。好き嫌いなく食べなきゃならない時代はとうに過ぎている。

「そういうのはな、喰ってみてから言え。」

そう豪語されてしぶしぶ席に着いた。
スカルは庭木を一段落つけて、コロネロは両手に荷物を抱えて帰ってきた。

4人で手を合わせてリボーンのカレーを口に入れると。

「あ、美味い…苦くないよ!」

「まあな。」

美味い美味いと誉めると、満更でもなさそうに口端を上げる。それを見ていたコロネロとスカルは何かに気付いたように固まっていた。

「てめー…胃袋から懐柔しようって魂胆か、コラ!」

「盲点でした。そう言えばお好み焼きもろくに作れないのに食いしん坊でしたね。」

「フン!今さら気付くなんてトロいぞ。ツナ、喰いたいもんがあれば言え。何でも作ってやる。」

「いいの?!」

嬉しい申し出にキラリと瞳が輝く。それを見て3人が3人、思い思いの表情を作った。

「「ちょっと待った!」」

ずずいっと近付いてきたリボーンをスカルとコロネロが引き戻す。

「朝、昼とリボーン先輩にいい思い…じゃない作らせてばかりだと悪いんで、夕飯はオレが作りますよ。」

「コラ、パシリ!てめーまでなに抜け駆けしようとしてやがる!夕飯はオレが作るぜ!」

「てめぇが作れるのは飯ごうぐらいだろうが。この家の冷蔵庫はオレが管理してんだぞ。大人しく引き渡せ。」

「「させるか!」」

今回はスカルも参加している上に譲る気もなさそうだな、と他人事のようにカレーを平らげるツナだった。



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