リボツナ2 | ナノ



その2




中学生の内なんてあの子が可愛いだの、この子のどこそこが好きだの、そういった話題には喰いつきがいいものだ。
例えば何組の誰それと誰がくっ付いたとか。

そんなくだらねぇ話にへぇ〜なんて相槌を打っては持参した弁当をつついているツナと、運動部の情報網をそれとなく面白可笑しく話してはツナの視線を釘付けにする山本。
それを面白くなさそうな顔でツナの横に張り付いてパンを齧っているのは獄寺だ。
オレはといえば、どうでもいい話題に適当に相槌を打つふりをしつつ目の前のツナの口許を凝視している。

この目の前にいる鈍感な相手の想い人を知りたいとは思う。
いや、一々聞かなくても分かってはいる。
同じクラスの笹川京子だということは。
だけどその好きはまだ強い欲望にまで昇華しきれていない、淡い綺麗な想いのままの筈だ。
その筈だというのに、最近妙に可愛いのだ。
惚れた欲目というやつとはまた別だと思う。返事を返す声だとか、笑い掛ける表情だとか、キラキラ眩しいくらいだ。

誰に恋しやがったんだ、このダメツナが。

リボーンの目の前で弁当をぱくつく沢田綱吉通称ダメツナは、やっと口許を凝視するオレの視線に気が付くと何を勘違いしたのかカニさんウインナーを箸で挟んでオレの口まで運んできた。

「?欲しかったんだろ?ほら、あーん!」

違う。とは言えなかった。
だったら何見てたんだよ?と聞かれるのがオチだ。
まさか言えまい。箸を口にするその瞬間を見てムラムラしていたなどと。
言ったが最後、この『友達』という位置さえ消えてなくなる。

だからいつものように顔を作って何でもない表情で口を開く。
パクリとカニさんウインナーを食べると、途端にツナの顔が真っ赤に染まった。
ツナの手から離れた箸はカランと音を立てて床に落ちる。慌てて拾うツナに声を掛ける暇もなく、目も合わせないまま箸を拾うと水道へと駆けていってしまった。

獄寺と山本を見ると、微妙な顔をしていてこの状況を快く思っていないことが読み取れる。
ツナ命の獄寺なのに今日は付いていかないことを不審に思ったが、オレが箸に口を付けた途端に様子がおかしくなったツナを覗きに行くことにした。


教室を出ると、すぐそこの水道で箸を洗っていたツナの姿が見えた。
勢いよく流れる水道の下で、思い切りよくざぶざぶ洗っていた。あれでは他の音も聞こえまい。
ゆっくり近寄るとぶつぶつと声が聞こえてくる。

「…オレのバカっ…!あんなことしたら気付かれちゃうだろ!」

いまだ真っ赤に染まったままの顔で、半ばやけくそのように洗っている姿は鬼気迫るものがあった。だが、聞き捨てならない一言にオイと声を掛けると。

「ひゃう…!ななな、何?リボーンどうしたの?」

怪しい。
やはり先ほどの呟きはオレに関係していたのか。
視線を合わさないツナに近寄るとその分逃げられた。
また追う。また逃げる。追う。逃げる…と繰り返していく内にツナの肩が壁にぶつかる。
哀れなほど動揺しているツナを逃がさず、間近に寄ると先ほどより顔が赤くなった。

「リボ…ちか、顔近い…!」

「つべこべ言うんじゃねぇ。何隠し事してやがる、吐け。」

「してな…」

「オレが箸に口を付けた途端に動揺したと思えば、今の独り言はなんだ?バレるって何のことだ、すぐにバレることなんざ今すぐ吐け。」

「ううううっ…」

詰め寄られて赤くなった顔が、今度は泣きそうになっていった。
虐めたい訳じゃない。
ただ知りたい。
最近のキラキラの訳と繋がると勘が告げている。
だから追撃の手を緩めず畳み掛けると、泣きそうな顔をしていたツナが眉に力を入れて振り仰いだ。

身長差15センチ。
上目遣いになるツナの視線にドキリと胸が弾んだ。

「…き…」

「聞こえねぇな。」

「…ううっ…すきって言ったんだ、このサド野郎!!」

言ったと同時にダメツナとは思えないスピードで駆け出した。
オレはその背中を呆然と見詰めるだけ。

だってお前、今何つった?
すき、だとか言わなかったか。…幻聴か?このオレ様が片思い歴2年なんていうありえねぇ記録を昨日樹立した記念か?

だがそれすらどうでもいい。

幻聴だとか、白昼夢だとかそんなことよりも。
真っ赤になった顔でポロポロと涙を流していたツナを追いかけなきゃ男じゃねぇ!


ツナの逃げる場所なんてたかが知れている。
保健室か音楽準備室か、屋上だ。

保健室には保険医がいて、音楽準備室に逃げ込むには鍵がいる。
そうすると鍵の掛かっていない屋上しかない。



建てつけの悪い扉をギィーという音を響かせて開ける。
すると膝を抱えて小さくなっているツナの背中が見えた。

オレの気配に気が付いて、逃げようか無視しようかと迷っている背中だ。
逃がすか、ダメツナが。

後ろから肩を掴むとグィっとそのまま押し倒す。
まさかそうこられるとは思っていなかったらしいツナは、赤くなった目をいつも以上に大きく見開いていた。

「気分はどうだ?」

「サイアクだよ…」

不貞腐れたように顔を背けるツナの顎を取るとこちらを向かせる。

「そーか?オレは最高に気分がいいぞ。」

「なに言って…」

「両想い、なんてな。」

ニヤリと笑って言えば、たっぷり1分は目を見開いたままオレの顔を眺めているツナ。
恐る恐ると言ったようにえーと、と呟きはじめた。

「何かの冗談?」

そう来たか。

寝転がるツナの上に覆い被さると掴んだままの顎を固定して顔を近付けていった。
あとほんの数センチ…と、いったところでツナの手に邪魔される。

「おまっ…あぶ、危ねぇ!くっ付くとこだっただろ!」

「くっ付けようとしてんだ、邪魔すんな。」

「ななな…」

オレの口を塞ぐ両手を取り払うと、観念したようにぎゅっと目を瞑る。真っ赤に染まった顔は恥ずかしさと不安げな様子を窺わせながらもどこか期待しているような艶っぽさに彩られていた。
ゆっくりと顔を落としていった先の触れた唇はふわふわとして柔らかく、そしてちょっとウインナーの匂いがした。

触れた分と同じだけの時間をかけてゆっくり唇を離すと、長い睫毛がゆっくり開いていく。大きい瞳がオレの姿を捉えるとふっと恥ずかしそうにはにかんだ。

「好きだぞ。」

「…オ、オレも…」

やっと通じた想いの丈を、ともう一度顔を近付けるとまた手が邪魔をする。

「……何で拒みやがる。」

「ダ、ダメだって!まだ早いって!」

「早かねぇだろ。」

「早いよ!だってラルが中学生の内はダメだって…」

「ラル?」

嫌な双子の片割れの名前を聞いてピンときた。

なるほどな。
ひょっとしなくても、今までも邪魔してたんじゃねぇのか。

茹蛸のように赤くなっているツナに、さてどうやって誤解を解こうかと思っていれば屋上のドアが勢いよく開かれた。

筋肉バカな双子の登場だ。
片方は金髪碧眼、もう片方は黒髪に赤茶の瞳。見た目は似ていないのに性格はそっくりだった。

「っ!てめー…ツナの上からどきやがれ、コラ!」

「…どけ。」

怒鳴るコロネロを押し退けてラルが手にしていた硬球をリボーンの顔目掛けて投げ付ける。
ゴウ!と音を立てて吸い込まれるようにリボーンへと投げられた球は間一髪で避けきった。すると非常に残念そうな舌打ちが2つ聞こえる。
それでも隙を見逃さず、ツナをリボーンの下から救い出す。

「大丈夫か?だから言っただろう、こいつは見境がない色情魔だと。」

「え…見境がないって?」

「誰でもいいってことだコラ。」

「えええぇぇえ?!本当なの?リボーン!」

アホなツナは易々と左右から双子の言葉に翻弄される。
っていうかな。

「んな訳ねぇだろ。オレを信じろ!」

「……うん。」

ポッと頬を染めて頷くツナに、慌てたのは双子だ。

「気を確かに持つんだ!ツナ!」

「乗せられるんじゃねーぞ、コラ。」

「えっ?」

またも不安そうに顔を歪めるツナの腕を引き寄せると抱き込んだ。

「不安なら幾らでも言ってやる。好きだぞ、ツナ。」

「はわわわ…」

ツナには刺激が強過ぎたようで、目を回さんばかりにテンパっている。
それを見た双子はツナを取り戻そうとするが、それより早くツナを抱いたまま後ろに下がると一層強く抱き込んだ。

「「ツナを離せ!」」

「そりゃあこっちの台詞だ!ツナはオレのだ、いい加減に諦めろ!」

「「ぜったいに諦めん!」」



こうして懲りない双子と、お子様な恋人に翻弄される日々が始まろうとしていた。



終わり



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