12.夕食の支度をしながら差し入れのサンドイッチを作って、少し具とパンが馴染むまで置くこと15分。さすがに二斤分ともなると量が多くて切るのと盛り付けるのが大変だったけど大皿に乗せて持っていく。 二階に上がると自動扉でもないのにリボーンの部屋の扉がひとりでに開いた。 「待ってたぜ!」 とそこから顔を覗かせているコロネロさんが開けてくれたらしい。 つーか足音聞き分けてんの、この人。 身体を横にして中に招き入れられると、何やらレポートのような紙の束が積み上げられていた。 本当に何してるんだろう。 まあいいや…と皿とポットに入れてきたコーヒーとをリボーンに手渡す。 すると何を思ったかリボーンに髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き混ぜられた。 恥ずかしさと嬉しさに赤らむ顔を知られたくなくて咄嗟に手で払う。 「先輩相手にここまではっきり意思表示する人って珍しいですよね…」 「てめぇ何が言いたい?」 「いえ…ただ嫌がられてるのに気付かないのかと。」 バチバチと火花散る氷点下の睨み合いに呆れた。本当にこの人たち仲がいい訳じゃなさそうだ。 そう言えばスカルさんに貰ったイチゴミルクのお礼をしていなかったことに気付いた。 「あの、イチゴミルクありがとうございました。」 「ああ…あれくらい気にするな。好きなんだろう?イチゴミルク。」 「…どうして知ってるんですか?」 確かにここんとこずっとあればかり買っていたから好きなんだけど、大声で大好きだと叫ぶ訳もないし、誰かに言った記憶もない。 不思議だったので訊ねてみる。 「「「「…」」」」 けれど同じ学校の4人に微妙な顔をされた。リボーンなんかは舌打ちまでし始める始末。 何なんだ。 目をパチパチさせていると、ラルさんが声を掛けてくれた。 「そんなバカ共は放っておけ。休憩するところだから、お前も一緒に喰えばいい。」 「あ…えっと、ガンマさんまだ外で待ってるんですよね?」 ユニさんにそう尋ねたのは確認を取るためだ。いつもユニさんが帰るまで外で停まっている黒塗りの車。今日はガンマさんだったし、きっと今日もいる筈だと思ったのだ。 「ええ、待っていますわ。」 「それじゃ、オレガンマさんにも持っていきます。ごゆっくり…」 そう言って慌てて出てきたのは、何もガンマさんに会いたい一心だった訳じゃなくて、あのメンバーの空気が悪かったからだ。オレがいるとなのか元からなのか知らないけど、あの中にいたら胃にもたれそうで遠慮したい。 本当はリボーンたちが何を話し合っているのか興味がある。聞いたら教えてくれるのかもしれない。でも今は知りたくなかった。 男を好きになっちゃっただけでも最悪なのに、同じ屋根の下に住んでる兄弟をだなんてオレの手には余る。 初恋は小学校の先生で2度目の恋は中学の時のクラスメイト。そんなありきたりの淡い想いしか経験のないオレには二進も三進もいかないんだから。 小さくため息を吐くと、ガンマさんのところに夜食の差し入れをしに足を運んだ。 コンコンと車のガラスを叩く音で、ユニさんたちが帰ってきたことに気付かされた。 ガンマさんに夜食の差し入れをしに顔を出してからもう2時間も過ぎていた。 苦笑いでユニさんに謝っているガンマさん共々オレも頭を下げると、ばら色の頬をぷうっと膨らませてユニさんがオレを詰った。 「そんなにガンマが気に入りまして?」 「え…ガンマさん話やすいし。カッコいいアニキって感じで好きですけど。」 「まぁ…!罪作りな方ね。……後ろをご覧なさいな。」 言われて振り向くとユニさんとラルさん以外の男4人があからさまに不機嫌そうな顔でこちらを見ていた。 オレ何かしちゃったんだろうか? オロオロとユニさんに視線で問いかけてもツーンと知らん顔され、ラルさんに縋ると肩を竦められて見放される。 「それじゃ坊主、またな…」 「あ、はい!ユニさんもラルさんも気を付けて下さいね。」 処置なしといった様子でガンマさんがユニさんを車に押し込めて、ラルさんが素直に乗り込む。 まだふくれっ面のユニさんに手を振るとわざと横を向いていた。 こんな調子で明日は付き合って貰えるんだろうか。 それでもユニさんたちの乗った車のテールランプが見えなくなるまで見送った。 他のメンバーもほどなく帰っていって、玄関にオレとリボーンだけとなっていた。 2人きりだと意識した途端、ドキドキと煩い心臓が恥ずかしくて玄関を上がってキッチンへと向かった。 後ろからリボーンも付いてくる気配がする。 意識しないようにと思ってもだめだった。手と足が一緒に出ていないかが気になるところだ。 とにかく気を紛らわせよう。オレの。 まだ手を付けていない夕食でも食べるか、とキッチンのドアノブに手を掛けたところで肩を掴まれた。 「オイ…」 「んぎゃぁあ!!」 変な悲鳴を上げてドアノブにしがみ付くと後ろからリボーンが呆れ顔でオレを見ていた。 ううううっ…いらん恥掻いた。 「な、なに?」 あんまり機嫌がよさそうでないリボーンを振り仰ぐと、眉間に皺を寄せたままで顔が迫ってきた。 昨日の朝のアレを思い出してヒッ…と情けない声を出すオレに近付いてきていた顔がピタリと止まる。 穴が開きそうなほどジーっと見られてどうしていいんだか分からなくなってきた。 今更思い出しちゃったけど、ファーストキスはこいつとだよ。あの時はリボーンのことを好きだとか全然思ってなかったけど、よくよく考えてみれば男とチュウして嫌だとか気持ち悪いとかなかったっていうのがそもそも可笑しかったのだ。 恥ずかしいとか意外と気持ちよかっ…違う、違う!そうじゃなくて、嫌なら拒絶してた筈なのにそれもなくうっかり流されてから焼きもち妬いて気付くなんてやっぱりオレってバカ? 情けなさにじんわり涙が滲むと、何を勘違いしたのかリボーンがこちらを睨んできた。 はっきり言って怖い。 何に怒っているんだろう? 「ツナ…お前、ガンマのこと好きなのか?」 「へ…?ガンマさん?」 そこでなんでいきなりガンマさんが出てくるのかとか、好きの意味だとかを深く考えることなくうん。と頷いた。 するとリボーンの顔色が変わっていく。強張っていく表情はまるで能面のようだ。 「ユニなら…女になら仕方ねぇって思ってたのに…」 なんのことだろう?ユニさんはリボーンの『大事な人』で、ガンマさんはユニさんのお付きの人らしい。 いつも一緒にいるガンマさんに焼きもちを妬いた…にしては、何でそこでオレが絡むのか。 大体ユニさんなら仕方ないで済んで、ガンマさんだとダメな理由が分からない。 いや、そもそもリボーンはオレとユニさんが付き合っていることも快く思っていないどころかイラついてコロネロさんと話をしていたくらいだった筈だ。 「…意味分かんないよ…オレ、どうすればいい?」 何かに怒っているなら、許して欲しいと思った。 好きだなんて言えないけど、それでも嫌われたくはない。 じっと見詰める視線の先の顔が段々近付いてきた。 . |