続 7.どうにかリボーンの腕から逃れると、もう一度オーダーする。今度はココアと一緒にサンドイッチも頼んだ。 とっくに昼は過ぎているのに食べる暇もなかったから。 ケーキも頼もうかな〜なんてメニューを覗いていると、隣のリボーンから声が掛かる。 「そういえば、成績表はどうした?」 ギクリ。 忘れていればいいのに、しっかり覚えていたようだ。 でも大丈夫、成績表ならコロネロの車の中に鞄ごと置いてきてある… 「げぇ!何で持ってんの?!」 「鞄から漁ったからだぞ。」 どうりで来るのが遅かった訳だ。 リボーンが手にしているのは、鞄に入れてきた成績表。 それをペロッと捲って覗かれた。 ……終わった。 あれだけ教えて貰ったのに5段階評価で2と3しか並んでいない。 2の教科は危うく冬休みに補習をされそうになったが、再テストでどうにか免れた。 チロリと横に目をやると口許がうっすらと笑っていた。 「ひぃぃい!!ごめんなさいっ!」 「…お前、オレがあれだけ教えてやってもこの程度か?マジで寝ずに勉強させるぞ。」 目線も合わせてくれない怒り様に総毛立つ。 そーっと逃げようとすると、手を掴まれて膝の上に乗せられた。 「そこの本屋で参考書を買ってやる。イタリアでも勉強だ。年明けの小テストで80点以上取ってこなかったら……」 そこで一旦言葉を切る。 オレはごくりと唾を飲み込んで真横にある顔をそっと振り返り見詰めた。 「今朝の続きをしながら勉強だぞ。限界に挑戦するのも悪くねぇだろ。」 「ムリッ!」 「しっかり頭に入ったかテストしてやるからな。入ってなかったらもう一度だ。」 「死んじゃうんじゃないかな…?!」 ニヤとイイ笑顔で一言。 「加減しながらだから平気だぞ。易々昏睡できると思うなよ。」 腹上死のフラグが立った!何で16でそんな卑猥極まりない死に方しなきゃならないの! リボーンの膝の上で、えぐえぐと泣いていると前の席のラルさんがリボーンからオレを引き剥がしてくれた。 オレより背が高いとはいえ、楽々抱え上げられてちょっとびっくりする。 すごい力持ちだ。 「オレが教えてやろうか?」 「へ?」 くいっと顎を掴まれて、顔を覗き込まれながら言われた。 少しきつめに上がった眦や赤い唇に白い肌がとっても綺麗な人だ。 顔を赤くしてドキマギしていると、コロネロはラルさんを、リボーンはオレの腕を引いて引き剥がされた。 「「その女はやめておけ。」」 何故かステレオでリボーンとコロネロに言われてきょとんとする。 どうして? 顔に出ていたのだろう、リボーンがオレを椅子に座らせながら話してくれた。 「その女は元々軍属でな、教官をしていたんだが…スパルタで有名だったんだぞ。コロネロを見れば分かるだろ?そいつに逆らえねぇのは身体に染み付いた教育の成果ってヤツだ。」 「えええっ?!」 こんな綺麗な人が軍人さんだったの?しかも教官ってことはかなり優秀ってことだ。 ちらりとコロネロを見ると酷く嫌な顔で首を横に振っている。 なんだか幼き日のコロネロの苦労が滲み出ていた。 「悪いことは言わない、止めとけ。」 「…う、うん!」 冷や汗を掻きながら首を縦に振れば、ラルさんがチッと舌打ちしていた。 ひょっとしてリボーン並みのドSだったりして… オレって、見た目はいいのに変な人にばっか好かれるのは何でなのかなぁ。 コロネロとラルさんと別れ、搭乗手続きを済ませるために移動する。 手渡されたチケットとパスポートに胸が弾む。 「イタリアは初めてか?」 「うん!」 と言うか、海外旅行が初めてだ。それなのに何故かパスポートが用意されていた。父さんが海外に出張してるから、何か在った時のために作ってあったんだよな。きっと。…そう思いたい! こっそりため息を吐いていると、横からもため息が聞こえてきた。 「な、何…?」 先ほどの成績のせいかとバツ悪く窺うと、またもため息が漏れた。 「お前がもっと頑張らねぇと、奈々と家光に示しがつかねぇ。」 「何で?!」 「バカか、決まってんだろ。住み込みでカテキョーしてこの程度なんだぞ。」 ううううっ…オレのバカな頭のせいでリボーンの立場が悪くなっちゃうのか。どうしよう。 このままだと別れるとか言われたら…オレ… 想像しただけで涙が滲んできた。 スンと鼻をすすると、リボーンが驚いた顔で覗き込んでくる。 「何泣いてやがる。」 「だっ、て…リボーンとまた離れるのはヤだ。」 「…お前、どこをどんな風に考えたらそうなるんだ?ったく、しょうがねぇヤツだな。」 滲んだ涙をハンカチで手荒く拭かれる。最後に鼻まで拭かれて、ぎゅっとつままれた。 「痛たっ…痛いってば。」 「当たり前だ。痛いようにやってんだからな。」 つままれたままで、顔を覗きこまれる。 うん?何だか妙にイイ顔になってるんだけど… 「そんなに離れるのが嫌なら、ずっと傍に居られるようにするか?」 「へ?どうやって??」 背筋を這う悪寒に、急き立てられるように尋ねた。 「何、このままイタリアに永住すればいいだけの話だ。奈々と家光には嫁に貰ったと電話しといてやるぞ。やっぱり指輪が欲しいな。あっちで買うか。」 「……」 冗談だよな?目が笑ってないけど、冗談なんだよな?! いつもの際どい冗談だって誰か言ってくれ! 「学歴は問わないから安心して嫁いでこい。これで学校にも行かなくて済むぞ。」 「ごめんなさい。頑張って勉強するから帰して下さい!」 「遠慮するな。オレは甲斐性もあるからな、幸せにするぞ。」 「って、聞けぇ!」 死ぬ気で勉強したツナが新学期でのテストではすべて80点以上だったというのは、その後のお話。 今は、リボーンに腕を取られて望んでいないバージンロードを歩かされている気分のツナだった。 終わり |