16.リボーンのことを好きかって?そりゃ幼馴染みだし、好きだよ。 でもその好きじゃないと山本は言う。 しかも山本もオレのことをそういう意味で好きだって。 ああ!もうっ分かんねー! 山本の去り際の台詞に、デキのよろしくないお頭で色々考えてみた。 だけど全然分からない。分かりたくないってのが本当かも。 ブランコの鎖をぎゅっと握り締めていたようで、気が付けば手の平が痛くなっていた。 ふうっと、一息ついてブランコを漕ぎだす。 ギーコ、ギーコと錆び付いた鎖が擦れる音だけが公園に響く。 誰も居ない夜の公園で、考えることを放棄して一心不乱に漕ぐ。 かなり高い位置まで漕げて、空が少しだけ近くなった。 綺麗な月まで届きそうな。 「こんなところで何してやがるんだコラ!」 いつの間に居たのだろう。コロネロがブランコの横から声を掛けるまで分からなかった。 それにびびって鎖を握っていた手を離してしまう。 ベシャ、ゴン! ブランコから落ちた音と、それがぶつかった音。 あまりの痛さに声も出せず蹲る。 「大丈夫か?!」 「あてて…いってぇー!」 見事に当たった後頭部がジンジンする。目から星が出そうだ。 コロネロがもう一度オレに向ってきたブランコを止めて、腕をとって立たせてくれた。 後頭部を擦っていると、大きな手がその上から撫でる。 もう片方の手はオレを支えてくれるように腰に周り、しっかりと抱き止められた。 その仕草に身体が硬直する。 意識し過ぎだって分かっているのに、身体は言う事をきかないくて焦る。 気遣うのはオレが怪我をしていないかと思っているだけであって、それ以外はない。なのに一度そういうことを知ってしまうとどうにもうまくいかない。 それに気付いたコロネロがぱっと手を離してくれた。 そっか、コロネロが赤くなった訳がやっと分かった。意識し過ぎてたんだ。 離してくれた手にほっとすると、やり場のない手がまたオレの頭を撫でる。 大きい手の平。リボーンよりも大きいだろうか? またもそちらにいく気持ちに、胸が締め付けられそうだ。 こんなのは困る。早く戻ってくれないと、一緒に居られないじゃないか。 「何かあったのか?もう夕飯の時間なのに来ないから探しに来たぜ。」 そう言えば、弁当を持ってきてくれた代わりにオレが夕飯作るって約束したんだっけ。 それどころじゃなくて忘れてた。 「ごめんな。すぐ帰って支度するよ!」 撫でていた手を取って歩き出す。その後ろをコロネロが付いてくる。 「学校の友達が来てたみてーじゃねーか。そいつとなんかあったのか?」 びくりと揺れた肩は気付かれただろうか。 聞かなかったフリをしてそのまま歩いていく。 それに何も言わず、黙って付いてくるコロネロにいっそ聞いてみてしまおうかと思った。 トボトボ歩くスピードは遅く、居候先まではもう少しある。思い切って振り返りコロネロに視線を合わせると、その瞬間を見越したように後ろから声が掛かった。 「ったく、どこほっつき歩いてるんだ。今は変質者も多いんだから一人で夜までふらつくんじゃねぇ。」 リボーンの不機嫌そうな声。それでも走って探してくれていたのだろう、少し息が切れていた。 嬉しいなんて、思ってしまった。 鏡を見なくても分かる、今きっと泣きそうな顔になってる。 オレのその顔を見たコロネロが目を見開いて何かを言おうとし、口を閉ざした。 「悪かった。すぐに戻って夕飯作るから待っててよ。」 くるりと振り返るとリボーンの顔を見ずに駆けていく。その横を通った時の視線が物言いた気で、でも止まることはできなかった。 母さん直伝の味は上の空で作っても変わらなかったようだ。 何も言わない幼馴染み2人を、黙っていることで無視して夕食を済ませる。 おいしかったのか不味かったのかそれさえもどうでもよくて、食器を洗うとこちらを伺う2人を無視してそのまま部屋へと駆け込む。 何もする気が起きなくて、ベッドに倒れ込めば先ほどの食べかけの菓子や飲みかけのジュース、ゲーム機もそのままだったことに気付く。それでも動きたくなくて目を閉じた。 目を閉じれば眠れると思ったのに、浮かぶのはリボーンのことばかりだった。 馬鹿な、とかまさか、とか。違うよ、違う。そんなことはない。でも… 考えたくないのに浮かんできてはその度に否定して、そうすると何故か胸が苦しくなった。 コンコン 気後れしているような音を立ててドアが開く。 入ってきたのはコロネロで、見た途端にほっとした。 まだリボーンには会いたくない。 オレの寝転がっているベッドに腰掛けると、さっきぶつけた後頭部を恐る恐る触る。 たんこぶになったそこは触られると痛い。 「痛いよ。」 「オレが声掛けたせいで、悪かったなコラ。」 気にしていたらしいコロネロに、くすりと笑うと少し気持ちが軽くなったようだ。 「平気だよ。丈夫だけが取柄だしさ。」 顔を合わせると苦しそうな顔をしたコロネロにあう。 「…さっき、何か言いかけてただろう?何だ?」 改めて訊ねられると言えなくて、また黙ると顔の両脇に手を付いて覗き込んできた。 大きい身体に覆い被さられて怖くなった。 咄嗟に逃げようとして腕を掴まれ、ベッドに押し付けられる。 「友達に何言われた。」 きりりと吊りあがった碧い瞳に逆らえなくて、目を逸らす。 「…オレが…のこと好きで、そういう意味で山本もオレのこと好きだって。」 ボソボソと呟くがしっかり聞き取ったらしいコロネロが息を飲んだ。 沈黙が痛い。つーかオレもそうとうイタイ。 「…マジか?」 「分かんねーって。」 まともに目も合わせられないオレはコロネロの動きに付いていけなかった。いや、見ていたとしても付いてはいけないのだけれど。 「っ!?何??」 肩を押さえつけられ、顔が落ちてきた。あっと思った時にはコロネロの唇がオレのそれに落ちてきて、重なっていた。ふわっと触れてすぐに離されたそれ。 驚きで声も出ないオレにコロネロがはっきり言った。 「オレもお前が好きだ。」 「あ…ぇ?」 言葉もなく、ただ見詰めあうだけだった。 . |