2.どんなことでも裏を取ることは大切だ。好きだと気が付いた瞬間から、何が何でもツナを手に入れようと決めて、それならまずはディーノとの関係を知りたくなった。 昼休みに入り、いつもは諸事の煩わしさから逃れるために生徒会執務室に隠れるのだが、今日はディーノを掴まえようと職員室へと向かっていれば、それに気が付いた女子生徒からいくつもの「差し入れ」を押し付けられた。家庭科の教師は何を考えてこんな弁当を作らせる授業をしているんだ。合計5つもある弁当を手に、それでもディーノを掴まえるべく歩いていくと丁度ツナが前からトボトボ歩いてきた。 手にはひとりでは食べきれないほどの弁当。目の前には手に入れたい人物。ふと、これを餌に自分のテリトリーに連れて行こうと思い立った。 ディーノには夜にでも電話すればいい。本人がディーノをどう思っているのかを知りたかった。 隣を歩くミルクチョコレート色のふわふわの髪の毛を見詰めながら、どうやって訊ねようかと思案していると、ツナが弁当を必ず一口は食べることと言い含めてきた。その言葉の裏にある誰かの存在を嗅ぎ取って、ついポロリとディーノかと訊ねてしまった。驚いた表情のツナは、否定しながらもそれは高校・大学時代の親友の話であることを教えてくれた。だが、やはりディーノのことを勘付かれこちらも白状する羽目となった。 覗き見していた訳ではないが、必然的に覗き見することになった場面を思い出して眉根を寄せていると、期待以上の慌てっぷりで否定してくれた。 その様子にまだ何もない先輩後輩であることは知れたが、だからといってディーノも同じとは限らない。ツナに懸想していやがったらどうやって抹殺してやろうかと考えていたのだが、それが漏れてしまっていたらしい。ツナが少し引き攣った顔をしていた。 そんな会話をしながらも、生徒会執務室へと連れ込んだ。 物珍しさにか室内をキョロキョロと眺めるツナを、相手にバレないようにと注意しながら視界の端に入れていた。ソファは祖父宅からのおさがりで、若干見た目が汚れているが座り心地はいいそこに恐る恐る腰掛けて固まっていた。おおかた今まで座ったことのあるソファと比べてびっくりしているのだろう。そんな姿も可愛くて、つい気が緩んでしまったようだ。弁当を広げ、お茶を用意してツナの気をほぐしてからと思っていたのに、こちらを見るツナの顔が赤く染まる様にまだ早いと止める理性を裏切ってぷっくりと柔らかそうな淡い色した唇へと重ねた。 ゆっくりと離しても、大きく見開いた瞳は瞬きを繰り返すだけで、嫌だとも気持ち悪いとも言わない。慣れているのだとそう思った。この程度は慣れっこだとするならば、一体どこまで平気なのか。知りたいと思う傍から誰とも知れぬ相手に対する激しい嫉妬が湧いてきた。 はじめての執着を、止める術を知らなかった。 翌朝は教えてやった通りに一本前の時間のバスに乗り込んできたツナを、担任だという気概のために声も出せずに堪えるだろうと思った通りにオレの手の動きに堪えた。羞恥とふと過ぎる快楽とに染まる頬を堪能してバスを降りると教師らしくもうこういことはオレのためにならないからやめろと強く言い切り、振り返らずに歩いていった。これも計画通りだ。それから何食わぬ顔でSHRは出てツナをホッとさせてから、生徒会執務室へと篭った。 3時限目が終わり、そろそろ異変に気付くだろうかとコーヒーを淹れて待っていれば、ほどなくしてツナが慌てた様子で飛び込んできた。それを見て、わざと余裕ありげにコーヒーに口を付ける。 オレがここにいたことに胸を撫で下ろしたツナは、けれどまた硬い表情でオレの前へと座ると教師らしく諌めに掛かってきた。昨日のキスも、今朝の愛撫も忘れましたと言わんばかりのその態度を崩したくて、ネクタイで縛り上げてソファの上に転がして、胸の先を弄ると甘い声を上げるツナに余計に嫉妬を募らせた。 どこまでされることに慣れているのかが知りたくなって、ツナの立ち上がる起立を口に含むと、それは初めてだったらしいツナが本気で止めて欲しいと哀願してきた。欲に濡れても尚立場を忘れないツナに、苛立ちは募るばかりだ。 ヤるつもりで持ってきたのは確かでも、どこかで止めてやろうと思っていた筈だった。それさえ忘れてコンドームをわざわざツナの顔の横に放ったのは、これを着ける意味を…男同士でもできるんだと知っているのかを知りたかったからだ。 それを視界に入れた途端、快楽を追っていた身体が強張った。 知っているのだと分かり、身を持って知っているのかと誤解した。 初めてだと知ったのはツナの最奥へと自身の高ぶりをおさめてからで、互いに高ぶった起立は吐き出さないとどうにもならない状態にまでなっていた。 やっと冷静になれた頭は、ここまでの経緯を追って焦った。「強姦」という二文字が脳裏を過ぎり、失態を知る。 ここまで何も見えなくなるほどの想いに捕らわれたことなど一度もなかった。 組み敷いたまま、いまだ奥へと進みたいと余すところなく知りたいと泣く自身に突き動かされて、今度はゆっくりと腰を動かすと熱い吐息を吐いてそれに答えるツナ。 止める筈が止められず、出た言葉はガキ大将のような拙い台詞だった。 新聞を目の前に広げてはいても、文字を追うことなく上滑りしていた視線の前ににゅっと手が現れる。 ひらひらと振られるそれに顔を上げるとツナがエプロン姿でこちらを覗き込んでいた。 「…どうした?」 「それはこっちの台詞だって!何回呼んでも返事しないからどうかしたのかと思ったよ。」 肩を竦めるその姿には、いままで思い浮かべていたような色気は感じられない。普段は色気の欠片さえないツナは、なのにキスひとつで滴るような色香が漂う。そのギャップを最初は知らなくて、いらない嫉妬をしたものだ。 「にしてもさぁ…このエプロン、本当に元々あったヤツなの?」 といって白いエプロンの裾を指で摘む。ひらひらした幅広のレースが妙にツナに似合うそれは、勿論ツナのために用意したものだ。欲を言えば下は何も身に着けていなくてもいい。 それを言ったら蹴り倒されかねないので、今は口を噤んでいよう。見れても触れないうちは。 どうしたんだと訊ねると、そうだった!とやっと本題に入った。 「ニョッキ作ろうと思ってたんだけど、これはお前の方が上手かったからお願いしようと思って。」 「…まだ硬さがどうこうとか言ってんのか?」 「うー…だって、それが大事なんだよ!舌触りとか歯ごたえが違うし。」 「まぁな…」 少し前を歩くツナの耳元が目に入り、つい悪戯したくなった。 人差し指と親指で、ツナの耳たぶを摘んで耳元へと声を落とした。 「こんくらい柔らかけりゃいいんだぞ。」 「ひゃ…!」 ぱっと耳たぶを離してやると、ツナが奇声を上げて床にへたり込む。 「リボーン!」 「何だ?」 顔を真っ赤にして睨むがちっとも迫力がない。耳たぶを触られて、声で感じてしまったのだろうツナの瞳は潤んでいる。 「これもダメなのか、センセイ?」 「…意地悪…バカ…スケベ!」 「誰がバカだ。最後はその通りだが、最初のはお前にだけだぞ?しかもお前が焦らすから悪ぃ。」 きっぱり言い切ってやると、そういうところがバカ…と益々顔を赤らめて俯いた。 「そろそろ解禁してくれ。」 「ダメ!だってまだ受験あるだろ…?」 一年という縛りが少しづつ緩んできている。しかも理由がそれだと無いに等しい。うちの学園は大学まではエスカレーターだ。外部受験もできるが、今のところは考えていない。しかも成績も素行にも問題はない。 ニヤリと笑うと座り込むツナの横にしゃがんで顔を近付けた。 「それなら今からでもいいんだな?」 「ななな…なんでっ?!」 ジリジリ寄ると同じだけ下がる。キッチンの扉に肩が当たるとツナの身体がびくりと強張った。 「うちはエスカレーターだぞ。知ってて言ってんのか?」 「ししし知らないっ!つーか、忘れてた!!っっ!それ以上はダメ!まだダメったらダメ!」 もう少しでツナの顎に手を掛けられるところでストップが掛かった。 涙目で睨むツナには弱い。 手を下ろすとあからさまにほっとしたツナが、オレから距離を取りながら立ち上がって手を差し伸べてきた。 「ニョッキ…作ろ?」 「…それを言うなら作って下さい、だろ。」 やっぱり今日もまた負けた。 . |